第20話 再び森の中へ
”はいはーい、業務連絡よー。本日は特別連絡を入れるわね。各組、独自で活動しているようだけど、A組の勇者組が残り二つの秘法を手に入れれば、あとは魔王城に突入して魔王を倒せば、この世界とおさらば出来るわよ。この調子で頑張ってねぇー。あと、こっちは訃報だ・け・ど。本日未明にC組とD組の混合勇者組と魔物組が全滅しちゃったわ。まぁ、勇者組の大半が魔物か亜人になっちゃったから、仕方ないのよねぇ。というわけで、残ったB組の勇者組と魔物組は頑張ってねぇ。あと、E組の合流しちゃった子達は適当に頑張ってねぇ。それじゃあ、ばいばーい”
久々の神からのアナウンスで目覚めた俺達十二人は一斉に目覚めて怒鳴った。
『うるせぇんだよ!この馬鹿!!』
いや、久々に頭の響くアナウンスは勘弁して欲しい。
全員、何時もの服に着替えた後は何をするか考えていた。
一度森に戻って、採取のついでにゴブリン達と交渉して仲間に引き入れるか。
草原に出て、他のオークやオーガ等の部族と接触するか。
もしくは他の山や森に行って、獣人族や爬虫類人、もしくは鳥人族に接触するか。
と言っても、後の二つはどう考えても二日以上もかかる上に、次郎さんの案として、かつてのコブリン達を引き入れてみようと言う話が持ち上がった。
まぁ、彼らのを引き入れるならば、かなりの戦力になるな。
特にゴブリンは人間の女性が居れば、あっという間に繁殖できるし。
「あと、今の存在進化した事で、あのバスのエンジンとかも使えそうかもね。それに、あの森は異世界トリップ直後に入ってきた品物とか落ちてるから、色々と採取してみるのもいいかもよ。錦治君」
「そうですね。…あと、例のアラクネになった女騎士の件もあるし、一回は探索をして見ましょう。と言うわけで、本日は探索と言う事で行こう。面子はどうしましょうか?」
「そうだねぇ。そこは錦治君に任せるとしよう」
次郎さんに託された俺は、早速面子を編成していった。
「と言う事で、こうなったわけだが…」
「何がこうなったわけだ…」
俺の問いに冴子はブツブツ言いながら、竜車の代わりで持ってきた馬車を引きながら歩いていた。
今回の面子は、俺と冴子、次郎さんと花子さん、蓮、ギルバートさんにフローゼさん、そして、何故か付いてきたデュミエール達三人のオーガであった。
「村から出たら、そのまま去るんではなかったのか?」
「それは保留でさせて頂きます。むしろ、貴方がサエコ様に相応しいお方なのかを、見極めさせてもらいます」
ある意味頑固なオーガの女であった。
加奈子と直子と良子と美恵の四人は、何時もの留守番。
というより、直子は調べ者で、良子と美恵は蟹の素材の研究。
加奈子は治療担当であるため、万が一の事を考えて分散化させておいた。
その上で、直幸と江崎姉妹ら五人を村人護衛を含めて留守番担当させていた。
まぁ、これで何事もなければいいが…といっても、村人の亜人を含めるなら…
ミノタウロス…八人
ケンタウロス…四人
ノーム…五人
ハーピー三人
アラクネ…二人(+後に生れるのも含めて七人)
サイクロプス…一人
トロール…一人
オーガ(子どものみ)…四人
ハイオーク…一人
オーク(子どものみ)…六人
ホブゴブリン…一人
ゴブリン(子どものみ)…五人
うん、今だけ居れば、普通の三・四人の傭兵パーティぐらいならば余裕で勝てるだろう。
むしろ、頭の悪い騎士団部隊が突撃しなければ、まず近づかないぐらいに大丈夫だろう。
それだけ余裕を持って出たのは良いんだが、何とも言えない気分になるのは何故だろうか…?
