第17話 村の男達の逃亡、そして冴子との決闘

ギルバートさん達も合流し、更に一週間ぐらいが過ぎた。

村人達も、役人やベヒーモスからの脅威を去ってからは元の農作業をやっていた。

亜人化したとはいえ、元々が勤労的な女性陣達であったので、割と淡々と作業しているのが、よく目に当たる。

それに対して、男性…特に亜人になってない人間のままの男達は、完全に不平不満が溜まっていた。

常に自分達人間は下、亜人達の男の方が優遇されている、反抗すれば亜人となった女…特に妻だった者に性欲を搾り取られる。

そんな毎日が嫌で、密かに抜け出そうか考えているのが目に見えている。


そこで、俺は一つ発破を掛けた。


「あんたら、そんなに不満があるならば俺に挑めば良いだろ?何を燻っているんだ?それとも、そんなに前の人を売り飛ばして甘ったるい汁を啜っていた時が恋しいのか?」


あえて人間の男達に挑発する事で、向こうから引き合いを出そうとした。

だが、男達の答えは、予想以上に屑ったれであった。


「もう沢山だ!あの時の贅沢を味わえない上に!毎日女達の下で働かせられ!反抗すれば女達から無理やり押さえ込まれる生活なんざ、もうこりごりだ!」

「俺達はこんな生活なんかしたくはねぇ!!この村から出て行ってやる!」

「どうせあんたに挑んだ所で勝てっこねぇし、オラ達はただ暮らしたいだけなんだ!!ほっといてくれ!!」

「…最後に聞く。妻と子供はどうするんだ?」

「もう人間じゃねえ子供や妻なんか知らねぇ!俺達は人間なんだ!!人間じゃない亜人なんか、化け物そのものだ!!」


ぶっちゃけると、ここまで文句を垂れられたら、どうしようもない。

村の女達は総出で鎮圧しようとしたが、俺は彼女達を止めた。

そして、良子から何本か剣を貰い、男達に全員に投げ渡した。


「村を出て行くなら好きにするが良い。そして、餞別としてもって行け。何処とでも行くが良いさ。但し、二度と村に戻ってくるな。自分の妻や子供に、それだけの大口の暴言を叩いたならば…な」


剣を投げ終えた同時に、俺は干し肉の入った袋も幾つか投げ渡し、出て行く男達に引き止めないで居た。

出て行きたければ、好きにすれば良い。


但し、与えられる温情はここまでだ。

もしもこの村に攻め入る時は、敵として相手をする。


そう言い聞かせるような睨みをした俺を見た男達は、黙って剣と食料を手に取り、力無くして村から出て行った。


「良いのかね?彼らを村から出して」

「…無理して引きとめても、いずれ爆発して騒動を起こします。ならば、彼らに好きなようにさせるならば、この方法しかないでしょう」

「錦治…お前…」

「直幸、次郎さん。後は彼らの努力次第という事で良い…それだけだ」



俺はそう言いながら、村に戻っていった…





夫が出て行って居なくなった、亜人になった元妻達は意気消沈をしていた。


ただ出て行くならばまだしも、あれだけの暴言を吐かれていては、どうしようもない…


そこで俺は、昨日さり気なく狩ってきた猪の肉を村の中央で焼き始め、落ち込んでいる亜人の女性達に配っていった。


「男達が出て行ったのは仕方ない。だが、貴方達まで落ち込んでいては子供達にも影響を与える。ならば、残った者達で次の世代を育てて行けば良い。飯食ってから、子供の為に頑張ってくださいな…」


