第28話 直子の妊娠、ドワーフの町へ

翌朝。

何時も張り切っている直子が、珍しく起きてこなかった。


「直子ちゃん、どうしたのかな…?」

「ちょっと、俺が確認してくるわ」


布団の上でぐったりして動けない直子の頭を俺が触ってみるが熱は無いみたいだ。

じゃなければ、一体何が?

と、思っていたが…直子のお腹が掛け布団越しからでも見えるぐらいに、小さな山が出来ていた。


もしやと思い、眠ってる直子に無断でお腹を触ってみたら…若干硬い感触があり、内側から何かの衝撃も感じられるぐらいだった。


「うっ…き、錦治っち…?」

「おっと、済まん直子。皆が起きて来なくて心配してたからな。勝手に触って、すまない…」


そんな俺の謝罪に、直子はニッコリと笑って首を横に振ってくれた。

俺はそんな直子に頭を撫でながら聞いてみた。


「…もうすぐ生れそうか?」

「うん…ゴブリンの赤ちゃんって、早く生れるんだね…」

「そうだな…もしも雄ゴブリンが人間の女性と出来た場合、大体3~4日ぐらいあたりで生れて来ると、次郎さんが面倒見ていたゴブリン達が言っていたな」

「そっか…正直、私はゴブリンでも何でもいいけど、錦治っち…いや、錦治さんとの子どもなら…産みたいと思っていたから…」

「そうか…久しぶりに、お前から錦治さんという言葉が出るぐらいに、俺を…」


俺がそう言うと、直子は静かに頷いていた…


「子どもが生まれたら、お前の次に抱く人物は冴子にしてやってくれ。あいつ、子どもが出来ない身の上でも、子どもを欲しがっていたからな…」

「うん。むしろ、人間だった時でも、錦治さんの前に姉御に抱かせてやりたい。それが、私の願いだから…」

「うん、分かった…今日は、竜車の中でゆっくりしておけ。お腹の子をびっくりさせてはいかん…」

「ありがとう…錦治さん…」


そう言って、再び眠った直子を俺は優しく撫でてやり、掛け布団ごと直子の全身を包んであげた状態で姫様抱っこをしてやり、何時もの竜車の中のベッドへと移しておいた。





「というわけだから、今日の直子は安静状態だな」

「そうか…直子がオメデタの臨月ねぇ。羨ましいな…」


そんな会話をしながら、俺達旅団は鉱山付近の集落へと出発していた。


そこには、王国の息がかかっていないドワーフ族などの鉱石加工が得意亜人族が無数におり、独自の文化も気付いている事も分かっていた。

今回の目的はドワーフ族の協力要請であるが、もう一つの目的は鉱石確保である。

良子が加工している金属の殆どが、ドワーフ族が掘ってる地底深くに存在するレアメタルが含まれている為、鋼以上の硬度のある重金属が手に入れば問題は無い。


ただ…俺の覚えている知識の中では、ドワーフ族の大半ががめつい性格であるため、金などの要求が強く出るだろう…

なんとかしてみるか…


「ん…?錦治君、何か考え事?」

「ああ、ちょっとドワーフ族のことでな。あいつ等、金銭面になると凄いぐらいにがめつくなるからな」

「あー、確かに…」

「酒なら、この前の直子が作ったエールが、大タル二つぐらいはあるんだが…」


良子の問いに、俺は竜車の積荷にある大タル二つを見ていたんだが…

ドワーフは大の酒好き。

ドワーフからすれば、大タル二つ分の酒など…酒瓶一本分にも程遠い。

が、親睦程度の交流ならば丁度良いものだな…


「それにしても、良子。お前は体調は大丈夫か?」

「今のところはね。むしろ、直子があそこまで荷重になるなんて思わなかったわ」

「あれはゴブリン種の運命さだめだ。基本、ゴブリンやオークは多産に進化するために、妊娠したら3~4日で生れるのが普通だからな。そうしなければ、種族として保てないぐらいに直ぐに死んでしまうのさ…」

「そう…なのね」

「これがまだ亜人種同士だから、割とスローペースだが…もしも俺がゴブリンで、お前達五人が人間のままだったら、たぶん一ヶ月で数十人のゴブリンの子どもを生んで大きくなっていたかも知れん。一応、次郎さん達のゴブリン達に、人間の女性を提供してやれば、照明できるかも知れんが…俺としては気が引けるがね。…捕まえた奴がろくでなしの屑ならばいいが、普通の女性をまわされる光景には俺は二度と御免だがね…」


