第21話 蜘蛛の太刀、新しいアラクネ
ゴブリン達の案内の下、森の奥へと向かうと…
そこには数人の元騎士達が剣をぶん回して子グモのアラクネを切り捨て、親のアラクネにも切りかかっていた。
だが、アラクネも負けじと騎士を糸で空中にぶら下げ、糸でグルグル巻きにして拘束した後は、血を吸って干物のように干乾びさせて、強靭な顎で一撃で寸断した。
「酷い有様だな…」
「あれが、貴族令嬢のシャルトーゼの成れの果てとは…」
ギルバートさんがそう言う様に、醜悪なアラクネの姿に嘆きながらも、騎士団の男達の方へ剣を向けようとしていた。
今のアラクネの女騎士の方は、騎士団の男達を殺すと言うよりも…むしろ、子どもを守ろうと反撃に出ているに過ぎなかった。
今の吸って殺した騎士は、侵略してきた反撃のついでに、最低限の子を産む為に餌として襲って殺したに過ぎなかった。
「お前達、あのアラクネに襲われたことは?」
「ソ、ソレガナカッタンデス。アノアラクネ、オレタチゴブリンヤオークヲミルダケデニゲマワッテマシタカラネ」
「…あー、たぶん。それは俺の所為だわ。よっぽどトラウマだったんだろう」
ああ、うん。
あの時の蓮と協力しての亜人怪物化は、相当なトラウマになったのだろう。
それは俺も反省せねばな…
だが、亜人化させた代わりには、責任を取らねばな…
そう思って、俺はケジメとして騎士団の連中始末しようと前に出た時、蓮から肩を掴まれて、止められた。
「兄さん、ここは僕に任せてくれないかな?」
「蓮…」
「下手に兄さんが出ると、あの子が余計に混乱しそうだから…それに」
そう言いながら、蓮は刀の鞘と柄を触りながら、えげつない顔で俺に見つめ、口を開いてきた。
「本当の意味で、人が斬れそうだから…」
その瞬間、俺は蓮の秘めていた殺意を察する事が出来た…
「グッ、オ、オノレ…ヨ、ヨクモワタシヲココマデ…」
「あーあ、令嬢だった糞女が、漸く死んだと思ったら、こんな所で化け物になっていたとはな」
「俺達もあの糞役人から逃れて、晴れて自由のみになったのに、糞が」
「仲間は死んぢまったが。お前を殺せばこの森は俺達の天下だ。死んでくれ」
「キサマラ!ソレデモキシダンノニンゲンカッ!?」
「バーカ、騎士団なんて関係ねぇ。俺達は上手い汁を吸える身分ならば、何だって良いんだよ!!早く死ねや!!」
遠くからでも聞こえる罵声に、俺もイライラしながら聞いていたが、そんな屑の連中に、直ぐに終演の時間がやってきた。
「そこまでよ。三ピン役者達…」
蜘蛛形態で降りてきた蓮は、女騎士アラクネと元騎士団の連中の合間に入り、すぐさま人型形態になって、刀を柄を握り…元騎士団の男達の首を一瞬で跳ね飛ばしていった…
「
蜘蛛の糸…
雲井のじっちゃん曰く、じっちゃんの親父さん…つまりは俺の曽祖父にあたるお人が、釈迦の蜘蛛の糸の様に刀の柄をゆっくりと掴み、糸切って罪人全員を地獄に戻すように、相手を全て切り落とす居合い術であったな。
それを蓮がマスターしている分を考えると、じっちゃんが蓮に仕込んだ剣術は尋常じゃないものであると実感した。
刀に一滴の血も残さず拭い取った蓮は、刀を鞘に収めた後静かに目を閉じてた。
…初めて、人を殺したのだ。
己の殺人の剣術で。
恐らくは、じっちゃんの常に言っていた言葉を守っているんだな。
”例え人を殺しても、快楽には落ちるな”…と。
一度殺しの快楽を覚えたら、二度は引き返せないという戒めでもあったからな。
…じっちゃんは、一回だけ人を殺した事があった。
