第26話 敗北、再び旅へ
燃え盛る草原の中…俺達六人は、たった三人の勇者に身動き取れずに居た…
周りにはC組とD組の勇者達の死体が燃え広がり、中には焦げて灰に転じ様とする遺体まであった…
「ふん。あの王から軍として授かったゴミのC組とD組の勇者連中とやらを、洗脳操作という方法で操っては見たが、所詮は屑ドローン以下の畜生どもの動きしか出来ないというわけか。あの騎士団の連中並に全くもって使えんな」
西園寺の奴はそう言いながら、学生の遺体の頭をグリグリ踏みつけて潰し、下衆な笑いをしながら俺達を見下していた。
「それにしても、小川の埋めないガキとしては、俺の女の魔法を防ぎきるとは、面白いものだな。だが、そんな貴様でも白い糞鬼に転じたとは、抱くに値せん価値の無い女だ」
「ほざくのはその辺にしておけよ、西園寺。今、私は凄い機嫌が悪い」
「やれるものならやってみろ。その結界、特に解けんであろう?」
奴の煽りに、冴子は今にも斬りかかりたい気持ちが俺にも分かる。
が、今冴子の結界を解けば、奴は容赦なく俺達を一瞬で殺すだろう。
分析魔法を使わなくても、俺には分かる。
今の俺が体力が5000の魔力が4500ならば、奴は10万の破格の強さ。
戦略が無ければ、まず勝てるわけが無い。
ここは、奴の出方をよく見極める必要がある…
「キンジ。奴は何者なんだ…?」
「何…あの男…物凄く嫌な勇者の魔力を感じるわ」
「…奴の名は、西園寺勇助。元は俺達と同じ世界の人間で、俺の異母兄弟に当たる男です。ギルバートさん」
「土人に軽々しく名前を教えるでない!愚弟よ!!所詮、この世界の人間は全く使えぬゴミだからな!!いずれ、この世界は俺達の世界の資源へと変換し新たな経済を生み出す為の礎だからな!!価値の無い土人や亜人よりも、実に役に立つエルフや悪魔を生産人員として狩り立て、俺達の世界で使えない奴ら全員の捨てる為のゴミ捨て場だ!!そんな卑しい連中に余計な知識を与えては困るのだ!!」
西園寺の奴の言葉に、流石のギルバートさんが青筋立てながら剣の柄を握り、今にも奴に切りかかろうとしていたが、俺はそれでもまだ前に出るなと、彼の肩に手を掛けていた。
「…まだ止めてください。恐らく、奴も異世界に来た時に神の加護を受けて、とんでもない力を引き継いでいます」
「くっ…やはりか…」
「錦治…どうするんだよ?」
「奴の狙いは俺の首だろうよ」
冴子にそう答えたら、奴は下衆な笑い方をして俺達に唾を吐き捨ててきた。
「お前の首を取るだと!?何を言う!どれくらい強くなったか知らんが、今のお前など首を取る価値など無い!適当にこの地を破壊し、ゴミの土人を掃除し、あの何も出来ない土人の王と貴族の皆殺しにして秘法を頂けば、良いからなぁ。現に俺は、出身国以外の王を殺し、秘法を手に入れたからなぁ…妖精、人魚、氷人、そして悪魔の国々…既に足がかりにして、俺の一族が部下にしていた出身国以外の王はどれも屑以下でつまらない戦いであった。ああ、人魚の国の女王の最後は面白いものだ。自ら奴隷にしてくださいといって俺の慰み者になった挙句に、俺に首刎ねられた時の顔は滑稽だったなぁ。家畜そのものだ」
その言葉に、俺達学生三人と騎士三人の計六人全員は、怒りを爆発させた。
例え倒せなくても、こいつに一太刀を入れなければ、怒りは収まらないと。
「ギルバートさん、フローゼさん、シャルトーゼ…死ぬ覚悟は出来てますか?」
「当の昔に…フローゼも同意してる」
「キンジ様、私もぜひこの男に…」
「よし…冴子、蓮。…死ぬ時は一緒だぞ」
「分かった…」
「兄さん…僕は兄さんと共に…」
蓮が言い終わったと同時に、冴子は”不屈の鉄壁”を解放させ、結界で防いでいた古代魔法の反動を全解放させ、西園寺の奴らを怯ませてやった。
その瞬間、俺達全員で一斉に西園寺に切り伏せようとして見た…
「馬鹿が!貴様ら如きに俺に傷を入れれるわけがない!!」
…が、奴が叫んだ時、俺達全員が無数の斬撃に襲われ、地面に叩き伏せられた。
「がはっ…!!」
「きゃあ…!!」
男女六人とも、奴の見えない剣撃によって切り裂かれ、全身を出血させていた。
…少なくとも、五体満足であったのは助かった。
「情けない…雲井のご老体に学んでいた剣を使ったようだが…あんな雑魚の技、西園寺から密かに伝わる光剣術に叶うわけが無い。あの親父の血を引いてるのに使えぬゴミとは違うのだよ」
「ぐっ…貴様ぁ…」
「全員殺す価値など無いが、あの王の命だからな…だが、このゴミ捨て場の掃除係には便利そうだからな。生かしておいてやる。感謝するんだな!!」
西園寺の奴はそう言いながら、俺の頭を思いっきり蹴飛ばし…
その蹴られた反動で俺は意識を失った…
意識が完全に消える途中…俺は光を見ていた…
一点の光が、俺に手を伸ばすかのように…
その瞬間、俺は意識を取り戻し、目を醒まして周りを見渡した。
「ぐっ…はっ!?こ、ここは!?」
視界がはっきりとしたので確認してみると…そこは村長の家だった。
…が、窓などは粉々になっており、家自体も耐久の限界が来てるようだった。
「兄さん!目を醒ましたんだね!!」
「蓮…俺は…?」
蓮が俺に抱きつくと同時に、他の皆もゾロゾロと入ってきた…
全員無事だったか…?