最後の一言に、良子は固まったまま俺を見つめていた。

…一応、西園寺とあの糞親父の事を話しておくか。


「…なんで、俺がそう言う事を知ってるか、教えようか?」

「出来れば…お願い。冴子の秘密も聞いたし…」

「冴子の秘密を知ってるのは、俺とお前、そして直子の三人だけだが…まぁ、それも踏まえて言うならば、西園寺を含む俺の親父の一族は、ある意味男達が腐ってな。一族の長を含めて女好きかつ女卑の考えが酷くて、女を物扱いにし、恋人がいるのにも関わらず使用人の女を呼び出して、下男に寝取らせてる光景を肴に酒の席を楽しむ糞野郎もいたさ。無論、俺と蓮は中学に上がった時に一回は見せられたが、その時に俺は一回ブチ切れて下男を半殺しにした際に、親父に見限られて放り出されたのもある。…蓮の母さんが、その席で親父に抗議した際、あの親父から強制的に離縁させられ、ショックで自殺した要因でもあるし、蓮が男の尊厳を捨てて女装し始めたのも、一族の糞風習の所為でもあるからな…。一歩間違えれば、冴子もあの糞一族の関係者にさせられる所であったな…。俺としては、冴子が子どもを産めない体は辛い事だが、あんな奴らと関わらずに済む一つの戦略だったと思っている。その分、余り不憫にさせたくはないがな…」

「そうなのね…それにしても、西園寺がいるA組クラスに居なくても良かったわ。そんな屑の風習を持つあいつに見合い話を受けた時は、ゾッとしたし…」

「そういや、お前がA組に在籍していた時は、あいつ等全員に爆発物を投げつけてやったっけか?あれはあれで本気で面白い奴だと思っていたな」

「そう言う錦治君こそ、加奈子がA組の奴に苛められてた時に苛めたA組の奴らを半殺しにしてたっけ?あれはあれで面白い人だと思ったわ」

「何だかんだ言って気が合うなぁ。…まぁ、そんなお前を含め五人が亜人であるが、全員普通の家族として暮らせたらそれでも良いと思ってる。それでも、俺は西園寺みたいな男にはなりたくないし、他人を粗末に扱う奴は許せん。そのためにも、次郎さん達が居たゴブリン達には、悪人の女以外は手を出すなといってるんだよ」

「うん。分かってるわ…でも、あまり気を追わないで頂戴ね」

「そうだな…まぁ、今のところは…俺が好きになった女性が偶々複数であったのと、蓮の奴や直幸の奴も好かれた女が複数だったという事にしてくれや」

「それは了承してるわ。…でも、昨日の蓮君って…ある意味ワイルドだったわ」

「だろ?…まぁ、シャルトーゼとあそこまで溺愛しちゃってるのは、俺は嬉しいが…今日もあそこまでいちゃつかれてるとな…」


そう言いながら、俺と良子はアラクネ達メインにしている別の竜車の方へ視線を向けながら呆れていた。


いんやまぁ、先日の晩の時にシャルトーゼが正式に蓮の妻にさせてくださいと申し出て、蓮も同意して二人仲良く夜の蜜時を行なっていたんだが…

今もなお二人が体を密着したまま糸繭の中でイチャイチャしてるんだ…

しかも、アラクネ特有のフェロモンが糸繭から漏れ出すほど激しくしているため、他の未婚の村人アラクネ女性たちまで発情してる上に、子アラクネ達も悪影響が出るぐらいに、アラクネ達全員が蛇の巣のように密着して乱れてるというか…

あまり日が昇ってるときにいえるような物じゃないぐらいに風紀が乱れてる。

ソレに加え、美恵がにんまりと笑いながら、蓮たちの糸繭から滴るアラクネの液体を集めてビンに詰めたり、他のアラクネ達からも糸を含めて色々と採取したりと…アイツ、直子の次に商売を考えてるんじゃないか?


