第18話  オーガ:小川冴子

小さい頃、物心が付いた頃から…私は一人だった。






昔から、私は家族の中…いや、親戚とかの親族を含めたら、一番出来の悪い子供だった。


五人兄弟姉妹の中で末っ子で育った私は、特に特待的な能力が無かった上に、保育園に入る前から特に目立った学習意欲もなかった。

その為、進学校を経営する親族からは落第者と呼び、両親からも兄姉からもあまり扱われなくなり、いつも家族とは別にご飯を食べ、外に出ても一人で遊んでいた…


保育園も、送り迎えは家政婦の人しかやってこないし、この家政婦の人もお金の為だけにしか私と接してくれなかったので、優しくは無かった。

そんな常に一人な状態で、保育園の砂場で一人遊んでいた時に、一人の男の子が話しかけてくれた。


「君、一人で遊んでるの?良かったら遊ばない?」


最初は戸惑っていたが、その時の私は素直に喜んで、その男の子とつるむ事にした。


その男の子こそが、私の最初の友人で、一番好きな男。そして今は夫となった男、横山錦治であった…





6歳に上がるまでは、何時も二人で遊んでいたが、先生達は嫌がってはいた。

元々成金達の子供が入る保育園であったが、錦治の両親と私の両親も、それなりのスポンサーとなっていたのは後で知ったが、出来の悪い私が平凡よりも才能がある錦治と遊ぶ事に気に食わなかったのだろう。

あの手この手で引き離そうとしていたが、その時の錦治の言葉が忘れられん。


「先生達は僕達の親ばっかりに気にして、仲間はずれを作る悪い大人だ!」


といって、先生達を突き放してくれた時は…正直嬉しかった。

それ以来、こいつとならば心が許せそうだ。

そう思って、私達は保育園を無事に出て、小学校へと上がった…




小学校に上がってからは、義務教育という事から普通の市立の小学校へと送られた。

兄姉達は私学の小学校へとやっていたが、私だけが普通の小学校。

しかも、昨今の時代はゆとり教育真っ只中であるため、あまり授業がろくでもないほど教えてはくれなかった。


流石に出来の悪い私でも、こっそりと兄姉からの教科書をパクって、自力で勉強していた分、ある程度は分かってはいたが…その時の小学校はそれ以下の授業で、馬鹿でも分かる内容の勉強をより分かり辛く教えていた。

