第29話 鉱山戦、創生の使い手、そして…

「鉱山内に原種の巨人亜人族が占領してると?」

「そうなんじゃ…儂等ドワーフのベテラン戦士でも、叶わぬ相手じゃ。恐らくは、トロールよりも上位種族の可能性が高い。況してや、ポイズンジャイアントまで部下にしていては、太刀打ちできんのじゃ」


ドワーフの長老宅へ訪れた俺は、長老が聞かされた内容を聞いて頭を抱えていた。


ポイズンジャイアント…


ジャイアントと聞いて、普通は巨人だと思う奴も多いと思うが…こいつは違う。

毒持ちの霊長類系の奴は自然界ではいない。

いるとすれば、それは亜人怪物系ではなく、ゴーレムなどの魔法生物系か、魔王が作りし人造悪魔系のどちらかだ。

なんせ、ポイズンジャイアントの毒は人造物の中で一番強力な毒性を持っており、一体居るだけで綺麗な湖が猛毒の沼地に変えるほどである。


故に、死体処理も大変であり、大抵の冒険探でポイズンジャイアントに遭遇した場合は、炎で滅却して灰にするか、即死魔法で灰に返すかのどちらかである。


なお、素手や近距離での戦闘は厳禁であり、万が一ポイズンジャイアントの体液が触れてしまった場合、直ぐに解毒処置をしないと毒が回って死んでしまう。


長老からの話では、既にドワーフの何人かはポイズンジャイアントの毒に遣られ、解毒薬が足りなくなって帰らぬ人となった。


「その所為で、上島と上村を引き抜かれると厳しいと…?」

「左様。あの二人は結構働き者でな、人数減った分の穴埋めを簡単に帳消し出来るぐらいに儂等の町の戦力じゃ。それを引き抜かれたら本気で困る。じゃがの…あの忌まわしいポイズンジャイアント達と使役する巨人族の連中を一人残らず駆逐してくれたなら、あいつ等二人を連れて行っても構わん」

「そうか。安請け合いをする訳もいかんが、事情が事情だからな…分かりました。引き受けるついでに、奴等の数も教えてもらえないでしょうか?」

「そうじゃな。帰ってきた連中が聞くには、普通のジャイアントが15体ぐらい、例のポイズンジャイアントが二体ぐらいじゃ。ああ、でもジャイアントの中には、フロストジャイアントとファイアージャイアントもおるからな。あやつ等は魔法を使わないが、それぞれ吹雪と炎を吐くからな。気をつけるのじゃぞ」

「了解した。…それと、此方の町滞在の代金ではないが、酒樽二つを受け取って貰えないでしょうか?作ったのは良いんだが、未成年の連中に飲ませるのは遺憾と思いまして」

「なんじゃあ?おぬしは酒を飲まぬのか?」

「酒癖が悪いので、あまり飲まない事にしておりますゆえに」

「そうかの。では、ありがたく頂こう。吉報を待っておるぞ」


長老の言葉を聴いた俺は、エールの入った大タル二つを長老の使いに渡して、例の鉱山入り口まで行く事にした…


「…長老。宜しいのですか?」

「少なくとも、人間よりかは信用できる。あの忌まわしきエルフや人間の王国、遥か遠くの帝国とか言う人間至上主義の連中と敵対しているとなれば、手打ちをしても問題は無い」

「ですが…」

「それにな…以前来た勇者とか名乗る胡散臭い人間よりはマシじゃ。あの時の…あの男の目は、儂等亜人をゴミ同然に見ていたからじゃ…ソレに比べて、あの亜人の奴は、儂等を信用しておる。そんな目をされたら、義に熱きドワーフの名に泥を塗ってしまうわい」