そんな単純なものではないが、少なくとも何もしなくなるよりかはマシだ。

俺はそう思いながら女性達に伝え、その場から離れていった。


立ち直るか直らないかは、本人達の次第だ。

少なくとも、まだガキな俺には語るのは早い。




一通り後、改めて俺は現状の状態を見直していった。


まずはレベル。

現状としては、もうすぐカンストしてランクアップするとするなら、直子と加奈子の二人と、次郎さん達だろう。

オークとゴブリンは比較的弱いがレベルが早く上がり、上位種になりやすいのが特徴。

その為、種族のランクアップをしたら問題なく前線に出しても大丈夫。

まぁ、直子に到っては、ゴブリンからホブゴブリンに進化して、身体的にオーガよりも劣るから、やはり後方支援と雑用中心になるだろう…

オークの三人は、全員とも魔術師タイプである為、前線は厳しいのだが、回復担当のが二人も居るため、安心感はある。

なお、オークの場合はハイオークとなるが、こちらは更に身体能力が上がり、並みの亜人達には勝てるだろう。


次に、美恵と良子であるが…

美恵に到ってはマイペースかつスローペースであるため、割と成長はしていないが…それでも俺と良子の次にスペックが高い為、問題は無い。

元々トロールは侵略者に対して凶暴性を秘めているが、基本的に警戒さえしなければのんびりとした大人しい種族である為、俺としては気にしてない。

というより、同種の本能なのか、俺の子を作ろうと躍起になってるのだけは、どうにかしたい所だが…


良子のサイクロプスに関しては、此方は大器晩成だという認識にしてる。

最上位の亜人であって、元巨人族の末裔でもあるため、後半の成長は物凄く遅れを取ってはいるものの、それを補うぐらいにスキル等も補填されている為、何の心配も無かった。

ただ、最近はさり気なく甘えてくる上に嫉妬も混じってくるから怖いが…


直幸と江崎姉妹のミノタウロス五人は、予想以上の結果を出してた。

人間だった頃に比べて成長をしており、一度の戦闘で羽鳥を何羽も狩って来る程に急激に成長をしていた。

やれば出来る奴らだとは思っていた。

ただ、直幸の四人の夜の営み相手には、少々お疲れ気味だが…

まぁ、実質亜人夫婦となったから、仕方ないだろう。

ただ、上位のミノタウロスである為、最近は成長速度が失速気味。

この辺りの通常魔物では、厳しい所だろう。


蓮に関しては、俺から口出す必要ない。

今回アイツは前村長に囚われていたが、ここまで一人で来れるぐらいにレベルはあった上に、アラクネになってからは更に成長をしていた。

恐らく、アイツならばベヒーモス以外の魔物と相手するならば、勝てない敵などほぼいない。

それに、アイツは剣道もやっていたから、今度長剣を一つ進呈をしておこう。


ギルバートさん達は、文句なしのエース級のリザードマンであった。

元々が騎士の時の強さがあったが、あの時は食糧事情による空腹で力が出せてなかったが原因だった。

その上に、同じ竜人族であるリザードマンという種族の力により、更に増して、戦力としては申し分の無い強さであった。

特に、剣術に関しては本職の腕前があるため、蓮などの剣を使う亜人の指導教官としてやってもらう分には、本当に助かる。


と、そんな感じで考えていたが…

最後に残った冴子。


正直、オーガとしてはレベルカンストして、次の種族ランクアップは出来るはずなんだが…何処かおかしい。

何か、障害があるんだろうか…?

…一度、本人に相談してみるか。


「なぁ、錦治。話があるんだ…」


そんな事を考えていたら、冴子が話しかけてきた。

…どうやら、向こうもそんな考えだったようだ。







村の入り口まで歩いた俺と冴子は、改めてお互い見つめ合っていた。

だが、それは普通の男女の仲のではなく、好敵手ライバルとしての目でだ。


「錦治。いや、トロールの王の横山錦治。私、オーガの小川冴子が、正式にお前と決闘を申し込む」

「ほぅ、その理由とは?」


俺がそう言い返すと、冴子は普段つけていた鎧をゆっくりと外して行き…


「この異世界に来てから、お前は変わった…あの時よりも強く、そして、勇ましくなった…」


鎧の下に着けていた、かつての学生服の改造した服も脱いで行き…


「だが、お前に対して恐怖も抱くようになった!」


服の脱いで、地面に投げた冴子の姿は、スポーツ用の女性インナー姿を晒しながら、俺に向かって拳を突きつけていった。


「このままお前を放っておいたら、私から離れて一人で暴走する。ゆえに、ここでお前と正式に決着をつけて、お前を私から離さない様にする!もうお前を、一人で何もかも抱えて行動させねぇ!!」