しかも、私の担任だった先生は、当時学生運動などで名声を得ていただけの、何も出来ない教師の一角であった為、人望が薄いと言わざるを得ない。


いわゆる、屑の大人であった。


そんな中を、私は小学校六年間、ずっと錦治と遊んでいた。


親族の圧力とは凄いものでね。

成金同士の親の政略の為なら、ずっとくっ付かせておくらしいんだが、錦治自体は予定の女子とは別に、休み時間となれば私とつるむ事が多かった。

無論、私としては、喧嘩もするけど、こいつと一緒に遊ぶ事には、何にも抵抗も無かった。


それに、下校中も、錦治は親が勧めた塾に通わずに私と共にいて、お互い分からない所があったら、問題を解き合うほど一緒に居た。

…まっ、大半の宿題は、アイツに手伝って貰って解いて貰ったのは内緒だが。


そんな小学校の中、私達二人はある女の子を苛められてる所を目撃して、二人係でいじめっ子をボコボコにして助けてやった。

その時の女の子が、小早川直子。私の舎弟で二人目の友人だ。


当時から小柄であった直子は、常にクラスから苛められて、何かしらと因縁をつけられて、男子から殴られたり、女子からは一歩間違えば女としてヤバイいじめを受けていた。

当然、私と錦治は男子は徹底的に殴り、女子は直子以上に屈辱を与えて、二度と手を出さないように脅しも掛けておいた。


その後は根の葉の無い事を先生達にチクッてはいたが、私らの両親に媚び得る連中の事だから、もみ消しておいたらしい。


まぁ、そのおかげで、私と錦治の二人は小学校一の不良男女となって、恐れられるようになったわけ…


ただ、この時に助けられた温情で、直子は私を姉御と呼び、錦治も今の呼び名で慕うようになって、三人で遊ぶようになったな…



そんな六年間であったが…中学校だけは互いに分かれる様になってしまった。


錦治の両親が離婚したからだ。


正妻であった母親が浮気で、完全に亀裂が走ったらしく、錦治は母親に引き取られ、隣の中学校へと連れて行かれるようになった。

無論別れを惜しんでいたが、仕方が無かった。


その中学校以降、三年間は錦治とは会う事も出来ずに、直子と共に中学三年間、市立へと追いやられていた…


…改めて、錦治が居た時に勉強を頼っていたのが、痛かった。

市立の中学教育もまた、劣悪なもので、全学連の教師ばかりであったため、殆どまともな勉強せずに反日教育をする教師すらも居た。


もちろん、私はそんな教師の授業を受けない所か、授業を崩壊させて暴れていた為、完全に学年一の不良少女と扱われていた。


それも、私の両親からすれば願ったり叶ったりであり、上手くいけば親子の縁を切れるぐらいの扱いで、私に冷たく当たっていた。


思春期だった当時としては、本気で辛かったが…同じ世代の友人の直子のおかげで、完全に荒れずに済んだのは、良かった…




ただまぁ、そんな中を、まだ15にもなっていないメスガキに、縁談を持ち込む親達であったな。


しかも、よりによって、錦治の父親で、別の内縁の妻から生まれた兄息子と見合いしろと言われたんだ。


最初は「何ガキに言わせてるんだ?」言っていたが、強制的に連れて行かされ、その際に向こうが条件つけてきた健康診断も受けさせれた。


その時に、私は女として期待して生きるのを止めた。


当時の医者が、私の健康診断をした時に、残酷な現実を突きつけてきた。


「お宅のお子さん、将来は子供埋めませんですね」


本気で頭を殴られた現実であった。


どうやら、先天性的に卵巣に異常があったらしく、排卵が出来ない障害を持っていたようだ。


そのため、14あたりの第二次思春期にある初潮が来ても、私に生理痛も来ないし、体格も女らしくない貧相な体のままであった。


そんな結果だったのか、向こうの婚約予定者からこう言われたな。


「子供の産めない女なんて、価値の無い女だ」


正直、その時ほど荒れるものは無かった。

当然ながらその会場で暴れた私は正式に家を出され、高校は今の進学校にある旧校舎のクラスE組に追いやる形で、親族会議で決まった。

無論、卒業後は家族とは離縁も決まっていた。


ここまでくるとね、本気で愛されて無い子供だと分かったわ。

以降は、例の如くに不良少女として、学校一のコブ付き不良として、生きる事にした…


ただ、高校に入った時に、二つ驚いたわ…


一つは、直子が必死になって私がいる進学校に合格して、私と共に来てくれた事だ…


最初はどうしてそこまでと問い詰めたが、直子からは「姉御を見捨てたら、完全に壊れそうだったから付いて来た」と言い返したときは、本気で馬鹿だろと言った上に、ありがとうと漏らした。


もう一つは…あの錦治と再会できた事だ。

錦治の奴もまた、母親の確執の上にアイツの親族からの監視を含め、この学校に送り込まれたらしい。


ただ、あいつと再会した時は、どことなく活発だったあの頃とは違い、陰のある大人になって再会したような感じをした。

しかし、私と再会したと分かった瞬間、アイツは元のあの頃に戻って、接してくれた時は、本気で嬉しかった…



それからは…当時のアイツはC組であったが…

当時のD組に居た加奈子を特待クラスのA組の奴が苛めてた所を本気でボコッた所で、加奈子と共に私のE組のクラスに来て…


一時期E組に大量に落とされた連中の中、一人だけ黙々と別の勉強をしてそのままE組の仲間になった美恵…


学校一別の意味で破壊活動した上に、特待のA組の生徒を大怪我させてE組に隔離された良子が揃ってからは、吹き溜まりであった旧校舎のE組というクラスが活気付いた…


それから三年間、ずっと旧校舎に暮らし、禄に就職活動や進学…いや、全員元からそんなの気にせず、卒業したら皆でバイトしながらでもして会社でも立ち上げようかと考えていた矢先、例の修学旅行の話が上がり、やたらと親族である教師から参加するように言われたので、私達は卒業前の旅行として楽しむ事にした。