「長がそう言うのならば…大変な事になりそうですな…」


という、長老の家からの話し声も聞こえてきたが、俺は何も言わずに立ち去った。


…彼ら成りに、心情というものがあるからな。

それ以前に、西園寺の奴…この町に遣ってきたとは…

気をつけねばな…




「そうか。長老がそんな事を言っていたのか」

「そう言うわけだ。というわけで…坑内の案内は頼むぞ。上島、上村」

『了解!そちらこそ、ちゃんと守れよ』


ドワーフ二人の案内の元、俺は冴子と美恵の二人を護衛として五人パーティでの編成で鉱山坑内を歩いていった。


案内護衛…といっても、上島と上村の二人のレベルはかなり高く、今では80と存在進化ランクアップしてもおかしくは無い状態であった。

…一応便宜上でいうならば、ドワーフの次はハイドワーフと俺は名付けてるが、実際はそんな種族がいるわけではない。

エルフで言うなら、ハイエルフをもじって上位ドワーフをそう名付けたに変りはなかった。


だが、鉱山入る前に二人に教えたら「すげぇ!?」と言って喜んでいたので、それで良いという事にした。


それにしても…美恵が今回参加すると言うのは驚いていたが…よく考えたら、冴子を除いて美恵と一緒になるのは久しぶりだな…

…ガス抜きしたいわけか。


「冴子、美恵のガス抜きに手伝ってもらって良いか?」

「ん…?あ、ああ…そういえばそうだったな…いい加減、戻っていいよ。美恵」


冴子がそう言うと…美恵の奴は何時もの根暗状態から、背筋を正して俺達の方へ向いてきた。


「お二人ほどの部外者がおりましたが…やっと素を解放する事が出来ました。冴子お嬢様、錦治様」

「やっぱり、あっちの性格は苦手なのか?美恵」

「ええ。やはり使用人として心苦しいものでしたわ…時に冴子お嬢様。鎧の裾が少し破けておりますが?」

「あっ、本当だ…」

「少々お待ちを…」


そう言いながら美恵はトロールの大きい手にも関わらず、冴子の鎧にある切れた裾布を、アラクネの糸で素早く縫って直していき、物の一分も立たずに、補修を終えていった…


「これで宜しいです、お嬢様」

「本当凄いな…ありがとう、美恵」

「いえ、当然の事をしたまでです。コレくらいの事が出来ねば、駄使用人の名が取れませんですわ」

「あのさぁ…ここにはあいつ等も居ないんだし、錦治というか…西園寺の親族は居ないんだからさぁ。もういい加減使用人の束縛から抜けても良いんだぜ?」

「とんでも御座いません。私は一生涯掛けて、冴子お嬢様と錦治様のお世話係に勤める所存で御座います。…何時もの根暗なふりをし続けるのは、辛いので御座います」

「…その割には、いつも俺の寝込みに入り込んで、やっておるくせに」

「あ、あれは…その…錦治様達の監視役として送り込まれた時に、見捨てられた私をお二方に拾われた恩返しの一つとして…」

「別にそう言うのは気にしなくて良いだろう?俺達は親友であり、今は夫婦であるだろ?」


俺のその一言に、美恵の頭から物凄い湯気が立つほどに顔真っ赤になって慌てふためき、手を振って抗議してきた。


「と、とんでも御座いません!わ、私は…」

「相変わらず対等的に扱うと赤面になるなぁ…まぁ、そこが美恵の良い所だけどねぇ…」

「もう、お嬢様ったら…」

「まぁ、良いが…それよりも美恵。お前も懐妊状態なんだから、少しは体を気をつけておけよ。今回の直子は、結構きつそうにしていたからな」

「ご安心を、錦治様。私は例え臨月になってでも、丈夫な子を産むまでは働いて見せますわ」

「逆にこっちが心配だっつーの…それより、今回はお前を引き連れてきたんだが、大丈夫なのか…?ポイズンジャイアントは魔法使いの魔法が有効的とはいえ…、錬金術師アルケミストの術では厳しいと思うぞ」