…今日の夜、冴子にお願いしてもらおう。

流石の俺も、蓮達のフェロモンの所為で限界だ。


「…今、エロい事を考えたでしょ?」

「悲しいが、俺も男だからな…本当は卒業して落ち着いてからと考えてたのに…」

「なんていうか…錦治君って貞操概念が固いよね」

「蓮を含め、俺は親父や西園寺みたいな女タラシにはなりたくないんだよ。ただでさえ、あいつ等の女への執着が見苦しすぎてな…」

「そう言う錦治君も、天然のタラシだわ。でも、女性所か男性も友人として接する錦治君だからこそ、皆は着いて来てるんだから、そこは自信もっていいわ」

「色々とすまないな、良子…おっ、何か見えてきたぞ?」


そんな会話をしながら進めていたら…山から幾つもの白い煙を上げる城塞のような壁で覆われた町が見えてきた…









重荷になっている直子を除いた旅団の皆は、全員服を正すために着替えなおし、総員整列してから町の城門まで歩く事にした。

無論、蓮達二人もいい加減起こしてから


「これが…ドワーフの町ですか?」

「うむ。だが、彼らの多くは人間を排斥する動きが強いからな。気をつけてくれ」


ギルバートさんの忠告通り、俺は慎重に城門近くまで近づき、大きい声を上げた。


「お頼み申し上げます!私はトロールの錦治という者です!!この度は我ら亜人混合による旅団を休息させる為!!貴方方の町を入れさせて頂きたいのです!!どうか!!開門をお願い致します!!」


俺なりに丁重な尋ね声を聞いたのか、一人のドワーフの男が城壁に上がり、俺達を見てきた。

…この世界の男ドワーフは、大柄ではなく小学生ぐらいの低身長ではあるが、腕の筋肉などは並みの大人たち以上にあり、集団マッスルが出来るぐらいのガッチリとした肉体であった。

しかも、男のドワーフなのか、全身を覆いそうな立派な髭を携えて。


「なんでぇ!そんな馬鹿でかい声を上げやがって!!…ん?トロールと聞いて警戒したが、人間たちみたいな大きさの連中ばっかりだな…。…もしかすると?…おい!そこのトロール!ちょっと待っていろ!!門を開ける前に紹介する奴がいる!!そいつと対面してから中に入れてやる!!」


そういったドワーフの男は城壁から降りて、中へと戻っていった。

…合わせたい人物とは、誰であろうか?


と思っていたが、二人ほどの髭の無い若いドワーフの男女を連れて、城壁の上へ見せてきた。



「あーーー!!やっぱ錦治達じゃん!!」

「漸くこっちに着やがったか!心配してたぞ!!」

「う、上島に…上村…!?お前らドワーフになっていたのか!?」


俺がE組に行く時、蓮と共に最後まで俺を心配していたC組の元クラスメイト、上島美佳うえしまみか上村宏かみむらひろしの二人であった。


しかも、あいつら…元から日焼けしていた小麦色の肌であったが、ドワーフになってから更に褐色化が激しくなってるなぁ…







「そうか…やっぱり、あの神様のお告げ通り、他のC組とD組の奴らは…」

「その上、山田君までもが…」

「ああ。と言っても、山田の奴はA組の西園寺が来る前に始末された可能性が高い。…あいつは正義感が強すぎるからな」



あの後、旅団全員をドワーフの城塞町に入った俺達は、上島達の町の案内中に俺達が経験した一ヶ月間の全てを上島達二人に話していった。


森での亜人となった時の感想…初めて同じ学生を殺めた事…


D組の担任が何か企んだまま死んだ事…亜人化させた事…


そして、騎士団達との戦いの際に荒れた村を再建中に仲間を沢山作り、あの男の襲撃で滅んだ事も…


その後は、前日の山田が書置きした村の事も全部話しておいた。


一方で、上島と上村の二人は…最初から小さくて小麦肌の二人であった為、どうやらドワーフになっていたと言うのを知らないで、C組の勇者組と共に行動していたのだが…王都付近の村でドワーフだと判明してから追われて、この城塞町まで逃げて保護してもらったそうだ。


ある意味、ベヒーモスが巡回する時も相まって、運が良かったと言うか…


して、現在二人は同じドワーフ族がいるこの城塞町の鉱山と鍛冶屋のバイト仕事しながら、俺達が来るのも待っていたそうだ。


こいつらも、定期的に神に色々質問しては準備をしていたそうだ。


無論、二人が加入するのは大賛成であった。

良子のサイクロプスの鍛冶技術は素晴らしいものであるが、限度がある。

特に、鉱石からの打ち出しは、流石に厳しいものであるため、職業特性である

鍛冶師が最初からデフォルトに持っているドワーフの力が欲しかった。


まぁ、ドワーフ族全体が協力が厳しいなら、同じ元異世界人であるこの二人が引き入れれば問題は無かった。


ただ、どうも俺達が来た時期が厳しかったらしく、ドワーフの長に依頼を引き受けざるを得なかった…





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