そこからが、あの異世界で…私達E組の連中全員が、亜人へと変わってしまったのを…


高校になって、結構映画を見るようになった私であったが、まさか冒険者ファンタジーの世界で…しかも怪物になったのはショックだった。

だがしかし、良子の単眼になったのは衝撃であったが…私に到ってはただ頭の部分に二本の角と…身長がでかくなっただけだし…

それに、ぺったんだった胸がボインになったことぐらいだったわ。

おかげ様で、そんなに衝撃を受けなかったな。


まぁ、直子と良子の心のショックを治し、気を取り直して異世界へ足を踏み入れたときは、凄く新鮮だった。


みなぎる力…


見たとこの無い才能…


そして、魔法…


何もかも、新鮮だった。

しかも、ここにはあの家族や親族も居ないし、錦治を束縛していた親達もいない。

まさに新しい一歩が始まった。


しかし、現実とはそうは上手くいかないものだった…


代わりとして、E組以外の奴らは、それぞれ勇者か魔物になったの聞き、私達亜人も討伐対象になっていることに突きつけられた。


別々の種族になったとはいえ、元は同じ人間を殺しあうのは嫌だった。

いくら悪い奴を殴ってきた私とはいえ、血を吐かせた事あっても、殺す事には躊躇していた。

やり過ぎて警察に捕まるのが嫌だったのもあるが、殺してしまう事に物凄く抵抗があった。


…思えば、保育園ぐらいの小さい頃に、偶然テレビで流れていた戦争のニュースを見た時、モザイクで伏せてあったとはいえ、本気で怖かったな。


そんな感じで、殴って血は見る分には多少は大丈夫であったが、血を流して動かなくなる寸前で殴った時は、本気で泣きそうになった。

かろうじて、そいつは息を吹き返したから良いけど、それでも私は、人間だった時のアレを見た時は、恐ろしいものだった。


そんな感じで、森の生き物…いや、魔物か…

そいつ等を狩る分には問題なかったし、直子以上に小さいゴブリン達を脅した時も、そう悪い感じは無かった…


だけど…次郎さん達を追いかけてきた、D組の連中を、私や良子よりも先に、錦治の奴があいつ等を全員殴り殺した時だ。


本気で怖かった…


アイツが…錦治が人の心を失って、あいつ等を死体をミンチになるぐらいに折れた棍棒で叩き潰す姿を見た時は、震えが止まらないぐらい怖かった…


だけど、誰かが止めなければ、あいつは壊れてしまう。


そう思った瞬間、私は泣きながら、アイツの顔を本気で殴った。

あいつを気絶させる勢いで殴ったが、あいつが少し怯んだぐらいで、実際は私の拳の方が、指の骨を折って大怪我をしてるぐらいだ。


だけど、アイツを目を醒ませる分には丁度良かった。

そして、正気になったアイツを、私は無意識で抱きしめていた。

怖かったと同時に、アイツが正気に戻って私の胸で泣いていた事に安堵した…


こいつは、私が見ていかないと…直子が私を正そうとした様に、今度は私がこいつを正していかねば…


そんな矢先、例の神の声も聞こえて、怒りで頭に沸騰しそうになったが、錦治が冷静になっていたから、私も我慢した。


ただ、アイツが私よりも初心だったのは、分かった反面…女らしくなった私の乳で興奮してくれたのは嬉しかったが、恥ずかしさで顔真っ赤になってビンタしてしまったのは、申し訳ない。


というより、私はこいつをぶん殴って沈静させるのは、人間の時も何回かあったか。

あん時は、A組の連中何人かを一ヶ月ぐらい病院送りするぐらいにボコっていた所を、私がぶん殴って治めたっけか?


