第31話 鎮守の森
翌朝。
とりあえず、次の目的地としては…エルフと他の亜人族が沢山居るとされる、「鎮守の森」という場所へ目指す事にした。
最初に俺達が居た森は、この王国では「原初の森」と言われ、エルフ達が居る森とは別に、魔力等の感知しない原生動物と魔力量が少ない魔物と亜人達が、沢山いる森とされていた。
魔力の少ない原因としては、外界に近い場所である為であろうというのが、見受けられるからだ。
「というわけで、着いてみたが…」
「うっわぁ~…なんというか…」
森の入り口を見てからに、俺達は本当の意味で冷や汗を掻こうかと思った。
…普通、エルフと聞いたならば、清楚な森をイメージしそうであるが…この森は別次元であった。
物凄く禍々しい。
というより、魔界の森にやってきましたと言うレベルでヤバイ。
全体的に木々の葉っぱがどす黒く、人を寄せ付けさせるような植物じゃないし、何よりも凶悪な魔物が徘徊してそうだ。
こんなところに住むエルフとなるならば、もはや闇に堕ちたダークエルフあたりじゃないかと…
「さて…どうしたものか…全員森に入ったら、確実に何人かは行方不明になってしまうなぁ。エルフかダークエルフのどっちか知らないが、あいつらも魔法等の罠を仕掛けて、人間や他種族の亜人達を森に迷わす幻覚魔法は使ってるだろうし」
「んじゃ、俺達は留守番しておこうか?なんていうか、その辺の知識は疎いし」
俺の問いに、直幸達が手を上げて答えてきた。
確かに、直幸達ミノタウロスあたりはヤバイな。
大型の亜人系の場合、幻覚魔法とかの耐性が低そうだ。
…とりあえず、編成を組んでおくか。
あの後、森に入る面子はおれを含めた何時ものE組面子と、蓮とシャルトーゼのアラクネ二体にした。
なんだかんだ言って、俺達E組面子のステータスは異常らしい。
全員がエース級の実力があるとかなんとか、直幸達や次郎さん達から見ても全員最上位級の一歩手前だとか。
…そんなにレベルが上がったのか?
まぁ、今の俺でレベルが25になったぐらいだからなぁ。
…やっと5上がったぐらいなのか。
ただ、その5と言うのは馬鹿に出来ず、レベル1上がる度に体力や魔力の上昇が半端なく、遂に体力が一万を突破してしまった。
これなら、ジャイアントの一体ぐらいは苦労せずに倒せそうだ。
ちなみに、本来ならば直子も待機組にしたかったのだが…「いい加減、寝込んでばっかだったから体を動かさないと置いていかれる!」との一点張り。
仕方ないので、予め美恵が用意していた赤ちゃんおんぶ袋を用意してくれたから、それで赤ちゃんを背負って一緒に行動する事にしていた。
…本当、ゴブリンとしての生命力強化が半端ないな。
今ではホブゴブリンだけど。
そんな感じで、八人総出(+赤ん坊一人)で森の中を探索をしていた。
…一応、蓮達にアリアドネの糸の役ではないが、迷わぬ様に糸を張りながら進み、警戒をしていたが…やっておいて正解だった。
「兄さん、糸達の反応で分かったけど…この森の木々、生きて移動してる」
「やはりか。恐らくはドライアド…ドリアードの仕業だな」
ドリアード。
木の中に住むと言われる、いわば木の精霊そのもの。
西欧諸国では、ドリアードと共存する地域では精霊としての恩恵を与えるのだが、木々を切ったり、燃やしたりなどの森を破壊するものには容赦はしない。
また、殆どのドリアードが女性である為、木こりなどの人間の男や、亜人の男を捕まえて、ドリアード自身の繁殖目的で木々の中に取り込んで一生を終らせる…
という逸話も存在する。
まぁ…そんな話をする大半が、元々が森などで殺人を犯した後に木の根元あたりに埋めて、その根元に埋めた遺体が、年月を掛けて大木の中に移動していたと言う、オチであったりするんだが…
今移動させているドリアードが宿った木々は、俺達の逃げ道を塞ぐ為に移動して、固まってる感じであった。
そう、まるで俺達を奥へと追いやる為に。
「…エルフ達の差し金かもしれないな」
「ふーん…エルフかぁ。錦治っちはエルフは好きなの?」
「いや。逆に言えば、容姿がよくでも性格が駄目な奴らだから余り好まないな。ドワーフ達がガテン系で頭固いキャラなら、エルフ達は公務員等のエリート系で頭の固い奴等と言えば分かるか?」
「うっわぁ…それは相手したくないわ…」
「しかも、あいつ等の殆どはドワーフ以上に多種族に排他的だ。くれぐれも背中の赤ん坊に怪我をさせないようにな。直子」
「大丈夫大丈夫♪…あかりの事なら、私が責任もって守るから♪」
あかり…か。
そういえば直子の奴、小学の頃に言っていたな。
もしも自分の子どもに名付けたいなら、あかりにしたい…と。
親から期待されてない子として生まれた直子の事だから…せめて自分の子に明るい名前を与えて、元気一杯な子にさせたいと言ってたな…
