第30話 産後の翌日、奴○商への”尋問”

翌日。


「おっはよー!錦治っちー!!」


そこには元気ではしゃぐ直子がいた。

…昨日までの弱弱しい姿は何処へ行った。


だが、そんな直子であるが、まだベッドの上であった。

出産時に大分血を流したから、あと一日はベッドの上で安息との事。

一方で、元気なゴブリンの赤ちゃんであるが…


「おーよしよし、元気な女の子ねー」


鎧を脱いだ冴子に抱っこされて揺さぶっていた。

しかも、本能的なのか…胸元を開けやすいワンピースの服を着ながら、赤ちゃんに吸わせやすいようにしていたとは…

やっぱり、子どもが欲しかったんだな…


「はーい、パパですよー」

「よしよし…しかし、生れてくる子は原種じゃなくて人間っぽいな」

「ああ。…私も欲しいなぁ」


そんな風に寂しい顔をする冴子に、俺は黙って頭を撫でてやった。

そしたら、冴子は優しく微笑みながら撫でられるのを受けていた。


「あたっ…!あ、姉御…そろそろ赤ちゃんを返してもらえないっすか?ちょっとお乳が張ってきましたので…」

「あっ!?ご、ごめん直子!…さぁ、ママのおっぱいですよ~」


そう言いながら、冴子は直子の赤ちゃんを優しく返し、直子が大きくなった胸を晒して吸わせていった。

…無論、俺が見るのもあれだから、後ろを向くが。


「ん…?あっ、錦治っちぃ~…私のおっぱい見たいんでしょう?キシシ♪」

「アホたん!母親の神聖な物を大の男が見て嫉妬してどうするんだ…」

「んー…別に良いと思うんだけどなぁ。私達夫婦なんだし」

「まぁ、確かにそうだが…ちょっと前までの学生気分が抜けてないからな…」

「だなぁ…まるで夢の中のようだわ」


夢…か。

そうであって欲しいとも言えるのだが…死人が出て蘇らない事を考えるならば、夢と言う言葉で解決できない。


…既に俺達は、引き返せない所まで来ているからな。

そう思いながら、俺は直子の頭を撫でて、その後は一人で診療所を後にした。




一方、蓮達アラクネ組も大分発情状態から回復しており、落ち着きを取り戻して以降は、町のドワーフ達に織物を売りさばいて資金を稼いでいた。

…今更気付いたのだが、人間達以外との多種族の取引には金貨と併用に、魔石や精霊石を通貨代わりに使っており、金貨の代わりに魔石と精霊石を大量に仕入れ、当分の燃料等の生活物資として確保した。


ちなみに、直幸が管理している江崎四姉妹と村人のミノタウロス組から出る母乳はドワーフ達に大人気で、高値で取引されていたのは驚いた。


曰く、普通の乳牛が取引が厳しくなってからは手に入りにくいとの事らしい。

しかも、野性の雌ミノタウロスを家畜として捕獲するのは亜人族の間では御法度であり、それ以前に雄ミノタウロスの逆襲に合う事があるため、奴隷商人でも命がけじゃないと出来ない代物らしい。

