第27話 旅の食糧、蜘蛛の二面性

村を出てから一夜過ぎた朝…




”あー…こほん。うん、昨日のA組の勇者組とE組の亜人組の戦闘、見させて貰ったわ。…はっきり言わせて貰うわね。A組の勇者組、あんた達はイレギュレーション違反をしているわ。どう考えても、私が管轄している世界で考えられる企画の強さではないし、A組の所属している帝国に計略を仕込んでいる。これは許されるべき出来事じゃないわ。…というわけで、A組の勇者組の復活権限は剥奪。同時にA組の勇者組と帝国にゲイザーなどの最高ランクの魔物を常時奇襲させる仕様に変更させて貰うわ。これでも悪事を働くとなるならば、それ以上の相応で対処させて貰うからね。…あと、E組及び、D組とC組の、生徒全員は全員解放状態にさせておくね。せめてものの恩情として対応させて貰うわね。それじゃあ、A組の勇者組以外の生徒は引き続き頑張ってねぇ”



例の神の声のアナウンスが、全世界に配信されたのは間違いないだろう。

だが、今の俺達にはそんなアナウンスなどどうでも良かった。


奴に対抗する為には、まずは戦力拡大をはかどらないと…


だが、その前に…


「腹が減っては何も出来ないな」


何よりも飯は大事であった。

そんな俺からの鶴の一声で、旅団全員で朝飯にする事にした…




「こんなもんか」

「今度は蟲ばかりか…どうすんだよ?これ」


目の前に大量に詰まれた巨大なイナゴの魔物に、冴子が一言申し出た。

正直、イナゴ自身は俺もあまり食った事がないし、バッタ系は灰汁が強く出る。

どうしたものか…


「立派なイナゴだな」

「次郎さん、どうします?これ…」

「煮るにしても鍋に入りきれないからなぁ。頭だけ落としてから、足等は炙り、胴体は細かく刻んでから、布袋に入れてから煮込んで、火で炒めようか?」

「ですね。蓮、アラクネ女性陣から布袋の製作を頼む」

「了解、兄さん」


早速、俺を筆頭に男陣営はイナゴ達の解体を初め、アラクネを除く女性陣達は他の食材となる魔物の狩猟へと行なっていた。



まずは足。

先日、蓮が捕まえてきた大蜘蛛の魔物よりかは小振りだったので、焼き上がる速さはこっちが早かったが、中身が中々火が通りにくかった。

しかたないので、じっくり炙って足の殻が裂けるまで火を通してみて、中身を食べてみたんだが…あんまり美味しくなかった。

というより、足の方まで灰汁が強くて食べれたものじゃなかった。


「兄さん、袋出来たよ」

「おぅ、ありがとうな。…ちょっと、この足を齧ってみるか?」

「いや…臭いからしてきついから、僕は遠慮しておくよ…むしろ、足も煮込んでやった方が良いかもしれないよ。爺様もイナゴ料理する時は丸ごと煮込んで炒め物にしたぐらいだし」

