第22話 村防衛戦

翌朝…

仮眠を取りながらも夜間通しで俺達と村人全員の総出で作戦用の柵と、騎兵隊対策用の落とし穴や馬返し柵等の罠も大量に仕掛け終えていた。


おかげで若干の睡眠不足であったが、奴等も満足に攻撃はできない対策に俺は満足していた。


「ていうかさぁ、錦治っち。凄い罠を仕掛けたわね…」

「人間の治癒能力で行くならば、一番えげつない物だからな」


直子が指摘するように、一番えげつないのが、村周辺に沢山作った木の槍を植え込んだ落とし穴で、落とし穴の下には村人と家畜から集めた肥やしをありったけ流し込んであった。


戦国時代、この手の罠に落ちて負傷した兵は、ほぼ100%破傷風などの細菌性の毒でやられて命を落とす程の残忍なものであり、九州のとある武将の妻は、篭城作戦の時にこの落とし穴の罠に加えて、落ちた武将達に土をかけて生き埋めて殺すという戦法を取り、当時攻め入った敵武士に恐怖を与えたという逸話もあるほど、恐ろしい罠であった。

…それが、かの有名な妙林尼の鶴崎城篭城戦として伝えられた落とし穴にだけあって、あの島津軍を手こずらせた作戦の一つである。

無論、今回も落とし穴に落ちた傭兵や騎士達を生き埋めに出来る様に、落とし穴の周りの土をワザと脆くし、何時でも土を被せるようにしていた。


その他にも、落とし穴の後ろには飛び越えたい策として馬返し柵を設置し、他にも村の策に火の手が上がらない様に石で積み上げていた。


…本当、亜人の力じゃなければ、一週間はかかっていた。


なお、戦えない老人達や家畜達は避難所となった岩塩採掘所へと避難させ、天井崩落防止用に前から補強していた為、奥へと隠していた。


いざとなったら、戦い慣れてない亜人の村人も隠せるようにはしていたが、流石の今回は全員…特に最初に亜人となった村の女性達は団結していた。


これ以上、自分達が掴み取った自由を踏みにじられない為に。


そんな彼女達に申し訳なかったが、俺なりに賞賛をしていた。

なお、彼女達にはこの前の陸蟹の甲殻で出来た防具を全員に進呈していた。

素材が軽い分、ハーピーになった女性も胴体部分を保護できる防具として優秀であったので良かった。


それに、俺達の拾ってきた廃材を見た良子は、目を輝かせながら言ってきた。


「よくやったわ錦治君!洗濯機などの廃材を見つけてくれるなんて!!」


どうやら、ビンゴであったようだ。

洗濯機などに元からあるモーターなどの電動力部などが完品であったため、良子にとってはうってつけの素材だったようだ。


おかげで、意気揚々に工具を使って発明し、色々と凄い物を開発していた。


また、直子が大事に取っていた火炎瓶も健在であり、こちらも手投げ弾として応戦用に温存する事にしていた。


あとは、向こうがどう出るかだ…



「錦治君!人間達の兵が見えてきたわ!!」

「了解した、加奈子。総員!戦闘配置!!」


さて、俺とギルバートさんの指揮がどれだけ通用するかが、課題となるだろう。

見せてもらおうか、異世界の戦争とやらを。



…と思ったが、敵の部隊を見たらこけそうになった。


「神から呪われし忌まわしき姿となった亜人ども!我ら光の騎士団によって浄化されるがよい!!行くぞ!我が騎士団よ!!傭兵どもに遅れを取るな!」



よりによって、騎兵が5割、歩兵が4割で…

弓と魔法使いの遠距離が1割程度しかいない騎士団混合軍ってなんだよ。


「お前ら中世以下の戦争しか出来んのか!!大型の弩であるバリスタとか!遠距離投石器とか無いのかよ!!」


と、俺が怒号を上げながら、村人達に手製の中型投石器を用意しつつ、投てき発射の指示を出しながら村の防護柵に上がり、俺や冴子ら等の攻撃魔法をメインにしない奴らは弓等の遠距離飛び道具で応戦し、直子や次郎さんの攻撃魔法部隊には、同じく柵に上がって魔法で応戦してもらった。