当時の親父達一族の護衛のSPを、禁止されてる闇試合で木刀で殺したのを。
闇試合の後、中学だった俺達に向かって言った言葉がそれであったから、
蓮は忠実に守っているのだろう。
…俺を守る為の剣として。
そんな中、あのアラクネは密かに逃げようとしていたので、蓮は直ぐに察知し、すぐさま蜘蛛形態の姿になってアラクネと子グモ全てを拘束していった。
「悪いけど、色々と聞きたいからね。大人しくしていれば痛い目は見ないから」
そう言いながら、ニッコリ笑って刀に手をかける蓮を見たアラクネは恐怖し、震えながら俺達が来るのを待っていた。
「…少し荒っぽいぞ、蓮」
「兄さんほどじゃないけどね」
「否定はしないが、言うようになったな…」
そう言いながら、俺は震える女騎士のアラクネを、分析魔法をかけながら色々と調べていった。
実際に、コレを使えばゴブリンや人間などを殺害履歴も判明するからな。
…が、調べてみたら、先ほどの騎士達以外では、ゴブリンすらも殺さずに、野生動物や魔物を狩っていた事が判明した。
「お前、あの後ずっとこの森で動物を狩って暮らしていたのか?」
「ソ、ソウナンダヨ!!オマエノセイデ、ワタシハゴブリンスラタタカエズ、ヒッソリトクラスイガイニホカナカッタンダ!!」
「そんなに俺が怖かったのか?」
「ソウダヨ!オジウエヲアンナフウニカンタンニコロセルオマエガコワイ!ワタシヲコンナバケモノニカエタオマエガコワインダ!!」
糸の中でガタガタ震えて泣くアラクネに、俺は…
優しく頭を撫でてやった。
「それは…すまんかったな。あの時のお前の人間性に、怒りの余りにやってしまったんだ…許せ」
その間に、俺はこのアラクネに変化の兆しが見られることに気付いた。
項目:容姿変化(亜人アラクネ化)
…どうやら、魔物のアラクネから亜人のアラクネに変貌できるみたいだ。
…試してみる価値はあるな。
「お前、その姿から新しく生まれ変わりたいか?少なくとも、俺の魔法で上半身を人間の姿に変える事が出来るぞ」
「…ホントウニカ?」
「ああ。少なくとも、お前は魔物に堕ちなかった。それで適正が出来てるようだからな。…一度っきりのチャンスだ。試してみるか?」
その俺の言葉に、アラクネは期待の眼差しの目で見てきた。
無理も無い、今の魔物のような容姿のままでは生きたくないからな。
「オネガイスル。ワタシハモウイチド、ハンブンヒトノスガタニナリタイ」
「ああ。心得た…」
俺はそう言いながら、子グモと共に魔物アラクネを亜人アラクネへと変化を変えるために、亜人化魔法を使ってみた…
すると、毛もくじゃらの蜘蛛のような上半身の女の体から、元の人間の体へと変貌し、毒々しい蜘蛛体も通常のアラクネの蜘蛛の体へと変化した。
また、子グモ達も元の毒々しい蜘蛛の姿ではなく、亜人のアラクネの子どもへと変化していった…
しかも、女騎士時代だった不健康な体ではなく、前よりも健康的な容姿になってから変貌していた。
「わ、私…アラクネだけど元の姿に…!」
「しかも、前よりも健康体だ。蓮、後は彼女の補佐をしてやってくれ。というよりも、服を着せてやってくれないか?」
「あっ…ああ、うん。分かったよ、兄さん」
女騎士のアラクネは「へっ?」という顔をしたと同時に、上半身素っ裸の状態を見て、悲鳴を上げて石を投げてきた。
…今更気付いたのかよ。
…とまぁ、女性陣からは蓮と花子さんを除く若干冷ややかな目で見られたが、気を取り直して、ゴブリン達のやられた状況は、騎士団と傭兵達の集団が、この森に流入してきた事に、色々と厄介な事になっていた。
「本格的な亜人狩り…か」