「ご安心を。直子さんから色々と魔術師の魔法を教えていただいております故に、私自身も、錦治様とご協力して使いたい術式がございますから」


そう言いながら姿勢正して答える美恵であった…

まぁ、そういうなら間違いは無いだろうが…


と、そんなやり取りを始めていたのか、上島と上村の二人が目が点になりながら、

俺達三人の様子を茫然と見ていた。



「え、えっと…その…」

「錦治。それと冴子…お前ら、もしかして良い所というか…金持ちの家出身だったのか?」

「正確には、元金持ちというか…俺はこう見えての西園寺とかの親父の一族に属していたが、勘当されて下宿生活してる貧乏人」

「同じく、私はあの学校の理事長の一族の末娘で、あの西園寺と見合いの席にて大暴れして縁切られた不良」

「最後に、昔はそんな冴子お嬢様とご親友であった錦治様の同世代のお世話係で、勘当された二人の監視役兼首にされた元使用人です」


『…うわぁ、なんという複雑関係』


「まぁ、普通の亜人だからな。肩書きなんて関係はないが…」

「もう少し気を楽にしなよ、美恵…まぁ、ご奉仕が生き甲斐なら何も言わんが…」

「申し訳ありません。何分使用人精神が強く出るため、あんな役作りでもして…、自分を保てませんとお二方に申し訳なくて…」

「まぁ、それはそれだ…お前達二人には、美恵の事を教えたが…くれぐれも内密にしてくれな?加奈子と良子、そして直子に気苦労させたくは無いからな…」

「そうだね。あくまでも、私と錦治だけのプライベートの姿だと思ってくれな。二人共」


『あ、ああ…』


本当なら…この二人が居ない時だったら完全なガス抜きをさせたい所だったが、事情が仕方ないからな…

この坑道、ドワーフじゃないと確実に迷子になるレベルだからな。



そんな俺達の茶番なやりとりをしていたら、坑道内で一番広い場所で出た。

そこには、巨人族の巣となっており…数多くの巨人と、多種族の女達が沢山捕えられて、ほぼ衣服をひん剥かれたまま横たわっていた…





俺達が出た場所は、丁度天井付近の穴であった為、巨人族から死角になっていた。

おかげで観察は出来てはいたが…見る者に耐え難いものであるな。

おまけに、このイカが時間経って腐敗した臭いをする雄臭さの精臭…

間違いない。

こいつら繁殖目的でここに居付いていた…


「実に不快な臭いで御座いますね…西園寺達の一族が行なわれていた宴の肴並に反吐が出ます」

「そういえば、お前はアレが大嫌いだったな。…まぁ、俺もアレが嫌いな余り、下男を半殺しにしたからな」

「いえ、それが正しいで御座います。錦治様…」


そんなやりとりをしていたら、どうやらフロストジャイアントの一体が、俺達に気付いて声をあげ、仲間達に指図してきた。


「気付かれたぞ。冴子!」

「了解!!」


ファイアージャイアント達とフロストジャイアント達のブレスが俺達目掛けて吐き出してきた所を、冴子が大剣を突き刺して”不屈の鉄壁”を発動して無効化した。


「すげぇ…!?」

「巨人達のブレスを防いだ!?」

「ああ。大丈夫さ!…よし、美佳と宏。お前達は錦治達の援護してくれ」

『了解!!』


冴子の命に、上島と上村の二人はドワーフ族の特性の爆弾を投げつけて、巨人族に被害を与えていた。

だが、巨人族達も負けじと対抗し、例の忌まわしき巨人…ポイズンジャイアントを連れてきた。


「ヤバイ!毒ガスブレスが飛んでくる…!!」


二体のポイズンジャイアントは大きく息を吸い込み、俺達の居る坑道穴へ向けて、毒ガスブレスを吐き出そうとしていた。


「皆さん、少々後ろへお下がりを…冴子お嬢様。引き続き結界を宜しく」

「あ、ああ…」


美恵の一声に、冴子は剣からの結界を強め、俺達は冴子の後ろへと下がった。そして、美恵は大きなトロールの両手を広げ、詠唱を始めていった…


「”祖は汝の命を向ける。冥界と現世を繋ぐ三途アケロンの川に住む死神ハデスの眷属の橋渡カロンに命ず。かの者を冥界に誘え。おお、歌姫ペルセポネの声が聞こえる。死の使いの笛吹男ハーメルンが汝達を冥界を招き、そこで安息を約束をするであろう…故に、汝らよ。今永遠たる眠りを授けよう…”」


聞いた事の無い詠唱の元、美恵の体から俺と同じ闇の魔力を発動させ…

巨人族に闇の魔力を纏わせていった…


「”創生…!!疾走する馬車ガロッパーレ冥府への誘いインフェルノ!!」



美恵が魔法の詠唱を終えた瞬間、巨人族達に纏っていた魔力が巨人族を取り込み、どす黒いタール状の液体に変えて溶かして行き、まるで冥界の川へと帰るかの様に黒い液体は深遠の闇へと消えていった…


創生魔法…通常魔法の上位か。


「ひえ…ひぇぇ…!?」

「な…巨人族が…全部融けて消えた…!?」


無論、通常魔法しか見た事が無いドワーフの二人ですら、美恵の創造魔法には畏怖すら覚えたのだろう。


「はえぇ~…なんつー魔法を覚えていたんだ?」

「この世界に来てから、私に何か出来るものが無いか模索していた所、私の固有のスキルがありましたので、調べてみましたら…魔法の創生という物がありました。ゆえに、私なりの属性を調べて作り上げ、今回試しに使用してみました」