なんにせよ。

私がこいつをどうにかしないとな…


その後は…次郎さん達から魔法を教えてもらったり、今の竜車となる草食竜の子を見つけたりしたっけか。

あとは…D組の担任の斉藤が、元勇者のチキン野郎だったのと、その斉藤が、例の神の使いに、一撃で殺された事だった…


あれはあれで、本気で怖かったわ…


錦治達ですら、手に余る相手である異次元魔物に頭を被り殺されたのは、佐藤達と戦っていた私達ですら手を止めるほど、衝撃だった…


まぁ、それもあってか、神の奴から特別警戒を解かれたのは、安心できそう。


それからは、佐藤と江崎達をミノタウロスに変化させていくアイツに、期待を寄せてはいたんだが…、江崎姉妹までもミノタウロスに変化させた理由が乳製品食いたかったという答えには、ちょいとシメてしまった。


うん、最初の時の羽鳥の焼肉と言い、魚と言い、お前は食べ物に関しては頭が働くなぁ。

…うんまぁ、下宿で禄に飯を食えなかった反動なのは仕方ないが、江崎達のミルクでチーズまで作るなよ。



その後、準備が整え終えた私達は、森を出て、良子から新調して貰った大剣をぶん回して、騎士達を相手していったが…

残り二人の騎士…ギルバートとフローゼの強さは半端無かったな。


木刀を適当に振り回していて、見よう見まねな素人の剣と、本職の騎士の剣の違いとは、考えさせられた。


今後の事を考えると、剣道も学んだ方が良いな。


一方で、錦治の奴が…敵の騎士団長の頭を潰したり…貴族の女騎士をアイツの腹違いの弟(こっちはこっちで驚いたが…)が、アラクネという蜘蛛女の亜人の毒を使って、魔物のアラクネを作ったりなど、あいつの人間への容赦ない行いに、色々と考えさせられた。




そんな感じで、あいつの非道に口を出す事が多くなったが…

あいつはあいつなりの信念で動いていた為、私の声が届きにくくなった。


…力さえあれば。


あの後も、私なりに剣を学び、村の外にいるとされる魔物も私一人で狩り、錦治の背中を追う為に、ひたすらレベルを上げた…


そして、気が付けば直子や加奈子よりも先に、レベルが100になり、カンスト…カウンターストップだっけか。

上限であるレベルまでは到達し、あとは存在進化ランクアップを待つだけであった…


だが、私はそんな気配が無い事に疑問に思っていた。



だから、私は一人で管理者と名乗るあの神に尋ねる事にした…





「…聞こえてるんだろ?返事ぐらいしてくれ」

”…本当に荒っぽいねぇ、あんたは。んで、こんな夜中に何のようなの?”

「答えろ。何故、私は進化しないんだ?」

”…あー、はいはい。ちょっと調べてみるから待って頂戴”


そういって、神は何かの資料を捲る音を立てながら、私のケースを調べていたようだ…

…ていうか、紙の資料が天にもあるんだな。


”あったあった。…あんた、なんか体に障害か何か持っている?”

「それが何かあるんか?」

”うーん、まぁ、ぶっちゃけるとね…管理者から言わせるなら、今のあんたから身体的信号が出ていてね。それに加えて心の中で何か引き摺ってる状態が続いているから、要はその二つの内どっちかを解決しないと、進化が出来ないようになってるわけ”

「そうか…人間だった時から、医者から宣告されたんだよ。子供が産めない卵巣に障害を持った人間だってな」

”あ…ごめん。なんか酷い事を言わせちゃって”

「気にすんな。…むしろ、お前にも人間らしい感情ってのがあるんだな」

”これでも人間などの生物は気にしてる方だよ。…まぁ、諸事情で、正体は教えられないんだけど、あんたみたいなレアケースの病症を持った人間には気遣いたくなるぐらいの感情は持っているんだよ”

「そうか…んで、どっちか一つでも解決すれば良いんだな?」

”んー…でもねぇ、私自ら改変する時は身体的な部分は全部良い方向に改善をするんだけど、相当根深いと強力なスキルを持つ代わりに制約がかかる事があるみたいのよね。…スキル:王の寵愛ね。これが原因かな”

「いったい、どんな特性なんだ?」

”んーとね。王からの寵愛…いわゆる男女の関係ね。これを受け続ける事で、無敵の強さと、王が生き続ける限り不老長寿の力を得る代わりに、代償として次世代の引継ぎ、つまり子どもを宿す事が出来なくなるの。あと、王に対して不信感を持ったりすると、加護の力が弱くなったりするから、もしかしたら、連動による反応で進化がしにくくなってるかもね”