「それだけ大きく出たな…本当に、大事に守れよ…」
「錦治っち…それもあるけど、本当に守りたいのは…」
「ああ。俺は大丈夫だ…もっと力をつけねばな…」
そう言いながら、俺達はまた歩き出した…
大分歩いた所で、一旦休憩を入れるため、俺達は囲ってから火を炊き始めた。
そのついでに思いついた事があった。
創生魔法の事だ。
美恵の話を聞けば、創生魔法は誰もが持っている魔法でもあるが…その魔法効果は術者自身の心の中にある渇望で決まっているものだと言われている。
例の話で美恵を例えるなら、「皆の生を影から支えたい」という渇望の元ならば、美恵の創生魔法の属性は「大地を支える闇」となり、地と闇の属性となるそうな。
前回の巨人族に使った創生魔法は闇の部分を強く出しただけで、あとはイメージを思いついて詠唱してみたら、発動したとの事。
「ねぇ、美恵っち。その時の魔法の詠唱ってさぁ…はっきり言えば詩じゃん」
「…そうなるわね」
「そうなるとさぁ…美恵っちて、厨二病ポエマーじゃん」
その時、俺と美恵、そして冴子も飲んでいたお茶を噴出してしまった。
いや、言いたい事はわかっているんだが…直球で言うか普通。
同時に、加奈子が直子の方に向いて言い返してきた。
「でも、直子ちゃん。詩というのは意味があるのよ。他人から聞いたら恥ずかしい内容でも、その思いを込められた詩はどんな言葉より心を通した意味となって、相手に伝わる事があるの。だから、美恵さんの魔法の詠唱は重要かもしれないの」
「そっか。そう言われると、仕方ないわね…ごめんね、美恵っち」
「…大丈夫よ。…それよりも、直子や良子にも、何かこうだと言うものは無い?」
美恵の問いに、直子はちょっと悩みながら考えていたが、良子の場合はすぐさまに何か思いついたらしく、美恵の方へ見ていた。
「私の場合は、『皆の為に情熱を燃やしたい』と言うのがあるわ」
「…良子の場合の属性は『光となる炎』だから、火と光の二つに属性になるわね。そして、二つの意味重ね合わせるならば…太陽の神とか、もしくは火の神とか、そのあたりの神に纏わる言葉を使えば、開花をするかもしれない」
「そうね。…今度、調べてみようかしら」
「あー、良子っちがそう言うならば…私は『皆よりも先に駆け巡りたい』かな」
「…直子の場合は、『煌きし疾風』となるから、光と風になるわね。風は疾走し、生命の恵みを与える役割を持っている」
「それなら…私は『皆と共に穏やかな時を過ごしたい』という気持ちがあるわ」
「…加奈子の場合は、『悠久なる水流』となるから、光と水ね。水は、生命を育み癒し、時には命の終焉を見届けるものだから」
「だから、私には最初から
「…そう言う事になるわ。上手く行けば、回復と攻撃を両方兼ねた創生が出来るかもしれない」
そう言いながら、美恵は他の三人に創生魔法の講座みたいな事をし始めていた。
…渇望か。
俺と冴子の場合の渇望は、あまりにも極端により過ぎている為、美恵から断言をされてしまった。
俺の場合は闇のみ、冴子の場合は光のみだと。
普通ならば、相容れぬ存在であると。
だけど、それは同性別の事であり、異性同士であるならば、最高の相棒となるとも断言された。
光が太陽であるならば、闇は月。
太陽と月があるならば、昼と夜があり。
闇が終焉を与えるならば、光は始原を与える。
混ざる事は無いが、無くてはならない関係。
つまりは、俺と冴子は二人で一つの神とも言えるような関係である。
そうなると、俺達二人の関係は
…まぁ、伊耶那岐と伊耶那美ならば、性別を逆転をせねばならないだろうが。
ちなみに、蓮の場合もあるらしいが…こればっかりは本人の秘密だそうな。
シャルトーゼからも問うては居たが、まだ話せないとの事。
まぁ、そこはのんびりと待つか、その時の戦いの際に創生魔法を使うのならば、問いかけてみるか。
だが、その前に…
「皆、向こうから仕掛けて来たぞ」
俺がそう言った瞬間、木々の合間から大量の矢が飛んできた。
当然ながら、事前的に冴子が大剣を突き刺していた為、結界が発動しており、矢は全て結界に阻まれて貫通せずに落下していった。
「随分と好戦的だな。エルフの癖に」
「なぁ…錦治。私、今気付いたんだが…」
冴子が草むらから出てきたエルフ達を見た瞬間に、疑問を思っていたそうだ。
「エルフってさ、普通は白いよな?あんなに黒い肌と銀髪のエルフがの場合は、どうなるんだ?」
冴子が言うように、出てきたエルフ達は全員褐色を肥えた黒肌で、銀髪の髪で纏っていた。
「…どうやら、この森の連中は唯のエルフじゃなく、ダークエルフのようだな。気をつけろ。こいつら非常に好戦的だ」
そういった俺は、ドワーフの町で新調した武器を構えていった。
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