第5話 初めての戦闘

バスの外から湧き出してきたのは、昨日のゴブリン達であった。


「キキィー!オカシラ!オカシラ!コノモノタチデス!!」


数匹のゴブリン達の後ろから、ボロボロの毛皮のローブを纏い大型の獣の頭蓋骨を被ったオーク…オークメイジがゆっくりと歩いてきた…


流石の原生亜人怪物同士なので、お互い警戒しながらも交渉はしたい。

なので、全員武器は抜かないという条件で携えて、外に出る事にした。

だが、オークメイジの最初に話しかけた言葉で、俺達全員驚いていた。


「ほぅ…壊れてはいるが、間違いなく俺が昔居た日本語でかかれたバスだ。しかも、見たことの無い市ナンバーではあるが、昔俺が住んでいた県のナンバーが書かれているな…」

「に、日本語喋ってる!?」


そう、目の前のオークメイジは…流暢な日本語を喋っていた。

もしや…この人は…?


「おお、やっぱりな。お前達もあの神に異世界転送されたんだろう?いやぁ、部下のゴブリン達から聞いた亜人怪物と思っていて警戒していたが安心したわ」

「あ、あのぅ…貴方もなんですか?」

「俺か?俺は20年前の学生で集団転送されて亜人怪物にされた生き残りだ。名前は…苗字忘れたが、次郎だったかな」

「次郎さん…でしたか」


なんてことだ…20年前からこんな集団拉致転送が行なわれていたとは…


「まぁ、流石に立ち話と言うのもなんだ。焚き木した後もあるだろうし、先輩として色々と教えてやるよ。安心しろ、この辺りのゴブリンやオークは全部俺とかつての仲間の子供だ。同じ亜人怪物の雌には襲わない様には教育しておいてある」

「お、お願いします…」


同じオークなのか、加奈子はかなり警戒していたが…

とりあえずは襲わないという事を明言していた次郎さんの言葉に甘え、俺達全員、彼からの情報を教授して行った。



なんでも、彼らもまた同じ様に勇者のクラスと魔物のクラスと分かれて異世界転送され、同じ様に世界中を廻っていたらしい。

しかし、亜人怪物でオークに変えられたのは次郎さん含めて三人で、後の生徒は殆どゴブリンであった。


その為、ゴブリンの存在が分からず、適当に暮らしていたために、勇者のクラス生徒にカモとされ、約七割のゴブリン生徒はこの世から亡くなった…

それを踏まえて、生き残ったゴブリン生徒を次郎さんを含めたオークが守る形で、色んな知恵を付けて生きてきたが…次郎さん達のレベルではこの森が限界だったらしく、人間達の町が襲えずに敗走、その後はずっとこの森で繁殖する為に、次郎さんを除く雌オークとなった生徒…つまりは奥さんと共に子作りしながら数を増やして維持をしていたそうだ。


「ただまぁ…二人の嫁の内、人間と交配して沢山オークの子供を生んだ家内は先日人間に討たれてな。他のゴブリン生徒もここにいるゴブリンの子供を残して同じく討たれて亡くなったんだ」

「そうだったのですか…」


やはり、普通のオークやゴブリンのままでは厳しいか。

となると、俺達の中で、トロール、オーガ、サイクロプスは激レアな種族を引いていたとはな…

悪戯とはいえ、あの神には変な意味で感謝せねば。


「して、もう片方の奥さんはどちらに?」

「もうすぐ来ると思いますが…来た来た」


次郎さんの後ろから現れたオークを見た瞬間、俺達は驚いていた…

どう考えても、スーパーモデル並にスタイルがよく、体型も優れた雌オークの美人であった…


「あら?あなた…この子たちは?」

「20年ぶりの日本から来た学生の子だ。紹介しよう、もう一人の家内の花子だ」

「花子です。今ではオークプリーストをやっております…」


敬語を使ってお辞儀をする花子さんに、思わず俺達はお辞儀で返していた。





花子さんからも聞くことによると、その亡くなったもう一人の奥さんは戦士でもあったため、息子達とゴブリン達と共に人間狩りを楽しみ、残ったオークメイジの次郎さんとオークプリーストの花子さんの二人で、群れで怪我したオークやゴブリン達を世話をしていたのだが…

今年あたりに大量の勇者生徒が一気に森に入り込み、先日の来襲の際に息子のオークやゴブリン達を虐殺してレベル稼ぎをして去っていったとか。

その際、たまたま離れていた次郎さん達は生き延びる事が出来たが、それでも親友であり妻であった彼女を亡くしてしまった事に、物凄くショックを受けて泣き続けたそうな。


その気持ちは分からんでもなかった。

今居るここの五人の内、誰かが死んだとなれば、残った者が辛い。

下手すれば復讐のために自暴自棄に成りかねないだろう。


だが、次郎さん達は悲しみを堪えて、今日まで生き残った亜人怪物を集めて、ひっそりと若輩女冒険者を捕まえて、腹いせに犯しながら子を増やそうと計画を立てていたそうな…


やはり、雄の性とは恐ろしいものであるが、相手が相手だ。

昔同じ人間だったとはいえ、息子達を虐殺した人間に怒りをぶちまけるだろう。


「それもまぁ…徒労に終りましたかな。昨日貴方達があった女冒険者が居ましたでしょう?彼女の身内が近隣の村に滞在していた勇者に依頼されて、巣を強襲され、彼女を取り返された挙句に虐殺を行なおうとした所、生き残った数匹のゴブリンの証言の元、ここまで逃げてきたのです」