「そうか…創生魔法…か。極められたのは何時頃だ?」

「皮肉な事に、あの西園寺が村に爆炎を落とされた時でございます…」

「そうか…苦労を掛けたな」


そういって、俺は美恵の頭を撫でてやった…

美恵なりに、俺達の前線に立ちたいという願望のために、こんな魔法を…

そんな顔で見つめていたら、美恵はニコッと笑って俺を気遣ってくれた。


「大丈夫です。通常魔法よりかは魔力の消費が激しいで御座いますが、それ以外のリスクは御座いません。それに、この創生よりも更に上の魔法が御座います」

「それが、古代魔法というわけか…」

「はい。…もし使う時は錦治様、側に居てください」

「…分かった。冴子も良いな?」

「ああ。…私も、美恵と同じ様に魔法が使えたらなぁ」

「大丈夫ですよ、冴子お嬢様。お嬢様が錦治様の盾になるのでしたなら、私は…錦治様の杖となりたいでございます」


そういって来る美恵に、俺は無言で優しく抱きしめてあげ…

美恵もまた、それに満足したようだ…


一歩先を取られたと思った冴子は、ちょっと頬を膨らませそうだったので…

俺と美恵の二人係で抱きしめたら、少し嫌がりながらも喜んでいた。


「…本当、仲良いんだな」

「だね…私達も、ああなりたいな」


そんな上島と上村の声も聞こえたが、そこは干渉しないでおいた。




あの後、町に戻った俺達は早速長老宅へと訪れ、巨人族討伐完了の報告をした。

…ちなみに、例の繁殖用に捕えられていた多種族の女達は、全員巨人族の子を宿していた為、やむ終えず処分しておいた。

気の毒であるが、生きて帰したところで…精神崩壊していたからな。


「見事に倒してきたものだな…どうやって倒したんだ?」

「それは秘密で御座います。長老殿」

「ふむ…秘密ならば仕方ない。まぁ、あの後使いの者が全域調べ上げたが、例の巨人族どもが居なくなったからな。約束どおり、二人を連れて行って構わんぞ。…それにしても、あの男を信用せず、お前を信じてよかったな」

「あの男と申しますと…例の強大な勇者の事ですか?」


俺のその問いに、長老は訝しげな顔をして俺に向けてきた。


「うむ。儂は数多くの人間を見てきたが…あんな邪悪な考えを持つ者が勇者だと言うのがおかしい。あれはどちらかと言えば、魔王を超えた邪神じゃ。この世界及び、あの男が居る世界とやらでも崩壊を招きかねないぐらい危険な奴じゃ」

「なるほど…流石は、俺が一番毛嫌う兄であるな…」

「お主…今、兄とかいったか?」

「母親が違うが、あれでも父親が同じ兄です。こっちの世界に着てからは、亜人になった俺ですが、人間の時でもっとも憎むべき男と言えます」

「うむぅ…なんとなく雰囲気が似ていたが、お主の方が信用できると思えるのは…あの男を憎む余りか…今は協力は出来ぬが、約束は取り付けよう。それに、お主等全員は亜人だからな。亜人同士、色々と交渉サービスをしよう」

「お心遣い感謝致します」

「うむ。礼儀正しい所は実に良い物じゃ…。二日ぐらいは…ゆっくりしてから行け。この先の他の亜人族との交渉は大変じゃからな。あっ、言い忘れておったじゃが…エルフは気をつけておけ。あやつ等は勇者以外の人間や亜人を嫌うからな」


そういってきた長老に、俺は手を横に振って応対した。


「既にこの国のエルフ族は交渉は不可能だと思います。なんせ、あの男にエルフの女が居ましたので」

「うむむ…やはりか。しかしあのエルフめ…どうして我ら亜人よりもあんな邪悪な人間の側に居れるのじゃ…」

「恐らくは…魅了チャームされているのでしょう。あの男自身には、邪な力が備わっております。…元より、俺とアラクネとなった弟には、あの男ほどではないですが、若干の魅了属性を持っており、少なからずとも異性に好かれやすい特性が備わっておりました。だが、今ではすっかりと消えておりますが…」

「そうじゃったか…通りで、お主の旅団に女が多い訳だが」

「ああ、村人は別ですよ。彼女達は、俺が男からの支配独立を謳ったら、賛同して亜人になっていったのですから。俺が言ってるのは、あのドワーフらと同じ出身の元異世界人の亜人達数人です」

