第19話 雌達の取り合い、加奈子の成長

うん、正直に言うならば…これが本当の原種だと再認識された。

というのを言わんばかりな二匹の亜人族の雌が喧嘩してる現場を目撃した俺達はどう対処しようか考えていた。


下手に手を出せば、それこそ部族問題に成りかねないからな…


「錦治…私、泣いて良いかな」

「後で部屋で泣いて良いから、今は我慢してくれ…それよりも、加奈子は?」

「そういえば…?あっ」


冴子の掛け声と共に、俺達は加奈子の方を見た…加奈子が体育座りをしながら、のの字を書き続けてブツブツ言っていた…


「私…やっぱりああ見られてたんだ…私…ああ見られてたんだ…」


やっぱり、精神的に着てるな…

うん、今回のオークの雌の人には申し訳ないが…本気でNGだ。


豚鼻に、良くある弁髪みたいな頭頂部の中心に髪の毛束ねて残りは剃った髪形、そして、かの有名な巨漢力士と張り合うような相撲取り体型…


間違いなく、昨今のファンタジーに出てくる豚鼻のオークの方だ。

…念の為、分析魔法で調べたら彼女の種族はブルオークというオーク族の種族であり、加奈子や花子さんのハイオークとは別種の種族になるみたいだ。


ちなみに、対するオーガの女性は…デュミエール達とは違う種族のオーガ族で、種族名はワイルドオーガという亜種らしい。

どちらにしても、凶暴な亜人族として扱われており、人間からすれば驚異的だと認識されている。


それにしても…酷い物だな。

元から、俺達が異世界入りした時から亜人に変えられて、亜人化魔法にて変えた村人達やデュミエールなどの綺麗な子の原種を見てからは、若干原種に対してはホッとしていたのだが…今回ので改めて認識させられたわ。

だが、落ち込んでいるわけにも行かないので…


「加奈子」

「何?錦治くっ!?ん!!?」


落ち込む加奈子を抱き寄せて、強引に口づけをして…口の中をねっとりと舐めてやった…

すると、落ち込んでいた加奈子は顔を真っ赤にしながらも、蕩けた顔をして…

茫然としながらも冷静に落ち着いていった…


「落ち着いたか?」

「…ふぁい」

「今は、喧嘩の仲裁が先だ。いいな?特に、お前の力で解決をして欲しい。安心しろ。最悪の状況だった場合、俺の教えた通りの護身術を使えばいい」

「うん、分かったわ」


息を整え直した加奈子は、自分で頬を叩いて俺の前に立っていった。

…この際だ。

先日の鍛錬以降に、加奈子にアドバイスした成果を見させて貰おうか…


「ちょ、ちょっと錦治っち…加奈っちを前に出して大丈夫なの?」

「むしろ、心配だわ…」

「大丈夫だ。直子、良子…あいつは身体的に自信がないだけで、本格的な身体能力については、大分身についている。だから、万が一の力による仲裁には、アイツの力でやって貰おうと思う」

「錦治君…それは私達では駄目なのでしょうか?」


美恵の問いに、俺は真っ先に答えた。


「正直に言うと、先日の鍛錬だけで馬鹿でかくレベルが上がってるお前達の中にて、一番無難なのは加奈子だけになるんだよ。正直、直子の現在のレベルの上での筋力で、通常のはぐれオーガクラスなら瀕死に追い込む」

「うげっ…そこまでレベルが上がってるの…」

「特に、俺と冴子に到ってはデュミエールと取っ組む事すら禁ずるぐらいに、ヤバイぐらいに上がっているからな。その点を考えるならば、基から攻撃面で皆無に等しい加奈子に護身術を叩き込んでやった。加奈子のスキルに合わせた護身術をな…」

「そうだな…私らは、加奈子の成長を見る番だわ」


そう言って、俺は喧嘩する亜人の雌達に近づく加奈子に視線を向けた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――