もちろん、ハーピーになった三人の村人には高い所から石を落として貰って、牽制援護をして貰った。


「おのれ!卑怯なり亜人ども!!飛び道具を使わず正々堂々と戦え!!」

「誰が正々堂々戦うか!勝ちを狙って何が悪い!!」


そういいながら俺は煽ったら、向こうの傭兵達が切れたらしく、馬に乗って、村の門を破壊しようと近づいてきた。


…いや、本気で馬鹿だと思ったわ。


案の定馬返し柵を避けた辺りに設置した落とし穴に馬ごと落ち、しかも崩れる壁と落ちた時の木の槍に刺さって死んで動けなくなり、生きてても傷口に肥え等の腐敗物に汚染されて、動けずにいた。


「…なんか、人間が可哀相に見えてきましたわ」

「というよりも、このトロールの戦術が恐ろしすぎます」

「…うわぁ、しかも情け容赦なしに土を被せてますよ」


流石の戦闘亜人のオーガであるデュミエール達から、冷ややかな声が聞こえ、そんな三人に冴子は肩を叩いて「諦めろ」と促された。


…すまんな。

一回こんな戦術を見せておかないと、奴らは引かないからな。


「おのれぇ!卑劣極まりない連中め!今すぐ仕留め…!!」


敵大将の騎士団長はそう喚き散らす前に、俺はトロールキングの怪力を使い、野球のボールサイズの廃材鉄の塊をストレート球に騎士団長にぶつけ、頭を破裂させて絶命させた。


その後は、烏合の衆となった騎士や傭兵達は散開しそうになった所を開門し、後は残党狩りの要領で生き残りを全員捕え終えた。


…実質被害ゼロ。

捕虜を捕まえる際に、俺が腕などに傷を入れられたぐらいであったが、それもトロールの治癒能力の高さで治まった。


というより、傷を入れられた時に蓮が激昂して、傭兵一人をアラクネの鋼糸で八つ裂きにした時に、宥めるのに苦労がした…






「…見事に騎士団側はほぼ全滅か」

「流石に上官が指揮官の才が無いと、全然役に立ちませんですね」

「いや、君の作戦がえげつなさ過ぎるからだ。…正直、君達の祖先の武将が、恐ろしすぎるんだよ」


ギルバートさんから、そう酷評されながらも村人への被害が無かった事には評価してくれた。


「しかし、ギルバートさん。コレが傭兵部隊だけだったら、少しは変わってましたかも」

「ほぅ、それは?」

「今回の戦いでは騎士団が陣頭指揮を取っていた為、恐らくは使えなかった火の矢や遠距離からの炎石などの投石部隊や炎の攻撃魔法を使う魔法部隊の、火計を使わないと言っていいほど戦略に皆無であったのと、白兵にこだわって突撃のみによる作戦しか立てられなかった事ですね」

「なるほど。要は軍師が居なかったからという事か?」

「そう言うことです。恐らく、今回の場合は軍師などの策略家が居ったなら、被害はあったと思われますね」

「そうか…まぁ、騎士団の大半は形式に拘る余りに卑怯な戦法が出来ないと言った制約があるからな。今回ので学ばせて貰ったよ」

「今回のはあくまでも民兵での戦術ですからね。一昨日の夜に述べてましたベトナム戦争という人間同士の戦争では、熱帯の森などに竹槍の罠を仕掛け、その上に今日の落とし穴や音を鳴らす罠を仕掛けて、隠れ潜んだ兵が一斉に攻撃を仕掛けるという戦法とっていた為、当時最強と言われていた軍隊が手出しが出来ずに悪戦苦闘をしていたという事実があります。しかも、その民兵の彼らにその戦術を教えていたのが、俺達の祖父の代でしたからね」

「そんな戦術を思いつくほど、切羽詰っていたというわけか」

「ええ。そのベトナム戦争の前が、二度目の世界大戦の時で、相手の国よりも物資も無く、飢えと疲労の中で敵軍に勝つ為の…形振り構わない戦法ですね」


俺がそう答えると、ギルバートさんは沈黙しながら考えていた…


戦争は人を変える…


人間や亜人に問わず、追い詰められた者の力は恐ろしい物…


「…これが、他の人間の村で反旗を起こし始めたら、とてつもない事になる可能性はあるか?キンジよ」

「ありますね。今は戦うと言う選択肢を与えられてないから、各村の人達は耐えておりますが。俺達がいなくても、いずれは誰かが立ち上がり、革命を謳って同士を集め、王国をひっくり返して自分達の国を作ろうと動きます。その場合、多数の犠牲で成功するか、失敗で反乱軍全員処刑かに終りますね」