「そうだな…」


仕方ないので、解体したイナゴは羽を除いた部分全部をアラクネの布袋に入れ、そのままじっくりと煮込んでみた。


すると、真っ白な布袋が、数分も立たないうちに真っ黒になり、それどころか鍋の水その物が真っ黒な絵の具の様になって、吹き零れてしまった。


…うん、こいつはとても食えたものじゃないな。


仕方ないので、もう一度茹で溢し、何度か煮ては湯で溢しを繰り返してやると、やっと澄んだお湯のままで煮込めるようになった。


その状態で一度食べたのは良いんだが…今度は味が無くて、ぱさぱさとした味で食べれたものじゃなかった。


結論として、これは食料としては向いては無かった。


その割には、この草原に大量の巨大イナゴの魔物が繁殖している事から…

この辺り一体の飢饉は巨大イナゴの所為による害虫被害が出ていたであろう。


「この状態で、あの村と同じ水準の税を納めろと言われたら…流石に生きてはいないんだろうな…」


そんな俺の言葉が的中するかのように、村長代理を務めたケンタウロスの女性が俺の下へ走ってきた。

近くに村を発見したが、自分達の村以上に酷かったらしい…





「…酷い有様だ」

「夜逃げした後が見受けられるわね…」


朝食を保存食で済ませた俺達旅団全員が村に入ってみるや…

そこにあった廃村は酷い有様であった。


建物は数年間も禄に補修もされないまま、数ヶ月も家主が離れた所為で完全に朽ち果て…


頑丈であるはずの穀物納屋は扉を打ち壊されたまま放置され…


麦などの藁を干す柵には、ミイラ化した遺体が何体も首を吊るされて放置。


他にも、家の中には餓死して死んだ子どものミイラがベッドの中で横になっているのも発見した。


「この村は立ち寄った事はありますか?ギルバートさん」

「ああ。だが、ここまで酷い物じゃなかったぞ…むしろ、何かを強奪された後がある…」

「…盗賊団が入り込んだか。もしくは、雇われの傭兵達に強奪されたか…」

「いずれにしても、酷い事をするな…」


そんな中、遺体を放置するのもいけないので、村中の遺体を回収して合同火葬を行おうとした時、美恵が何かを発見したそうだ。


「…錦治君。私達の世界の言葉で書かれた置手紙があったわ」

「読んで見てくれ」


俺が返事を返すと、美恵は中の手紙を開いて読んでいった。


「”…この国の政治は終っている。農民達は常に飢えで苦しんでいるのに年貢を重くされ、年貢の税を納められない者達を縛り首にして処刑している。その上、夜逃げを計ろうとした家族は一族全員共に役人の騎士達に囚われ、国の措置場へ送られている…到底、俺達の日本人にあった一揆などの反抗は出来ない。それに加え、亜人達への掃討作戦も強めてきた。恐らく、E組が頑張っている所為で、国王と貴族達が怯えて亜人狩りに駆られてるに違いない。間違いなく、俺達も同じ異世界人出身として、国王達に駆り出されて、亜人掃討作戦に参加をさせられるであろう…もし、この手紙を見た者はお願いがある。俺が国王に直訴をしている間、この国の人があのA組の連中が接触する前に革命を起こしてくれ。この際、亜人となったE組連中でも良い。どうか、農民達が帝国の懐柔化する前に解決してくれ。それが俺の心残りである。C組 山田”…山田君の字だわ」

「そういえば、山田君の実家は農家だったね…流石に、村の人達の事に我慢が出来なかったんだ…」


蓮はそう言いながら、美恵から受け取った手紙を大事そうに袋にしまっていた。

…山田の奴、俺がE組に行ってからも心配掛けてた奴だったな。

だが、あの洗脳勇者の面子からいないとなると、国王に直接抗議したんだろう。

…馬鹿野郎が。

早まった真似をしやがって…


「山田…?そういえば、私があの村に派遣する前に城であった事がある」

「シャルさん、本当ですか?」

「え、ええ…そうです。レンお姉様…」

「そうでしたか…ところで、王様に直接抗議の手紙を送るとどうなります?」


蓮の問いに対し、シャルトーゼは愚か、ギルバートさん達や村人亜人達全員が顔真っ青になって首を横に振った。


「とんでもない!?そんな事をすれば、たとえ神に選定された勇者ですら…良くて縛り首…下手すれば、晒し首にされて公開処刑されます!!況しては、貴族の前でもそんな事すれば、問答無用で処刑されます!!」

「そうか…尚更、山田のやった行為は大馬鹿野郎だ…国王に直訴をしやがって」


その言葉に、シャルトーゼは沈んだ顔をして蓮の持っていた手紙を見ていた。

…彼女なりに、心配をしていたんだろう。

そう考えるならば、当時の騎士時代の中でも、まだまともであったのだろう。


そんな事を考えていたら、外で人間達の怒声が聞こえていたので、俺達全員は外で出て様子を見に行った。



「不逞なる亜人ども!!この廃れた村に隠れ潜んでいたとは!!我が高貴なる貴族の血と高潔なる精鋭騎士の前に浄化されるが良い!!」


外にいたのは、妙に派手な鎧を着込んだふてぶてしい貴族の大将と、それに追従する20人ばっかりの女騎士だけの集団であった。


…しかも、その騎士達はどう見ても、人間時代のシャルトーゼみたいに内臓を壊して崩壊した顔をしており、とても見れたものじゃないぐらいの醜女である。

というより、その貴族の男の顔は何処かで見たような?


「こんな所にまで来るとは…遂に国王から見放されたのですか?父上!!」


俺の後ろから、シャルトーゼが怒声を上げながら派手な鎧の男に睨みつけ、人間体の腰の位置にある剣を引き抜いて、男に剣先を突き立てていた。


「シャルトーゼ!よくもそんな醜い亜人になったものだ!!ああ、醜い!!一人娘として大事にして育てていたが、それも無駄であった!!しかも、なんだその顔は!?折角、王が好みの顔として長年の努力を無駄にしおって!全くもって親不孝な奴だ!!見てみろ!!この騎士達の顔を!!これこそが、王が求める美の顔なり!!」


実の父親に罵られ、折角美人になったシャルトーゼの顔が青筋だらけになりながら、今すぐ切りかかろうとしていた。

だがその瞬間、蓮がシャルトーゼの上半身を抱き寄せ、濃厚な舌入りキスで激しくしてから、シャルトーゼの心を静めていた…


「れ、レンお姉様…」

「シャルさん…ここは僕と協力をしよう。兄さん、ちょっとだけ…本性を出しても良いかな?」


久々に、蓮からその言葉を聴いた俺は直に閃き、思いっきり了承してやった。


「ああ、良いぞ。ついでだから、彼女にお前らしさを見せてやれ」

「ありがとう、兄さん。それじゃあ、シャルさん…一緒に行こうか」

「あっ…は、はい!」


そういって、二体のアラクネだけ前に出て、少数の貴族騎士隊へ挑んでいった。


「良いのか?キンジ。あの騎士達、結構手馴れだぞ」

「良いですよ、ギルバートさん。それに、久々に蓮の奴…マジでキレてる」


俺が相答えるあたりから、蓮から漂う殺気をヒシヒシと感じていた…


「おのれ醜悪なアラクネめ!!お前が娘を誑かせた奴じゃな!!」

「そうだよ、僕が彼女のアラクネに変え…前以上に美しく変えさせて貰った。始めまして、醜悪なお父上様。てめぇ、さっきから醜いとかうるせぇんだよ。このクソデブ短足イン○が!!よくも俺の女にケチを付けてくれたな!?あああぁん!!?」


蓮の豹変っぷりに、隣に居たシャルトーゼはおろか、冴子達や直幸達の学生組、そして、村人達全員とギルバートさん達、デュミエール達ですら茫然になり、周りの空気が凍り付いてしまった。

そんな中、次郎さん夫妻が俺の所に寄って行き、耳打ちをしてきた。


「錦治君…蓮君って、あんな性格だったっけ?」

「いや、アイツが男の娘になる前はあんな性格でしたよ。俺以上に粗暴で、やんちゃくれてましたからねぇ」


そう言いながら、俺は久々の男らしい蓮の姿を見ながら観戦していた。

たまには、蓮の奴をガス抜きをしてやらないとな…


「れ、れんおねえさま…?」

「なぁ、シャル。ちーっと後ろに下がってなぁ?なーに、ちょいとこいつ等を全員纏めて半ぶっ殺ししてやらんとなぁ?なぁ、クソデブ親父?そんなブスの女達を侍らせてさぁ、ハーレム気取ってるつもりか?こいつは笑わせている。裸の王様とはこの事だなぁ…自分がどんな状況下も把握できずに調子こいてべらべらと罵って何もしてこない奴とははっきり入ってムカつくだぜ!このビチクソ野郎がよ!!」


蓮の不良らしい煽りに、女騎士達も全員青筋立てて剣を振るわせながら…

怒りの余りに貴族の命令を待たずに、蓮とシャルトーゼを切りかかっていた。


「馬鹿か貴様等は?…”骸なる恋人よ、舞い踊れよ。屍骸を晒せ”」


蓮がぼそりと詠唱を言った瞬間、女騎士達は見えない糸に吊り下げられ、全員鎧ごと糸で斬られ、無力化していった。


「はっ、所詮こんな村に20人程度で挑むからだ。俺を殺したければなぁ…千人ぐらい寄越せや…いや、千人すら寄越すぐらいに財力が無い貧乏だった訳か…こりゃあ笑い種だなぁ!!…いや、すまんな。シャル。お前を馬鹿にしたわけじゃないからな…」