…むしろ、亜人族を奴隷として扱う連中だから、始末したい所だが。



念のため、この町に奴隷商人が訪れる事があるか、ドワーフ達に聞いて回ったら、逆に奴隷商人達がこの町に訪れるだけで処罰する方針らしい。

と言うより、ドワーフ達も奴隷商人による拉致被害を受けてる為、奴隷商人達を尋問して仲間の居場所を聞いたりしてるとか。

現に、この町の収容所にいるらしいが、一切口にしないらしい。

…ちょっと訪れてみるか。



「んで、来たわけなのかよ…」

「そう言うことだ。…尋問の仕方が温いな」


上村と共に収容所に入った俺は、牢に入ってる人間の奴隷商人を見てみたが…

鞭で撃たれた痕は沢山あっても、全然へこたれた様子は無かった。


「なぁ、ドワーフの監督さんよ。こいつ何日目なんだ?」

「んー…もう一ヶ月は過ぎてるんじゃが、一向に吐こうとはせんわい」


現場監督のドワーフの尋問には、全然堪えてないらしい。

…ちょいと一役買ってやるか。


「なぁ、監督。責任は俺が取るからさ…ちょいとやらせてくれないかね?」

「うーむ…わかった。責任は取るんじゃな?ちゃんと吐かせてくれよ」

「無論だ、ちゃんと吐いた方が良かったと思わせる事をしてやるまでだ…。美恵、居るか?」

「…ここに」


俺の掛け声と共に、美恵はゆらりと現れ、俺の背後に立っていた。

…同じトロールになってからも、使用人兼監視者のスキルは健在だな。


「あの親父一族の仕置き術、やるぞ」

「…良いでしょう。ご協力致します」


そういって、俺は監督から鍵を開けてもらい、中に入っていった。


「な、なんだお前らは!?」

「新しい尋問官。さて…ちょいと失礼…っと!」


俺は美恵から受け取った裁縫用の針を一本拝借し…奴隷商人の男の左足の…

それも体のツボになる所にゆっくり当て…一気に刺し込んでやった。


「ぎぃいいいいいいああああああああああああああああああああああ!?」

「おお、ごめんねごめんねぇ。俺って加減が難しくてねぇ。お前さんの足を優しく注射をしてあげるつもりだったが、ついつい…思いっきり針を差してしまったな。流石に痛かっただろうねぇ?」

「てめ…ぶっこrあぎゃああああああああああ!?」


男が反撃の言葉を出す前に、美恵がもう一本針を出して刺していた。

…正直な話、人体の針ツボに関しては、美恵の方が知っているがな。


「御免遊ばせ。私も加減を間違えましたわ」

「おお、怖いね怖いね。若気の至りで、つい死んじゃったとかの展開にぃ?…なっちゃうかもねぇ。…なぁ、おっさん。ここで吐いた方が身のためだ。楽になるぜ?」

「だ、誰が…俺達人間よりも下等な連中にぎゃあああああああああ!?」

「だからよぉ。元人間様からのご忠告だ。俺がやるのは、ただの鞭打ちとかそんな生温い物じゃないんだぜ?ていうか、今足に刺してる所、早く抜いて置かないと、足が腐るぜ?なんせ、足全体の血流に関わるツボと言う刺激の場所でな。あんまり刺激が強すぎると、足全体が緊張しすぎて血が流れなくなって…お宅の足、あんまり時間掛けすぎると針抜いて解放された所でも、緊張の余りに血流が悪くなったまま血が回らなくなって、肉が腐り落ちて、最悪は切断しなければ腐敗毒で死んじゃうかもよ。そうなりゃあ、お宅は各地に回って商売も出来ないどころか、足無しの人間として虐げられてさ、乞食の様に懇願しながら余生を過ごす事になるかもよ。それとも、その辺の魔物の餌にされて、明日の無い命となるかもなぁ…フフフ」


その瞬間、男の顔から鼻水と涎をダラダラ流しながら泣いており、今にも狂乱して暴れそうな勢いであった。

…毎度思うが、西園寺一族の尋問方法の一つ針攻めは恐ろしいものだな。

人間は極度の痛みと煽りによる恐怖が過ぎると脳の活性化が衰え、まともな思考が出せなくなる反面、誘導尋問がしやすくなると言う。

ただ、文字通りにやる側に非道性も晒してしまう為、現に上村と現場監督にドン引きされてるのが現状である。


まぁ、これでも吐かないならば、美恵と共に禁断の針尋問を行なうだけで、あるんだがな…


「わ、わかった!わかったからこれ以上は止めてくれ!!俺達が仕入れた亜人達は…全部エルフどもに売った!!あいつ等、何やら実験をする為に亜人族が大量に欲しいといってんだ!!嘘言ってねぇ!!それに、余った亜人どもは協力している王国の王都にも売った!!本当だから!これ以上は止めてくれぇ!!」

「はい、ご苦労さん」


そういって、俺と美恵は男の足に差していた針を一気に引き抜いてやった。

無論、抜いた時の痛みと言うのも教えていなかった為、抜かれた時の激痛で男はショックのあまりに気絶し、体を痙攣させながら失禁して動かなくなった。


「…以上だ。ドワーフ全員に伝令を」

「お、おぅ…」

「おめぇら…なんちゅう尋問を…」

「それと…長老にこの用済みの男をくれないか聞いてくれ。やっておきたい事があるんでな」


そういって、俺は気絶した男に近づいていった…









「アレで良し…と」

「直幸。俺…錦治を敵に回さなくて良かった…」

「諦めろ、宏。既に俺達も通った道だ…」


あの後、ドワーフの町から一里ぐらい離れた場所にて、十字架に磔にされた奴隷商人だった男を裸にしてから放置していた。

無論、足には大量の針をぶっ刺しながらである。


そして、その男の隣には、この異世界での共通語で書いた看板を立てておいた。


”多種族の亜人を奴隷として売りさばいた人道なき非道人、ここに処する”…と。


我ながら、良い仕事をしたものであった。



「やっぱり、お主もあの男に通ずる物があるな…」

「これでも遠慮している方ですよ。次に奴隷商人どもが何かしてくるならば…、アレ以上に面白い事をしてやるまでですよ」


長老にそう言いながら、俺は皆の待つ場所へ帰っていった。

無論、影のように無言で着いて来る美恵と共に。





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