「大変でしたね…」


良子が二人の苦労に労いの言葉を言ったその時である。

直子が何かに察知して、大きい声を上げた。


「敵襲よ!たぶん、次郎さんが言ってた勇者かも知れない!」

「ああ…もう駄目だ…」

「あなた…」


流石に見ていられなかった俺は、二人と数匹のゴブリンを守るため、皆で相づちをして武器を構え、勇者とやらの人間達を相手してる事にした。

どうせ生きて戻れるか分からないこの世界。

派手に暴れてやろうじゃないか。


「あれぇー?オークとゴブリンしかいないと言ってたのに、嘘つきじゃん」

「ちょっと待ってー?あれ、E組が乗ってたマイクロバスじゃね?」

「うっそー!ちょーうけるー!!」


ゲラゲラと笑っていた勇者の初期装備らしい旅人の服とマント来た女三人…

思い出した。

こいつ等D組の連中で、加奈子を苛めていたグループの悪女どもだ。


「ていうかさぁー、あそこに居る小デブオーク、奥村じゃねー?」

「うけるー!めっちゃブスの癖に、臭いオークなんてぇー!」


馬鹿二人の言葉に、加奈子は泣きながらも手製の槍で構えようとした瞬間、俺が前に立って出た。


「おいお前ら…俺の加奈子に好き勝手言ってくれるじゃねぇか?」

「えー?その声は横山ー?まじうざー」

「あとさー、なんか単眼でキモイのが居るんだけどー、あれ雑賀じゃね?」

「えー!ちょーきもーい!!わらえr」


最後の一人が笑えると言わせようとした瞬間、良子の手が出る前に、俺が木製の棍棒で、その女の頭を叩き潰した。


見事な破裂音と共に、悪女勇者の一人の頭を完全にミンチにしたのを見て、皆沈黙してしまった。


初めて…魔物として人間を殺す瞬間を、目撃したのだから…

だが、俺は…


「ゆるさねぇ…残りのお前らも…全員ぶち殺してやらぁ!!」


その瞬間、残りの悪女勇者の生徒はガチ悲鳴を上げながら逃げようとしたが、俺は逃がすまいと速攻で攻撃を仕掛けていった…






「もう止めて!錦治君!!」

「その人達はもう死んでる!!私達は大丈夫だから!!」

「き、錦治っち…!も、もう…やめなよ!!」

「…錦治君!駄目ぇ!!」


後ろから四人の制止の声が上がっていたが…俺はひたすら、棍棒が折れようともこいつらを肉一辺も残さずに潰していった。


絶対に許さない。

俺の大切な仲間を侮辱するこいつらが許せない。


その怒りが真っ赤になるたびに、俺はひたすら殴っていた。


だが、それも長く続かなかった。


「錦治ぃ!こっちを向けぇ!!」


冴子が、俺を頬に全力で殴って静止してきた。

しかも、目には涙を流しながらである。


「錦治!お前!どうしたんだよ!!ああぁ!お前らしくないぞ!」

「冴子…」


殴られた衝撃で熱が下がった事で、俺は辺りを見回して見た。

皆、恐怖で泣いていた…

次郎さん夫妻、部下のゴブリン、そして、冴子を含めた五人の女子も。


後一歩遅かったら、たぶん俺は取り返しのつかない事をしていたのだろう。


「すまん…本当にすまない…」

「分かりゃあ良いんだよ…良子も加奈子も、お前が庇ってこいつらを殺したのは分かってる…けど、それ以上はやらんでも良い…何もかも背負うな!馬鹿野郎…!」


そう言いながら、冴子は泣きながら俺を抱きしめ続けていた。

ああ、こいつが一番怖がっていたな…


それが分かった瞬間、俺は棍棒を地面に落とし、冴子の胸で泣いていた。


その時である。

例の神がメッセージを送る様に語りかけてきた。


”うっわぁ~…ミンチよりも酷い死に方ねぇ…ええっと、ああ、あったあった。D組の生徒の不良少女三人ねぇ。今回は勇者側だから、私の加護の慈悲で王様のお城に転送しておくわねぇ。でもまぁ、こんなにミンチにされちゃった後に蘇生となると、トラウマ持っちゃうかもね。でも、それも楽しみだからやめられなぁ~い♪キャハ♪”


怒りが再び込みあがって来そうだったが、心配させない為にもここは我慢していた。


”でもまぁ、これで勇者側の生徒諸君も身をもって分かったと思うけど、生半可にモンスターに挑んだら、簡単に死んじゃうから気をつけてね。あと…ちっ、E組の皆さんは初勇者討伐しましたから、ボーナスとして全員レベル1上げさせまーす。おめでとうこの糞野郎。それじゃあ、引き続きぃ~勇者と魔物の人生を楽しんでくださいねぇ~♪じゃないとぉ、犯罪者みたいにこそこそと生きてる先任者の魔物達みたいに一生怯えて暮らさないといけないですからねぇ~♪キャハハハハハ♪♪…おらぁ!D組の落ちこぼれどもが!ちったあオークをぶっ殺せるぐらいにレベルを上げろやぁ!!”


神の暴言がプツンという音と共に消えていくのを確認した時、例の悪女勇者達の屍骸が光と共に消えていった…


どうやら、そのお城とやらに搬送されたそうだな…


同時に、俺達E組全員が何かの力が入り込むように、力がみなぎり、何か新しい事が出来そうな気配があった。



「…糞ったれが。私らを競わせる為に魔物と勇者に分けたのかよ」

「恐らくそうだろうな…冴子、もういい。落ち着いた。だから…」

「…?だから?」

「いい加減、胸を押し当ててくれるのやめてくれ…男としてヤバイ」

「あっ!?ば、こっ、このスケベ野郎!!」


緑肌なのに顔真っ赤にした冴子に、思いっきりビンタされてしまった。

理不尽だ。





とりあえず、落ち着いたことだし…

次郎さん夫妻とゴブリン達、そして五人にもう一度謝っておいた。


「大丈夫だよ…錦治君」

「むしろ、私に代わって…手を上げさせてしまって御免なさい」

「気にするな。アレは俺の我儘だ。お前らを常に侮辱した挙句、亜人を馬鹿にしていた。それだけは何があっても許さない」


本音であった。

もし万が一、あいつ等が復活して逆襲するならば、俺は何が何でも返り討ちにして相手にするつもりだ。

もしくは、一緒になって奴らを仕留めてやる。


「錦治っち…私らにも頼って良いんだからね」

「…あと、過激にならないで」

「すまない。直子、美恵…」


直子も美恵も、俺に対してはもう警戒はしていない。

むしろ、自分達も頼ってくれというように、俺も二人の力には手を貸して貰わねば…


そして…


「改めてありがとうな、冴子。お前が殴らなければ、多分俺はずっとあいつ等の死体を嬲り続けていた。心から感謝してる」

「いいよ、そんな堅苦しいの。私は私の心配で、あんたをぶん殴ったんだから、遠慮なく私らを頼れ。何もかも背負い込むな」

「すまない…」


やっぱり、冴子としては俺が過剰暴力を起こす事に常日頃から心配してる事に、改めて気付かされた。

…加奈子を助ける際に、A組の優等生数人を全治一ヶ月ほどの骨折などを大怪我させるほど、血反吐を吐かせるまでボコボコにした際も、一回はぶん殴られて沈静化されたっけか。