いや、それ以前に…
「蓮…」
「何?兄さん?」
「お前、何人型形態になっているんだよ」
「ああ、これ?何気に剣を持って森の中を歩く時は、人型になった方が振り易いんだよね。特に居合い切りをする時は、人型じゃないと、蜘蛛の体に傷が入っちゃうからね」
「まぁ、お前の居合い剣術ならば確かにそうだが…」
正直、蓮の剣道は居合い術も含んでおり、その教えをしていた師範となる
人物が、蓮の母方の祖父…俺の唯一のじっちゃんだったお人だ。
剣道に関しては物凄く厳しい人であったが、それ以外では腹違いの兄である俺にすら自分の孫の様に可愛がってくれたお人であった…
ただ、俺と蓮が高校に上がる前に病の床に着いて、入学前に息を引き取った。
その病の床に着く前に、蓮にありったけの剣道の極意…
そして、息を引き取る前に、俺と蓮に対してこういった。
”蓮や…雲井の剣はお前で最後だ。その殺の剣の極意を生かすも殺すも、お前次第や。お前が決めてしまえ…。ただ、儂から言わせるならば…あれだ。…一度で良いから、お前と錦治を弄び、娘を誑かした…あの男と息子の首を切ってみたかった…”
それ以来、俺は剣を握らなくなったが…蓮は執着するように剣を持ち、剣道をする女子みたいな出で立ちで、剣道部に入らずに暮らすようになっていたな。
…俺がE組に行った後も、昼休みや放課後は竹刀を持って、旧校舎の裏側にて雲井心陰流を極めていたな。
当時の冴子達からは変な剣道女子と見られていたのは幸いであったが、今ではそうは行かなくはなったからな。
まぁ、そんな蓮の剣術を生かす為に、良子に刀を一本作るように俺から頼んで置いたのは間違いではなかった。
良子自身も最初は渋っていたが、騎士団の剣を何本か潰す事で完成した時は一仕事終えたという感じで渡してきたのは、大いに助かった。
…ただ、ギルバートさんに、蓮の雲井心陰流を見抜かれていたのは驚いてしまった。
しかも、殺の剣術だと言うのも、一発で見抜かれていた…
やはり、本職の騎士の経験とは恐ろしいものだな。
「ふむ。キンジよ、もしかするとレンの剣をこの目で見る事が出来ると言う事で良いんだな?」
「まぁ、そうですが…あまり警戒はされないでください」
「いや、異世界の剣術というのを、一度は見てみたいと思っていたからな。レンよ。居合いの本領とはどんなものだ?」
ギルバートさんはそういってる合間に、一枚の葉っぱが蓮の前に舞い落ちた瞬間…蓮が刀の柄に触れたと同時に一気に刀を鞘から引き抜き、葉っぱを真っ二つに切り、そして刀を鞘に戻した。
その動きが一瞬のコマであった為、人によっては蓮が柄を触った瞬間に葉っぱが真っ二つになって切れたと錯覚するぐらい、その動きは俊敏である。
久しぶりに刀での居合い術を見た俺は、以前よりも鋭さを増していた事に関心をしていた。
同じ様に、ギルバートさんとフローゼさんも感心をしており、次郎さんと花子さんも、久々の日本の居合い術を見れた事に、満足していた様であった。
一方の冴子は「はえぇ~」という顔で茫然としていたが、そこまで驚くことは余り無い様子である。
むしろ、残りの原種オーガの三人の方が唖然として見つめており、蓮の剣の腕前に理解できずに立ち尽くしていた。
そんな中をギルバートさんが先に口を出してきた。
「これがキンジとレンが言っていたイアイなのか…私達の剣では真似できない一瞬の剣筋であるな」
「日本という僕達の暮らしていた異世界の国では、昔剣客と呼ばれた剣術の専門の武士がおりまして、その武士達が殺陣…つまり武士同士の決闘の際は鎧も着けずに、刀だけで戦うという話がよくありました」
「鎧も着けずに、こんな片刃の剣だけで戦いあうのか!?」
「ええ。ゆえに、勝負は一瞬で決まる事多く、むしろ互いにらみ合いながら、刀を構え続けて半日も動かずに戦う事もあるぐらいに、日本の剣道というのは奥が深いのです。居合い術は、その決闘の際に各武士の剣の道場流派によって使われる事のある、人間相手ならば一撃必殺の剣となります」