「ハイ、ソウナンデス。オソラクハ、コノクニニユウシャガクルトカ…」
勇者…。
という事は、A組のあいつ等がそろそろこの国に入ってくる頃か。
ならば、こちらも色々と増強せねばな…
「お前達、もう一度次郎さんや俺達共に来ないか?今は人手が足りないんだ」
その言葉に待ってましたと、コブリン達は素直に返事を返して、喜んで協力に応じるつもりであった。
無論、あの女騎士のアラクネ…シャルトーゼも協力する事に。
ギルバートさんも、今の彼女なら多少はマシだろうという考えだろう。
そんな下で、彼らからもシャルトーゼの加入も了承してくれた。
そして…
「なるほど…これがキンジ様のお考えというわけですね」
「そう言うことだ。まぁ、女の事にすっとぼけな天然があるが、あいつなら信頼して着いていくという奴が多い。少なくとも、私と共に居るあの面子は錦治のその姿に惚れて付いて来てるんだ」
「そう言うことでしたか、サエコ様…ですが、私達は…」
「いや、あんた達はそれで良い。無理して着いてくる必要はない。あいつは邪魔さえしなければ何時でも居っても良いと思ってる奴だからな。…好きなだけ、居ればいいよ。デュミエール姫さん」
冴子の言う言葉に、デュミエールは考えながら…一つの答えを出したようだ。
「分かりました。一先ずはサエコ様の言葉に甘んじて、居りましょう。色々と見極めさせて貰うには、まだまだ時間が必要ですし、旦那様の人望とやらをこの目で確かめさて貰います。ジュラ、デュラ、宜しいですね?」
「ひ、姫様…」
「姫様がそう言うのならば…」
従者の二人も、渋々ながらデュミエールの言葉通りに従うようであった。
…まぁ、当分の戦力ならば大丈夫だろう。
明日からは彼女達も訓練に手伝ってもらおう。
そんなこんなで、人を増やし、馬車に大量荷物を積んで村に戻ってきたら、村の皆が総出で出迎えてきてくれた。
…どうやら、動きがあったようだ。
村長の穀物納屋に居た、蓮のアラクネの子ども達が一斉に孵化して出てきた。
…が、どうやら糸繭の中で生き延びたアラクネはそれぞれ一匹ずつで、全匹共に全村長達の恨み節等の記憶などは一切引き継がれず、むしろ暢気な性格で出て来たので、一先ずは蓮と共に安心した。
いや、捕食して孵化するんだったら、記憶が引き継がれる可能性があったが、どうやら捕食機能はスキルと体力だけしか引き継がれないらしい。
しかも、アラクネが必要とされるスキルしか引き継がれない為、ほぼ真新しい子ばかりであった。
…まぁ、貴重なアラクネ種の子ども達だから、今後は村に貢献をすれば問題は無いだろう。
そして、もう一つは…どうやら騎士団が傭兵を雇ってから、この村に攻める動きが見受けられたらしい。
偵察がてらに飛んでいたハーピーの女性達が、上空で観察していたら…
この村から数里離れた別の村にて100人ほどの騎士と傭兵の部隊が常駐し、近日中に攻め入ることらしい。
しかも、彼らは丁度20人ほどのオークの少数部族を狩り終えた所で、亜人全員共に斬殺されていた…
どっちが本当の野蛮人なのか、はっきりと考えさせられるものだ。
だが、今度の奴らは、恐らくは戦闘部隊だ。
生半可な戦術じゃあ通用しないだろう。
そこで、俺はギルバートさんと次郎さん、そしてデュミエールや、先ほどの仲間になったシャルトーゼも含めて、現地人の力を借りながら村人でも勝てる戦術を決行し、明日の朝まで終らせる事にした…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます