第18話 亜人達の取り纏め、原種達の雌

あの糞お袋の奇襲から二日後…

無事に呪いのよる痛みも消え、まともに動ける様になった俺は…

関係者全員及び、各亜人族の族長またはリーダーと従者数名による会議を行い、王都の現状と問題点と、ノスフェラトゥ族達との戦争の協議を行なっていた。


と言っても、後者に関しては、どの部族も氏族に属してる故に協定を結べそうであったのだが…


「やはり、うちの若いのが喧嘩沙汰を起してしまってな…」

「年寄り勢がなんとか押さえてはいるが、新参が多いとどうしてもトラブルが…」


そう、各亜人族の部族同士…それも若輩同士による喧嘩の絶えない現状である。


基本、魔物に近い亜人属は縄張り意識が強く、特に亜人代表のゴブリンやオークあたりは同種族同士で互いに争っているからな…


況してや、オーガやトロールと言った大型の亜人となれば、部族同士の喧嘩などした場合は完全に部族戦争となりかねないぐらいに厄介な案件になる。


その為にも、統率は大事なのだが…


「やはり、厳しいですか?」

「うむ。近頃、我ら族長を抑えて、自分達が族長になると言ってる始末じゃ…」

「困りましたなぁ…かといって、武力で抑えては元の子も無いですし」


そう言いながら、各部族の長達の面子を潰すわけにも行かない俺は、隣に立っているギルバートさんに問いかけてみた。


「ギルバートさん。今のところ、城下町内にて大きな事件とかは有りました?」

「現在はないな。ただ、住民の中には戦闘したがっている亜人族が喧嘩になって仲裁する事件は結構発生している」

「そうですか…そもそも根本的にストレスが溜まっているみたいだな…そうだ」


俺はそう言いながら、万年筆を取って紙に書いて行き…皆に分かりやすい内容の仲裁案を作り上げていって、各部族長に提示してみた。


すると、最初は驚いてはいた部族長達であったが…詳細を見ていくと、納得するかのように頷いていた。


「なるほど、血気が多い若者にはぴったりな内容じゃ」

「これなら、やらして見てもいいじゃな」

「では、これを全員で精査して、施行しましょう。ギルバートさん、何か修正があればどうぞ」

「うーむ…確かに良いのだが…」



多少は悩みながらも、亜人特有の性質を利用したこの内容に、納得はしてくれたみたいだ…

さて、あとはどう出るかだ…




修正協議をしている合間、俺は良子と共に上島と上村がいる兵器開発部の部屋に向かい、試作の武具や兵器を視察していた。


「よくもまぁ、外の兵器をこちらの世界用に改造して作れたな」

「これでもまだ雛形すらなってないけどね…」


上島はそう言いながら、火の精霊石を火薬代用した無反動砲バズーカの弾丸を生産して、爆発実験を繰り返していた。


上島の理論だと、通常の無反動砲の爆発に加えて、焼夷榴弾ナパームみたいに紅蓮に焼く事が出来るとか。

対ノスフェラトゥにして上々ではないだろうか。


「本当は、白リン等の燃焼鉱物を入れたかったけどな…」

「あれは人道的に問題があるからな。それに、環境汚染もしやすい」


上村に苦言を指した通り、俺達の元の世界にあった兵器の中には人道的に危ない奴もある。

現に、上村の言った白リンはベトナム戦争前に使われてた焼夷榴弾であったが、白リン自体が猛毒の物質で、不発して燃え残った白リンを吸い込めば後遺症を残すぐらいに鉱物による中毒死するぐらいに危険な代物であった。


いくら別世界だからといって、使っていいものではないからな…

それに…


「あの国塚に、通用するかと聞いたら…わからんな」

「そうだね…」

「でも、あいつに人形にされた奴を燃やしてやるには、丁度いいかもな」

「そう…だな。まぁ、国塚は俺達が何とかする。お前達はお前達で頑張ってくれ」

「錦治…ああ、分かった」

「それと、上島。お前がそうでは、お腹にいる子に負担が掛る。無理はするなよ」

「分かってるわ…」


二人がそう返事したのを確認した俺は、他の兵器を見ていた良子に問いかけた。


「凡庸で使えそうなのはありそうか?」

「うーん…どれも難癖がありそうね。私が前使っていたパソコンかタブレットがあれば、もうちょっと改良出来そうなのよねぇ…」

「一応、まだ傷が入ってないから使えるはずだが…やっぱり発電が出来る施設をいずれは作らねばならないな…」

「そうなると、いずれは発電所見たいなのを作るつもり?」

「理想ではな。その時は、お前の力をフルに使いたいな。良子」

「フフッ、そうさせて貰うわ。だけど、その前に…」


良子はそう言いながら、体を寄り添いながら…俺の手を自分の胸に当ててきた。


「今夜は…いっぱい構って欲しいわぁ」

「最近はお前を構ってなかったからな…すまない」

「ううん、冴子に配慮していたから仕方ないわ。でも…たまには、ねっ♪」


そう言って甘えてくる良子に俺は撫でてやったのだが…


「頼むから…いちゃつくのは外でやってくれ…」

「うぅ…妬けて来るわぁ…」

「あっ!?すまん…」


ジト目で見ていたドワーフ二人に、俺達二人は恥ずかしそうにして、そそくさに退散していった。





午後…

今度は何時もの六人で城下町内を歩いていた。

ちなみに、蓮とフェイシャは訓練、エミーはクラリッサの教育で留守番に。

子ども達はお世話係りの人に任せていた。


「確かに、族長達が言うように亜人族が増えてきたなぁ」

「しかも、若い奴等が増えてきているね。ただ、ルール知らん奴とかも来てそうだから、それがトラブルの大本になっているかもな」

「まぁ、一応文化的に拡大してきたとはいえ、元々が狩猟メインの原住民生活をしてきた部族とかもいるからな。デュミエールあたりのオーガの部族は、どちらかというと、かなりの高度な文明を築いて交流を図っていたかも知れん」