そう考えると、俺は冴子に支えられている事に気が付いた。

本当にありがとうな…


「どうやら…仲直りは終ったみたいだな」

「次郎さん…すみません。御見苦しい所をお見せして」

「いえいえ…逆に助かりました。改めて…君と彼女達の勇敢さには驚く事ばかりだよ。俺も、君みたいに勇敢だったらなぁ…」

「次郎さん…」


そんな次郎さんの様子を、花子さんが寄り添って慰め、ゴブリン達も同じ様に寄って心配していた。

すると、そんな次郎さん達を前に、冴子が前に出て尋ねてきた。


「ねぇ、次郎さん…良かったら、私らと共に来ませんか?少なくとも、うちらはまだ青臭いガキなんだ。少しでも保護者な大人が必要だと思う。無理なら良いんで、返事だけ聞かせてもらいますか?」


珍しく、冴子が丁寧語交じりの言葉で話し掛けている事は、それだけ真剣なんだろう…

経験者と共に居るならば、この先は多少は大丈夫だろう。

ただ…良くも悪くも、彼らは人間からすれば犯罪者でもあったりする。

人間の女…村人や冒険者の女性を監禁し、繁殖した経験もあるゆえに、人間側から賞金も掛けられているだろう…


「良いのか…?俺達みたいな役立たずなどを…?」

「逆に言うなら、私らはもう後戻りは出来ない。錦治が手を出そうが出さないだろうが、私らは他の学生勇者達の敵となっているんだ。少なくとも、私らはまだ魔法なんてものをあんまり知らないし、魔法使いであるお二人の力を貸して欲しいんだ。頼む…」


冴子の問いに、次郎さん達オーク夫妻は考えて…そして、返してきた。


「その前に、一つ整理したい…良いかな?」

「うん、分かった…」


恐らく、残ったゴブリン達だろう。

この世界で生まれた彼らには、巻き込みたくないと言う気持ちもあるし、彼らを置いて何処かに行く訳にもいかない。

そう決断したんだろう。

だが、ゴブリン達の反応は意外なものだった。


「オカシラ、オカシラハモウ、オレタチジュウブンツクシテクレタ」

「オカシラ、オカシラトオフクロ、イツモイッテタ。カエリタイト」

「オカシラ、コキョウニカエル、ソレ、イイ。デモ、オレタチノコキョウ、コノモリ、ダカラ」

「ダカラ、オレタチ、ココデクラシ、ココデホネヲウメル。キニシナイ」

「お前達…」

「本当に、ごめんなさいね…」

「キニシナイ!オレタチタクマシク、イキル!!キョウ、トロールサマ、アエテヨカッタ!!ダカラ、オレタチモ、ガンバッテ、カズフヤス!!」

「トロールサマ!オーガサマ!オカシラ、タノム!!」


ゴブリン達の言葉に、俺達は感謝を述べ、良子がゴブリン達に餞別として手製の短剣をゴブリン達に渡していった。


「流石にその銅剣じゃあ、心もとないでしょ?私なりで作成した武器を渡してあげる。頑張りなさい」

「ア、アリガトウゴザイマス!サイクロプスサマ!オレタチ、ガンバル!」

「オカシラ!オタッシャデ!!」


良子の短剣を貰ったゴブリン達は、手を振りながら次郎さん達と別れ、森の奥へと消えていった…

逞しく生き残って欲しい。


「では…改めて、次郎さん。宜しくお願いします」

「あ、ああ…よろしく頼む。ええっと…」

「錦治です。トロールキングの横山錦治と言います」

「私は冴子。オーガの小川冴子だ」

「お、奥村…奥村加奈子です。次郎さん達と同じオークです」

「私は小早川直子。ゴブリンよ」

「…土呂口美恵。トロール」

「最後に私、雑賀良子。見ての通りのサイクロプスです」

「錦治君に冴子君、加奈子君、直子君、美恵君に良子君ね。改めて俺は次郎、よろしく頼む」

「既に名乗りましたが、花子です。宜しくお願いします皆様…」


ゴブリン達と別れた、オーク亜種の二人を仲間にした俺達は、再び荷車と生活物資の作成しながら、旅支度を始めていった…


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