「それまた微妙じゃのう。なんせ、あの男がこの町に訪れた際は…エルフの女が数十人、女悪魔が数十人もいたからのぅ。その上、人間の女なんか100人以上も居たぞ」


…うわぁ。

俺が言うのもなんだが、西園寺の女タラシは糞最低だな。

冗談抜きで、アイツの下にぶら下がっているアレは、そぎ落とすべきだ。


「…言っておくか、村のドワーフ娘達には手を出すなよ」

「とんでもない!そんな事をすれば、俺の伴侶達に半殺しされます…」


俺のその言葉に、ドワーフの長老が目が点になった後…なんか同情の目をしながら俺の肩を叩いてきた。

あの…そこまでカカア天下な多妻な環境じゃないので、そんな憐みの目で見ないで欲しいんですが…








旅団が止まっている宿に戻った俺は、ギルバートさん達とデュミエール達を集め、それぞれ全体会議をしていた。


「というわけだから、ドワーフたちは現状では協力は厳しいが、約束は取り付けに成功した。後は彼らの復興が終るまでは、別の亜人族との交渉を開始した方が良いでしょう」

「なるほど。例の勇者は色々と回っていたのか…」

「しかも、魅了持ちね…あの時、キンジ様が私をあの男に引き合わせたくなかった要因はそこにありましたのね」

「そう言う事になる。色々と調べてみて気付いたが、どうやら西園寺の魅了範囲は美人系の亜人…つまりは、エルフやサキュバスあたりの女性ぐらいまでしか効果は無く、デュミエールなどのオーガなどの通常亜人族には効果が無い。だから、あの男は俺達を含めた亜人を愚弄してきたわけだ」

「ふん…自分の都合の良い種族以外は屑とかゴミとか言う分、アイツは他人を信用せずに生きてきた奴というわけか。…正直、シャルトーゼもだが、フローゼも奴に魅了されないでよかったと思う」

「シャルトーゼとフローゼさんは、それぞれ好きな伴侶に…シャルトーゼの場合は蓮に、フローゼさんはギルバートさんに純潔を捧げたおかげで魅了されなかったと思いますね」

「つまり、純潔の処女ほど危ないわけか」

「そう言う事になります。ですので、俺の場合は冴子達五人、直幸の嫁達である江崎達姉妹四人、次郎さん所の花子さんは最初から魅了が聞かないのですが…、デュミエールの場合はまだ伴侶となってる人物が降りませんでしたので…、少し危なかったと思いました。まぁ、それも気苦労で終りましたが…」

「そうでしたのね…ジュラとデュラの分をあわせて、お礼を申し上げます」


そう言って、デュミエールと後ろに付き添って黙っていたジュラとデュラの三人は頭を下げてきた。


「いや、構わないから…それよりも、村の人達のとの稽古は大丈夫ですかね?」

「問題はありません。ただ、そろそろ私達も実践に出して頂きたいのですが…」

「ふむ…善処はしておきます。あとは…」


その時である。

次郎さんが慌しく入ってきて、俺の所まで走ってきた。


「錦治君!急いでくれ!!直子ちゃんの子がもうすぐ生れそうだ!!」

「本当ですが!?すぐに行きます!!」


俺達全員、会議を中断してから直子が療養していたドワーフの診療所へ向かった。





診療所へ辿り着いた俺は…産場の部屋前で待機させられていた。

いや、大体分かってはいたが…女の出産の立会いは、男が入るのは失礼に早々。

代わりに冴子が支えてくれるとの事だったので、大人しく待っていた。


「…すんなりと生れたら良いわね」

「そうだな…」


美恵とそう交わした俺は、静かに座っていた。

例の性格に戻りながらも、美恵は俺と直子を心配する様に見ていた。

やはり、根本的に使用人根性が染み付いてるな…


「…羨ましいのか?」

「…はい」

「そうか…だが、何時かは…」

「…その時が着ましたら、同じ様に」

「ああ…」


そして、約一時間ほど経過し…部屋の中から大きな泣き声が木霊していた。

それと同時に、冴子が扉を開けてきた。


「錦治!着てくれ!!元気の良い女の子だ!!」


冴子のあまりに喜ぶ姿に、俺と美恵は共に入っていった。


そこには出産疲れをしながらも笑顔で出迎えていた直子と…

直子にそっくりな緑肌のゴブリンの赤ちゃんが側に居た…


「…頑張ったな。直子」

「えへへ…ありがとう、錦治っち」


そう言って、直子は産後の疲れからか、そのまま眠っていった…





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