錦治君の言われた通りに、私の力で彼女達を仲裁する事にした。

未だに…まともに武器を持って戦うというのは出来ない私にとっては、錦治君に教わった通りの護身術と…プリースト職にある回復と浄化の力を使って、相手を無力化する。


その戦い方でやれと、錦治君が言っていたわ。

ならば、私なりのやり方をやらせて貰うわ。


その前に、まずは話し合いをしなきゃね…


「そこの御婦人方々…一体どうされましたのですか?悩み事があるのでしたなら申し出てくださいませ」


うん、ここは聖職者らしい口調で話し合いに応じるべきだわ。

と、思って当たり障りの無い言葉で話しかけては見たのですが…


「あ゛っ!?なんだ小さい雌オークが!!」

「何よ!あんた!私よりもオークらしくない不細工雌豚の癖に!!」


…ここは我慢よ、加奈子。

自ら怒っては駄目と、どの宗教でもありえるのだから。


「…もう一度お聞きいたしますが、一体何が原因で言い争っているのかお聞きをしたいのです。ですので、申し出てくださいませ」

「うっさいわ!このチビ緑雌が!!人間みたいなサイズの奴がでしゃばるんじゃねぇよ!!」

「そぉよ!!文句が言いたけりゃあ、あたしみたいにデップリとしてなきゃあ…駄目なんだよ!!分かった!このデカ乳チビ雌!!」


うん、錦治君。ごめん。

加奈子はもう我慢できません。

一度ハメを外した私を許してください…

そして、私は…其処からブチッと切れて口調を変えてしまった。


「貴方達…いい加減聖職者の前で暴言吐くの、やめて。ふざけてるのですか?」

「ああもぅ!ビュディ!!お前の決着は後回しだ!この雌オークを叩きのめs」


その瞬間、筋肉モリモリのオーガの女性の腕を掴み、そのまま腕を利用してから背負い投げをしてあげました。

すると…オーガの女性は素っ頓狂な顔をして背中を地面に叩きつけられ、茫然としておりました。



「なっ!バイスがっ!?」

「お次は貴方です。来ないならこちらから行きますよ」

「舐めやがって!!」


そう言って、オークの女性は右手相撲取りみたいな張り手をしてきました。

その寸前を見計らって、私は手の反対側にすぐさま回避し、その反動を利用して足払いをしてすっ転ばし、地面に倒れた瞬間に彼女の顔に拳を突き出し、寸止めしました。


「うっ…」

「これでも、まだ抵抗されますか?」


その言葉に、二人の亜人族の女性達は沈黙し、大人しくなりました。

その時でありました。

二人の言い争いになっていた男性が、私の前に立って彼女達を庇ってきました。


「止めてください!彼女達を制止しなかった僕が悪かったのですから!!」

「…大丈夫です。これ以上の手打ちは致しません。お二方、立てますか?」


私のその言葉に、二人の女性は「ああ…」と声を上げて、投げられた痛みを受けながらも立ち上がってきました。

それと同時に、私は彼女達に向けて両手を翳し、回復魔法を掛けてあげました。


「うっ…い、痛みが消えた?」

「嘘…でしょ?これ、最上級の回復魔法だわ」

「これで私からは何も致しません。さて、何か悩み事があるのでしたなら、申し出てくださいませ」


私のその言葉に、三人とも素直に返事して来ました。

すると…後ろで錦治君が拍手しながらこちらにやってきた。


「少々の怒りを交えながらも、冷静に判断しつつ、力量を見極めた上での采配、そして回復という手回し…実にいい組み合わせだ。加奈子」

「錦治君…」

「だが、もう少し辛抱するというのも大事だぞ。まぁ、初陣としては上出来だ。お疲れ様…」


そう言いながら、私の頭を大きい手でポンポンと優しく叩きながら…錦治君は、私の横に立っていった…




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



加奈子の采配はいい物であったと同時に、護身用に教えていた柔道の投げ技が、割といい感じに使えていたから良かったな。


今度は、空手などの組み手でも教えておいておけば、僧兵モンクの素質が見出せるかも知れん。


それはともかく…まずは三人に聞かねばな…


「割り込みで申し訳ないが、此方の隣に居る加奈子の夫で、この国の関係者だが…今回の城下町内での喧嘩は一体何なんだ?」


俺がそう言うと、まず最初に口を開いてきたのが…美丈夫の青年であった。


「実は、この城下町に来る前は、亜人族の小さい集落に住んでいた…桜井達郎といいます。この度はこの街中を散策する際に、何処に行こうかと二人で相談した所…喧嘩が始まってしまいまして…」

「異世界人で日本人だったか…」

「どうやら、私達以外にも個人異世界トリップが起きてるみたいね。錦治君」

「ちょっと待ってくれ…お前ら、人間っぽいトロールやオーク…後ろに、あたいとは違うオーガやサイクロプスも居るんだが…」

「ああ。俺達は、元は桜井さんと同じ異世界から来て、神様に亜人に変えられた所謂転生組だ。だから、人間っぽいんだ」

「ああ…だからね。あたしみたいなオークみたいな体型じゃないのは」

「正直、ショックです…」


そう言いながら落ち込もうとする加奈子の頭を撫でながら…俺達は、彼ら三人を簡易詰め所まで案内する事にし、騎士団が来るまでの間を待っていた。


その後、彼らは西側のオーガ族とオーク族の混合の国を作り、其処で暮らしては居たのだが…例の悪魔族が暗躍する魔術教団とノスフェラトゥ族の襲撃にあって国が崩壊し、バラバラになった所を…村の中で貴重な人間だった桜井さんは群を束ねて、この王都に来たのは良いのだが…元々東のオーガ国とは違って、狩猟を主体にしていた部族であった為、王都の制約ある文化的生活には結構ストレスを溜めていたらしい。


その事を、駆けつけたデュミエール達から聞く事が出来た。

ちなみに、先ほどの筋肉女性のバイスは、東のオーガの国のオーガプリンセスであったデュミエールを知っており、見た瞬間に驚いてはいたが…今は普通の騎士として働く彼女に呆然と見ていた。


一応、俺からは「上手くいけば、彼女みたいな生活も出来るよ」と三人に促してやると、やる気は出てきたみたいだった。


とりあえずは、騒動を起したということでお叱り程度のお咎めで済ませ、彼女ら三人を元の部族が住む区域へと返してやった。


だが…今回はまだ極一部だからな。

早急にルール作りをせねばな…


なお、今日の夜は功労者の加奈子と約束をしていた良子を優先的に寝る事にした。

無論、その後は何時もの10人で寝てはいた…




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