「ああ、それは言えるかもな…というよりも…」


冴子が言うように、俺と二人で旅をしていた時に…いくつかのはぐれオーガ等の亜人に当たってしまった時に思った事は…


文化的に低い部族のゴブリン、オーク、オーガの特徴が…


・殆どが脳筋バカ


・体がガッチリの割に弱い。


・見境無く女及び雌を襲い、感無しで繁殖しようとする。


うん、次郎さんが自分がオーク以外のゴブリンを面倒見ていた際に、数の調整をしたくなる理由が分かった。

あのまま鼠算式に数を余計に増やしたら、食糧問題等が発生して、その上で他の部族との争いが起きてしまう。


昔から森等に住んでいた者だけならば、自然の摂理として対処は出来るのだが、今は文明度が高い王都、それもその膝元である城下町で同じ様にしていては…

結果として、痛み分けで終るか…もしくは両者成敗されるかだ。


しかし、規模が大きくなっては取り返しがつかない事にもなりかねんからな。

そうなる前に対処をせねば…

特に、”下克上で成り上がりたい”と言うのは、どの生き物が持つ渇望であるのだからな…


「よく考えたら…あのお袋の襲撃や…一ヶ月前にあった西園寺達の襲撃は、俺達全員への戒めかもしれないな」

「どういう意味なの…?錦治君」

「簡単に言えば、都合が良すぎて進んで天狗になってる俺達の鼻をへし折られる事もあると言う事だ。意味も無く異世界に飛ばされ、亜人になりながらも、俺達全員が集団を手に入れ、安定を手に入れ、しまいには国作りの仲間入りに出来た反動での戒めかもしれないな…と。同時に、それを他の奴等が狙っているのは、必然的に出てくるのは当たり前で、俺達全員が何時でも引き摺り下ろされる事もあるんだと考えさせられてしまったかなと…」

「確かに、それはありえるかもね。錦治君に進められた歴史書を読んでみたら、あっちの世界で死んだ人がこっちで人間、亜人、魔物に転生して成り上がったと言う話もあるみたいだし」

「逆に、追いやられて亡ぼされちゃったという人も居たわね」

「そう言うことだ。良子、直子。つまりは…成り上がるにしても、常に他の奴が何時狙っているんだという事を忘れない方がいいかも知れんな。だから…」

「私達が意識して守る必要がある…そう言うことで御座いますね」

「そうだ、美恵。あまり気を張る必要はないが…考えておかねばならない事でもあるんだ。先の先駆者に狩られる事もあれば、後の後輩達に刈られる事もある。それを忘れずに居てくれれば良い」


そう俺が釘を差すと、皆も納得はしてくれていた。

だが、余り心配をさせるわけにもいかないので…五人に寄り添う様に促した。


「まぁ、何があっても…俺達全員の絆さえ壊さない様に、互いに頑張ろうな」

「そうだね。あっ、でも…錦治っちさぁ、成り上がり物のお話にない偉業を、既に達してるじゃない?」

「何をだ?」

「ハーレム恋愛♪」


その瞬間、俺は直子のおでこに痛くない手刀を叩き込んでやった。

わかっちゃあ居るが、それは口に出して言うなよ…若干気にしてるんだ…

むしろ、よく修羅場にならなかっただけマシだったと思う。




その時である。

街中で喧騒の声が響いてきたのを俺達全員で察知したと同時に、野次馬が大量に向かっていくのを目撃した。


「どうしたんだ?一体…おーい、何があったんだ」


走り行くコボルトの青年に問いかけてみると、青年は息を切らしながら答えた。


「喧嘩だ!二人の亜人の雌が人間の男を巡って争っているんだ!!」

「本当か!?」

「ああ!」


そう言って走り去った青年を尻目に、俺達全員目を合わせていた…


『亜人の雌、怖いわぁ…』



そう思いながらも、喧嘩が発展して紛争になってはいけないので、俺達も急いで向かう事にした。

そして、そこで見たのは…


「ちょっと!あたしのダーリンなのよ!!このデカ物!!」

「うっさいわね!!あたいの旦那だよ!!この豚面!!」


原種オークの雌と原種オーガの雌の二体が、気弱そうな男性を尻目に取っ組みながら言い争っていた…


だが、その二人の姿を見た冴子は気絶しかけ…加奈子に到っては俯き加減になりながら落ち込んでいた。


そう…美丈夫というべき男に対し、オークの雌は典型的なずんぐり体型の肥満、オーガの雌に到っては男と見間違えるぐらいにガッチリムキムキであった…





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