「い、いえ!?わ、私は大丈夫です。レンお姉様…」

「そうか。…あんな父親だが、殺っても良いか?」


蓮の返事に、シャルトーゼは静かに頷いた。

前々から父親のやって来た事に愚痴ってた分、あんだけ罵られてしまったら、そりゃあ見限るだろう。

そんなシャルトーゼの了承に、蓮は狂気を解放しながら…人型に変形しつつ、ゆっくりと刀を引き抜いて、貴族の男に近づいていった。


「そんなわけだから…娘に見捨てられた合われた豚さんよ。俺の刀の錆びになってくれや…」

「ひっ、人殺しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」


貴族の男は完全に怯えながら、女騎士達を見捨てて馬を走らせようとした。

その瞬間、蓮は刀を居合いの構えをして…一気に駆け出して引き抜いた。


雲井心陰流くもいしんかげりゅう乱山茶花みだれさざんか!!」


男の馬よりも早く通り過ぎた蓮は、ゆっくりと刀を鞘に戻し終えた瞬間、男の馬と足を山茶花の華の様に血飛沫を上げ、男の足をバラバラに切り刻み上げて地面に叩き伏せた。


「わ、儂の足がぁ!高貴たる貴族の儂の足がぁ!!?」


そんな醜態な悲鳴を上げてもがく貴族の男を、蓮は糸で口を塞ぎ、出血する足を完全に縛り上げて止血させていった。


「誰が簡単に殺すか?お楽しみはこれからだぜ?」


少女らしい美少年だった顔であったが、狂気に満ちた笑顔をするアラクネに、貴族の男は震えを上げ、塞がれた口から抗議の声を上げていたが、蓮の前では無駄な行為であった…







「…すっきりしたか?」

「うん♪…ごめんね。兄さん、シャルさん…」

「い、いえ…大丈夫ですよ。むしろ、レンお姉様…」

「大丈夫ですよ、シャルさん。当分はあの醜態は晒せないから」


そう言う風に、にこやかスマイルで話す蓮であったが…

その後ろにはボンレスハムの様に縛り上げられ、火で炙られている男だった物体に、皆は目を背けていた…


一方、ぶら下げられていた女騎士達は…既に蓮が糸の中にアラクネの毒を染み込ませてあったらしく、見事に全員醜悪な魔物のアラクネ姿になり、野性へ消えていった…


ただ、シャルトーゼみたいな意思がある連中ではなく、もはや獣同然になり、そのまま何処かへいった辺り、自由意志は無かったのは分かった。


「…キンジ様。此度のレンお姉様の事で分かりました」

「なんだ?」

「私は、運が良かったのですね…」

「そうだな…あんな奴だが、あれでも寂しがりやなんだ。大事に接してくれ」

「は、はい…」


あんな危なっかしい両性となった弟を、俺は蓮の許した女性の頭を撫でて、万が一の事があったら、彼女に蓮を託す事にした…



「なぁ…錦治」

「どうした?冴子」

「私が言うのもなんだが…大人しい奴ほど、キレたら怖いな」

「そう…だな…」


冴子が知らないのも無理も無いが…

当時、別の小学校にいた蓮の奴、美少年ガキ大将と呼ばれるぐらいに、大人が手を付けられないほどの暴れん坊だったんだがな…


まぁ、それも…あの西園寺が、中学の俺と蓮を一族の会議で呼び出してからは、蓮の母親が自殺した上に、アイツの中にあった男の定義が壊れてからは、ああなっちまったからなぁ…


「蓮、ちょっと頭出せ」

「…?どうしたの兄さ…わぷっ!?」


こんな成りになってしまっても、あんなブチ切れてまくって男らしくなるのも、こいつは大事な弟だからな…


そんな考えをしながら、俺は蓮の頭をワシャワシャしてやった…




その後、その場を見ていた冴子達五人が物欲しそうな顔をして見てきたので、五人全員頭をワシャワシャしてやった。



「一日無駄に過ごしてしまったが…これも一興か…」


そんな事を言いながら、俺達旅団全員は廃屋を借りて一夜を過ごしていった…






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