いや、そうでもなかった…
入ってきた亜人全員の姿を見たら…何処かしらと火傷の痕と、負傷した痕があり、全員活気を失っていた…
「キンジ様…外に出て、回りを見てください…」
デュミエールの呼びかけに、俺はふらつきながらも外に出てみた…
そこにあったのは…焼き焦げた村の残骸であった…
それも、ゴブリン以上の亜人なら生きてはいたが…人間の…それもご老体の姿は一人も見当たらず、家畜達も一匹残らずいなくなっていた…
「遠くからキンジ様達の惨敗を見た私達は、すぐさま応援に駆けつけようと致しましたが…あの男の周りにいた女達の魔法が村を襲い、村ごと火の海に包まれました…その後は亜人の子ども達全員は救出致しましたが、人間のご老人達は…あの火の手によって家々が焼かれ、そのまま…」
「そうか…俺達六人全員、どれくらい寝ていたんだ?」
「…六人とも、二日は眠られておりました。特にキンジ様、貴方が一番酷く怪我を負われ、体を再生するのに、ハナコ様とカナコ様の二人がかりで、丸一日ほど再生を掛けられるほどでした…今は二人共、グッスリと眠られております…」
そんなデュミエールの言葉に、俺は呆然と立ち尽くしていた…
俺は…無力だったのか…
そう思った瞬間、俺は地面に拳を叩きつけていた。
…が、そんな大人気ない事をするのは直ぐにやめ、今は生きている面子の確認をする事にした…
結局の所、村で亡くなったのは…人間のご老体全員であり、次郎さん達のゴブリンや、蓮とシャルトーゼや村人アラクネの子ども達、まだ成人していない亜人となった子ども達も含め、全員は無事だった。
…が、全員共に意気消沈をしていた。
大事にしていて、俺達が一ヶ月以上掛けて再生した村を…あいつは一回の魔法で破壊してきたのだからだ…
しかも、西園寺の本音を…蓮の口から聞いた村の皆や、直幸達や次郎さん達全員、そして…ギルバートさん元騎士三人と原種オーガのデュミエール達も奴の言葉を聴き、消沈していた…
この世界は…奴にとっては価値の無い世界だと…
恐らくは、奴が魔王を倒してあちらの世界へ帰った暁には、この世界を資源とゴミ処理場として使われることだろう…
そんな空気の中、俺は荷造りを始めた…
「…おい。どうするんだよ、錦治」
「…奴を殺してでも止める。時間が掛かるだろうが、俺はやる」
少なくとも、俺はその気持ちを変えるつもりは無かった。
このまま放っておけば、奴は限りなく横暴を繰り返す。
あの親父同様に、あいつも同じ事を繰り返し、その子どもも俺達みたいな奴とあいつと同じ人間として選別し、同じ事を繰り返す。
例え無力であってでも、首だけになってでも奴の息の根を止める。
俺はその決意の下、まずはアイツがいると思う王国の王都へと向かうつもりだ。
当然、止めるなと言うつもりであったが…皆の行動は意外なものであった。
冴子ら五人、直幸ら五人、ギルバートさん達三人、デュミエール達三人に含め、村人達全員とゴブリン達も荷造り始めてきた。
「お前ら…」
「錦治。先日、私を巻き込めと言ったな…訂正だ。私らを巻き込め。もう…、あの男達の横暴は許せない…お前が奴を殺すというなら、私達も連れて行け…!」
冴子の言葉に、全員が頷いていた…
許せない…
その一つの言葉に、全員が一致団結をしていた。
「キンジ。恐らく王は奴の息に掛かって終ってる。もはや、王国は成り立ってはないだろう…以前、君が王国そのものは変えないと言ったが、私から言わせて貰う…近隣の村人や亜人達を引きつれ、王国そのものを変えよう…」
「ギルバートさん…良いのですか?」
「…もはや、帰る場所は無いだろう。この村の皆もそう思っている」
「分かりました…ですが」
「分かっている。脇役は脇役らしく、奴と対峙しないでおく」
ギルバートさんの言葉に、俺は無言で頷き、あとは皆無言で荷造りを再開した。
その翌日は、森にて何匹か草食竜を捕まえ、壊れた馬車を木製の竜車として作り
直し、一種の
「直子。最初の竜の子を含め、管理を頼む…」
「任せてよ。錦治っち…無茶しないでね」
「ああ…皆、良いか?」
「何時でもどうぞ」
全員の様々な了承の声を聞いた俺は、無言で前進の信号を手で送り、旅団の車を一斉に動かしていった…
そんな中を…俺達最初の…E組全員は崩壊した村を見て、呟いた…
『さよなら…始めての村…』
村の中に納められた…村のご老体の皆、C組とD組の勇者達、そして、先の勇敢なオーガ達の墓を祀った村を、俺達全員は後にした…
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