「そうかそうか…分かった。大体は理解した」

”あとさぁ…あんたもだけど、あの王になった奴は気をつけた方が良いわよ。あんたもだけど、他の四人も含めて誰か一人亡くなったら、本気で手がつけられなくなるわ。たとえあんたでもね…だから、気を付けておいて”

「ご忠告はありがとう…ちっ…」


私はそう返答しながら、ふてる様に寝て…涙を流していた。


心の中の何処かで、あいつを信用してない自分が情けなくて悔しかった。


…媚薬の効果で、一回アイツに抱いた時は嬉しかったが、半分は怖いと思ってる臆病な自分に、本気で苛立っていた…




次の日からは、なるべく錦治の側に居るようになった。

少しでも、自分の中にある蟠りを消すように。

そして、夜もアイツの側で寝るようにしていた…

大体は皆がいるんだが、それでも私は一番密着する場所へと、寝るようにしていた。


そんな日々を数日してから、良子からこっそりと呼ばれ、私に問いただしてきた。


「冴子。少し聞きたいけど…貴方、最近調子可笑しくない?」

「どうしたんだ?急に。私は今までどおり普通だよ」

「とぼけないで。…不安があるなら、今のうちに話なさい。錦治君の前に、私だけが知って黙っておくから…」


やはり、一番気付くのはこいつだったか。

E組当初から、一番最後の新参だった割りに、皆の様子を常に把握していた良子だからこそ、私の隠し事をしてるなど、お見通しであったが…

素直に白状する事にした。


「ああ。良子になら話してやるよ…存在進化が来ないんだ。そして、管理者の神にその事を聞いたら、どうやら人間だった時の障害と、今の心の中にある蟠りが原因らしいんだ」

「…詳しく話して頂戴」


本気になったこいつの目から、怒りが混じってる事に気付いた。

…適当にはぐらかすと、こいつはやばいからな。

私は…良子に今までの生い立ちと現在の心境を洗い浚いに全部話した。



終えた辺りで、怒りが混じっていた良子の一つ目から…涙が溜めていて、その状態で私の胸を叩いていた。


「…馬鹿。なんでそこまで黙っていたのよ」

「…ごめん。だから、私はアイツの赤ちゃん産めないんだ」

「あの子以上に惨めじゃない。兄弟で、男として捨てた彼以上に…」

「そう…だな…」


全てをぶちまけた辺り、私は良子と抱き合って、互いに泣いていた…





落ち着いた良子から、私にアドバイスがあるとするならば…

やはり錦治と一回蹴りをつけることらしい。


「今の彼は孤独だわ。自分と同格の力を持つものがいない事に、だから加減の仕方も分からないから、余計に孤立しているわ」

「そっか。ならば、私がアイツと同格になれば良いんだな」

「でも、今の彼は今の貴方の三倍ぐらいの強さだわ。並のオーガではトロールキングの強さには勝てない。そこは覚えておいて」

「任せな。そうじゃなくても、私は私なりの流儀でやる」


そういって、私は良子の目の前で、自分の拳と拳をぶつけた。


「こいつで決着をつけてやる」


それが、私の答えだった。





そんな感じで、更に数日過ぎたあたりで、例の王国の役人達が来た日で…錦治すらも恐怖した、あの怪物ベヒーモスを見た時は…

私は本気で死ぬかと覚悟した。


あんな巨大なビルみたいな高さとフェリー並の大きさの獣が、人間を遊ぶように吹き飛ばし、踏み潰すだけでミンチに変えて殺したのを見て恐怖しない奴などいない。


そして、アイツが私達の方を視線を向けたとき、私は恐怖に染まり、今にも吐きそうなぐらいに震えて蹲ってしまった。

だが、錦治の奴は…恐怖しながらも奴に向かって笑っていた。

あの時のアイツの目は、餓えた獣の目であった。

だが、そんな状態のアイツを、現実に戻していったのは…

私と同じ、緑の肌をした500のオーガ達が奴に突撃していった光景に、釘付けであった…


私よりも筋力のある大きい男のオーガが、馬鹿でかい斧を叩きつけた後に、踏み殺され…


私よりも美人であった魔術師の女オーガ達が氷の魔法を使い、反撃として焼き殺され…


残りの族長らしいオーガ達が頑張って切り落とした爪の代償に、宙に打ち上げられて、そのまま奴の火炎で灰になって消えていった光景に、私もまた、錦治と同じく釘付けされた…