「そうか。冴子、お前は…あのベヒーモスの時に気付いたんだな。俺が奴の首を取ろうと笑っていたことに」

「ああ。…このままだとお前、あのオーガ達と同じく突撃して死にそうで、怖いんだよ、私は…。だから!!私が勝ったら、もう冒険などさせねぇ!ここで大人しく私らと共にひっそりと暮らしてもらうぞ!!」

「俺が勝ったら?」

「お前の背中を意地でも守ってやら!もう一人で何もさせない!!」


無茶苦茶な言い分だ。

だが、それでこそ冴子。俺が生涯信用できる女の一人だ…。


「良いだろう!お前のその決闘、受けて立とう!!」


俺もまた、上半身を纏った鎧と服を脱いで裸になり、拳だけの決闘に受けて立った。


「…行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


そこから、俺と冴子は…トロールとオーガの決闘を始めていった…




…殴り合いの決闘をしてから大体10分ぐらい経過した。

冴子の顔からは、口の中を切ってから出血し、口から血を出し、胸などの上半身あたりには拳の痣が大量に出来ていた。

無論、俺に到っては、目の周りと口に大痣が出来、鋼のような堅さのあるトロールの体に無数の拳後が出来ていた。




「はぁ…はぁ…しぶといな…」

「お互い様だ…人間の時よりも強くなったな。冴子」

「はっ…!まだまだこれからだ!!」


冴子はよろめきながらも、俺に対して向かおうとしていた。

…だが、それは痩せ我慢なのは、俺から見て分かっていた。

所詮、通常種のオーガが、最上位種のトロールキングに勝つのは、無理である。

況してや、今のオーガの冴子のレベルが、カンストの100であるが、体力がやっと1200、魔力が700ぐらいであろう。

対する、今の俺のレベルは10であるが…体力が4500の、魔力が3000という破格の強さを誇っている。

普通ならば、ジリ貧で負けてしまうのが目に見えている。

だが、俺はそんな結果が待っているだろうと、冴子が戦う意思を止めない限りは続ける


それが、小川冴子の意地という奴だ。


「もうやめなよ!姉御!!錦治っちも!!」


直子の声が聞こえていたが…冴子も分かっているだろう。

”止めるな、この馬鹿”…と。

他の皆も、特に直幸らあたりは止めに入りに来そうであったが、美恵、良子、蓮の三人で制止に入った上に、あのギルバートさんですら加わって、誰も邪魔をさせないようにしていた。


異世界人とはいえ、やはり意地の入った決闘に、水を差すのは失礼だと、理解してくれたのだろう…。


その好意に甘んじて、俺は冴子に最後の発破をかけた。


「どうした?もう終わりか?そんなんでは、俺を倒せんぞ」

「…ふざけるな。まだ終っちゃいない…終っちゃいないんだ!!」

「その割にはふらふらしてるぞ。やはり、今の状態では勝つのは無理だな」

「…ああ、そうだな。そうだとも。だがな…種族なんて関係ないんだよ!力が欲しい…もっと力が欲しい…お前と互角になれる力が欲しい!!乗り越えたい!お前と共に横に歩けるぐらいに強くなって乗り越えたい!」

「…その力を得て、何に成りたい?」

「お前の盾になりたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その瞬間、冴子の体から光が放たれ、その光が冴子の体を包んでいった。


「これは…?ランクアップなのか?」


いや、違う。

恐らくは、通常の存在進化ランクアップとは違う、もう一つの存在進化…特殊進化クラスチェンジだと。


…どうやら、種族の進化はまだ先であったようだが、冴子は別の進化を手に入れたようだ。

そして、光から解き放たれた冴子の姿に、俺はほれ込んでいた…

通常の亜人らしい緑色のオーガの姿から、純白に輝く真っ白い肌をした、ホワイトオーガに進化した…

そして、もう一つの力も目覚めたようだ…


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


型は無い様だが…あれは立派な光の魔法属性…

聖騎士パラディン?いや、あれは不殺の神の使徒がなれる職業。

冴子が言う守るための力と成りたいならば…守護騎士ガーディアンナイト

たぶん、それだろうな。


そう考えてた俺に、冴子は容赦なく光の拳を叩きつけてきた。

無論、鋼の肉体とはいえ、アバラを何本かやられただろう…

そして、俺の属性が闇ならば、冴子の光は猛毒だ。

相当なダメージを打ち込まれたのは確実だ。

だが…


「見事だ。だが、お前に負けるほど俺は軟じゃねぇ!!」


俺も負けじと、殴った反動で動けない冴子の胸に、闇の拳を打ち込み、冴子を気絶させていった…


流石に、女の顔はこれ以上殴りたくないし、腹を殴るなんて無理だからな。

許せ。





「…気が付いたか?」

「錦治…?私は…どうなった?」


漸く目が覚めた冴子を、俺は優しく語りかけた。

ただ、上半身は包帯だらけになったがな…

顔面の治療は加奈子と花子さんのおかげで、両者共に治せたが、胸の骨とかは三日ぐらい治療がかかるとな。


流石に、二人から怒られたのは言うまでも無いが、納得はしてくれたから、良い事にしてる。


「冴子…」

「なぁ、錦治…私は、負けたのか…?」

「…引き分けだ。お前を殴って気絶したと同時に、俺も倒れた」

「そっか…引き分けか。お相子な訳だ…」

「その前にだ…おめでとう、冴子。お前の中の迷いが断ったのか、直子よりも種族が進化した。鏡を見ろ」


そういって、俺は冴子を鏡に映してやると…冴子は驚いた顔をしてずっと鏡を見ていた…


「これが…私…?」

「そうだ。純白に輝く真っ白な肌と純白銀のような双角を持ったオーガ、オーガの聖なる光を持つ希少種:ホワイトオーガに転生した。しかも、ガーディアンナイトという職業特性をもってな…」

「わ、私が…聖なる光!?」

「お前が、悪ぶっているが曲がった事が嫌いなぐらいに正義の心と、俺を超えて守りたいという願いが重なった事により、進化前の分岐をへし折って、今の姿になったんだ。…今のお前なら、場合によっては俺と互角になった」


その言葉に、冴子は震えながら俺に抱きついてきた。

やっと、俺と同等と認められた事に…


「冴子…お前が言うこの村に留まるのは、それは出来ん。かわりに、絶対に俺は死なん。お前が守る限りは俺は絶対に死なん。それは約束しよう…」

「き、錦治…」

「だが、今言ったように、お前は俺の後ろを守れ。戦場で俺の背中を預けられるのは、お前という女以外は他に居ない。これからは頼むぞ。我が守護騎士よ…」

「…いきなり王様みたいに言うな。…だが、言い返すならこう言ってやる。…お任せを、我が王よ。私は生涯、貴方の盾となって、守ろう」

「…随分と、染まってきたな。頼むぞ、相棒」

「ああ、どっかの悪いオタクに嵌ってしまったからね。任せてよ」


そう言いながら、冴子は俺に抱きしめながら、ずっと身を引っ付けていた。

うん、嬉しいんだが…そろそろ離れてくれないかね。


「…なぁ、錦治?」

「な、何だ?」

「…もしかして、興奮してる?」

「…察しろよ。今のお前、布を被せてるとはいえ、インナー姿だぞ」


そう言うと、冴子は顔真っ赤になって下向いたが…この前とは違って、いきなりビンタせずに、そのまま蹲っていた。


「…な、なぁ。その…」

「な、なんだ…?」

「し、したくなったらさ…遠慮なく私を抱けよ。ほ、他の四人は子が出来ちゃうけど…私なら、大丈夫だからさぁ」


冴子が例のアレの事を言いながら、俺のアレに発散を持ちかけてきたが…

そんな冴子を俺は頭を優しく撫でながら答えた。


「馬鹿野郎。それはそれだ…だが、一番最初に好きになって、お互い一番最初の友人として、一番最初の恋人として言うぞ。…愛してる」

「…うん。愛してるよ、錦治」


互いにそういった俺は、疲れて眠った冴子の頭を撫で続けてやった…







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