蓮がそう答えると、ギルバートさんも更に関心を示していたようだ。
やはり、平民出身とはいえ生粋の武人なんだなと改めて実感した。
「おっ、この辺りだったな」
「本当、エンジンだけは丸々残ったままなんだなぁ…」
約二時間ぐらい歩いたぐらいで、俺達は最初に異世界に入った時の場所へ戻る事が出来た。
無論、この場所は当時のままであったため、大型の廃棄物がそのまんまに放置状態にされていた。
…が、直子と良子が油などの環境破壊に成りそうなものは、全部取り除いてたおかげで、無傷のエンジンと空の給油タンクだけが放置されていた。
それ以外にも…
「本当、この場所は色んなものが流れてくるんですね」
「うん。だから、俺も定期的にここに訪れて、使えそうな物は持ち帰ってたんだからねぇ」
次郎さんが言うように、この場所一帯が異世界の一方通行の入り口である為、俺達の現実世界から流れてきた品物が幾つも転がって落ちてあった。
テレビ…ラジオ…自転車…
他にも、全自動洗濯機…掃除機…冷蔵庫…
しまいには、壊れて動かない鍵付きの原動付きバイクまでもが流れ着いてた。
うん、こりゃあ収集癖のあるゴブリン達やオーク達が集めに来るわけだ。
「しかしまぁ、全部壊れているし…家電製品用の電気が無いから、動かせないから困るんだよねぇ」
「恐らく…これ全部、あっちの世界で不法投棄されてる奴ですよ」
「だろうねぇ。しかしまぁ、ほぼ新品に近いのに簡単に捨てるとはね」
「今じゃあ、テレビなどの大型家電を捨てる際には、お金を払わないと駄目ですからね。リサイクル店に売りに出しても取られるぐらいに、不法投棄をしたくなる事も、向こうではありますから」
「なんていうか、20年前の俺達の時代であったバブル崩壊時代から、日本は技術は成長しても、中身の人間性はあまり成長してないみたいだな」
そんな他愛の無い話を俺と次郎さんはしながら、良子に渡して使えそうな物を探して、馬車に載せていった。
そんな様子を花子さんと冴子は呆れながらも同じ様に使えそうなのも餞別して馬車に載せ、蓮も同じ様に黙々と餞別して馬車に載せていった。
一方、ギルバートさん達はあたりを警戒しながらも、俺達乗せている品物見て興味を示して、一部は触りながら調べていた。
残り三人は、俺達の居た世界の物品を見て、自分達以上の高度な文明に思わず顰め面をしながら、ブツブツと言っていた。
「…全く理解できません。こんな道具を作って一体何をするのです?」
「全部生活必需品だな。そこにあるテレビという薄っぺらい箱は、電気が通る事で画面に映像を写す機械だな。そこの中が空洞になっている箱は洗濯機で、この中に洗濯物と洗剤を入れるだけで、後は自動的に洗ってくれる機械だ。他にも…」
珍しく、冴子がデュミエール達に壊れている機械の説明をしていたのを見るに、あいつなりにほっとけないという性質が現れているんだなと実感した。
とまぁ、今だけ部品があれば、なんとか使えるだろう。
特に、洗濯機や掃除機等のモーターは、壊れていても使える事が多いからな。
上手く行けば、独自の機械も作れそうだし。
と、そんな考えをしていたら、草むらからガサガサと音が成り、全員が警戒に入るが…出てきたのが、かつて次郎さん達が面倒見ていたゴブリン達であった。
「オ、オカシラ!オヒサシブリデス!!」
「お、お前達か!?どうしたんだ、その傷は!?」
だが、よく見てみると、ゴブリン達全員が五体満足ながらも全身に傷だらけになっており、花子さんが慌てて駆けつけて回復魔法をかけてやるぐらいに酷い有様であった。
そして、ゴブリン達の口から驚く物が聞こえた。
「ニ、ニンゲントアラクネガ、オクデアラソッテマス!!」
どうやら、嫌な予感が当たったようだ。
例の逃げ出したアラクネ女騎士と、この前の役人騎士達が互いに争っていた…
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