錦治が亡くなったオーガ達の埋葬した墓に、私も後日祈りを捧げていた…


今のままでは、錦治すら守れない。

錦治を亡くしたら、生きていけない。


その瞬間、私は本当の意味で決意を示し、錦治の元へ歩いていった。




「錦治。いや、トロールの王の横山錦治。私、オーガの小川冴子が、正式にお前と決闘を申し込む」



その言葉通り、私と錦治は…二匹の亜人怪物は、殴り合いを始めた…







やはり、種族の壁というのはデカかった。

アイツに相当殴って、痣も大量に作ってやったんだが、一方で私の方はボロボロであった。


特に上半身へのダメージが酷く、肋骨の何本かにヒビが入っていた。

急所を外していたあたり、あいつなりの流儀だろうが…それじゃあ駄目だろ。

やせ我慢しながらも、私は力が入る限り殴り続けた。


途中、直子などから制止の声も飛んできたが…これは私の意地でもあった。

それを察してか、良子達が止めに入ってくれたおかげで、最後まで遣り通せた。

だが、それでも錦治の余裕に、私は内なる心に説いていった


錦治を越えたい…


錦治と対等に成りたい…


錦治の番いとなるならば、錦治の盾に成りたい…!


たとえ子が宿せないなら、一生錦治を守りたい!!


そう考えが爆発した瞬間、私の体が熱くなり、眩い光に包まれていった。


そして…私は…錦治の胸に光となった拳を叩きつけ…


私は錦治からドス黒い闇の拳を受け、意識を失った…





気が付いた時は、私は錦治の膝枕を受けていた。


どうやら、完全に引き分けだったようだ。

そして、錦治から聞かされた話では、私は存在進化ではなく、特殊進化クラスチェンジをしたそうだ。


その名も、ホワイトオーガ。

オーガの中で希少種で、聖なる力を持つ種族らしい。

そして、もう一つが…騎士の称号。しかも、守護騎士ガーディアンナイト

この職業特性と呼ばれる称号により、私は近似と互角の力を得て、レベル1からのスタートになった。

…やっと、近時と同等の力を手に入れたことにより、私は喜んだ。


そして、錦治から…正式に言われた。

錦治の盾となる上で、生涯共にしろ…

つまり、妻として一緒に行動しろとな…


…小さい時、一人寂しかった私を助けた男の子が、今では立派な旦那だ。

不良で荒くれだった私を、もう一度光としてくれた男に、私は生涯かけて守り続けよう。

守護騎士の白き鬼として…


それと、錦治は既に私の体の事は知っていた。

それでも、私も抱いてあげる事らしいから、鬱憤溜まったら私を抱けといったが、それはそれと言った上に、内密に一番愛してると言われた。


皆、一歩先行って、ごめんね。








その後は、傷を治すついでに色々調べられいた時に、良子から…


「先を越されちゃったけど、私達は諦めてないからね」

「当たり前だ。むしろ、私の分も頑張ってくれ」


そう返してやったら、四人全員で私を玩具の要に体を揉んで来た。

理不尽だわ…



その上で、良子から蓮と共同作業で新しく作った鎧を貰った。


「い、良いのか!?こんな豪華なのを…」

「但し、まだ何も魔法効果が付いてないけど、今後は色々付けさせて上げるわ」


そこにあった鎧は…まるでお姫様みたいなロングスカートの…

ドレスみたいな全身を保護する鎧であった。


「今は蓮ですら、ウェディングドレスなんてものは作れないからね。代わりとして、ドレス風に作ってみたわ。気に入ったかしら?」

「いや…ありがとう。良子」

「どう致しまして…それじゃあ、未来の騎士様。早速着て頂戴」



良子に進められて、私はその全身鎧を付けていった…


純白の肌に、更に研磨されて反射光が射す新品の鋼で出来た鎧を着込んだ私を、皆は拍手していた。


その嬉しさも含めて、私は錦治の前に膝間付いた。


「今日からお前を守護する騎士として、共に行こう。我が主よ」

「うむ。共に行こう。我が騎士よ」


この日から、私は守護騎士ホワイトオーガ:小川冴子となった。


私が愛する主君のために。





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