「…難しいな。人間というのは」


そう呟いて、ギルバートさんは村に捕えられた傭兵達の元に向かっていった。

その次に、美恵が近寄ってきて、俺に引っ付いてきた。

…しかし、その美恵からは震えを感じた事に、俺は気付いた。


「怖がらせてしまったな」

「…今回ばかりは、錦治君というより、人間の怖さを知ったわ」

「美恵…よく覚えておけ。これが、戦争というものだ」


そんな事を呟きながら、俺は美恵と共に防護柵の高台から見える戦場光景に、焼き付けていた…


いずれは、もっと厄介事が起きるだろう…



結局、傭兵達は全員武装解除という形で武器と防具を押収し、丸腰のまま村の外へと放り出した。

亜人化させても、金次第で裏切る傭兵を置いておくよりも、その方が無難であったからだ。

無論、丸腰で村の外に出すという事は、ある意味死の宣告をしたような物で、知恵の無い野性の魔物に捕食されるリスクの中で来た道に戻れという物だ。

これ以上の刑罰はないだろう。


それ以外に、妥協案は無かった。



そして、その日の夜は学生組と次郎さん達、そして現地人の主要の面子で話し合っていた。


「正式な国王軍が揃ったら、どれくらいの規模に成りますか?」

「恐らく一万人は居るといわれるな。ただ、めったな事には動かないし、それ以前にベヒーモスが巡回するこの国では、そんな目立つ進行は出来はしないだろうな。むしろ、厄介なのは勇者の存在かもしれない」

「勇者か…結局はそこに行き着くわけですか」

「ああ。正直、以前はナオユキ達の勇者達よりも凄い勇者はこの国には居た。だが、彼は裏切ったのだ。勝手にあの魔王軍に入り、人間に敵対し始めた、あの日の出来事を…」


魔王軍入りしただと…?

俺達の前任者である別の学校の生徒でもよくあるのか…

それとも、直幸達みたいに亜人化したように、そいつも魔物化したりして、やむ終えずに入ったか、もしくは魔王軍に恋人か親友のどちらかが既に入って、遠慮なく入ったか…

どちらにしても、結果として裏切ったに他ならない。


「ところで、直幸。あの三人は隔離施設に放り込まれたと言ったな?」

「あ、ああ…そうだが」

「俺の直感が当たるなら…ちょっと拙い事になるかもな」


その俺の言葉に、他の皆は動揺し、元騎士らの亜人達からも動揺が広がっていた…

すると、昨日仲間になったシャルトーゼがアラクネの足を動かしながら、此方に詰め寄ってきた


「ちょっと待って、それはどういう意味?」

「下手するとだ…王国に魔術師の研究所があるとする。そこで隔離された役立たずの勇者を放り込まれる。して、その勇者達が何らかの魔法強化され、それを軍の兵器として運用し始めたら…?と、考えてしまったんだが?」


その言葉に、ギルバートさんとフローゼさん、そしてシャルトーゼは顔を真っ青にさせ、俺の方に見つめて来た。


「…ありえるな。フローゼも同意してる」

「そういえば、王族と関係者以外は貴族すらも立ち入り禁止してる施設はあったわ。もしや…」

「だな。あんまり騎士団がふがいない場合は、投入する恐れがあるな…。お前達、かつての学友と相手をする事になるが…覚悟は出来てるか?」


俺のその質問に、冴子達五人はおろか、直幸ら五人も俯き加減に沈黙していた…

ただ、蓮だけは違っていて、刀を持って答えた。


「僕は兄さんを守るだけ。兄さんの敵となるならば、例え同じ学校の人間であっても、切り捨てる覚悟は出来てる」

「そうか…だが、思いつめるのだけは寄せよ。あと、分かってるな?」

「うん、爺様の言いつけは守るよ。兄さん…」


蓮の同意は了承はした。

あとは、他の皆であるが…

一応、促しておいた。


「もしも万が一殺し、二度と復活しない場合は俺が責任を取る。それぐらいの覚悟ならば、俺には持っている。全ての責任は俺に任せろ。それが、上に立つ物の責任だ」

「錦治…そう軽々しく言うものじゃあ…」

「軽々しく物ではない!…もはや、引き返せない所まで来てるし、いずれは…俺達は否応無く人間と相手せねばならないんだ。長を預かる者として、自覚は当の昔にしてる。だから、迷いや甘さを捨てて、手加減せずに戦ってくれ。でないと、今度はお前達を死なせてしまう。頼む…」


俺はそう言いながら、皆の前で頭を下げた。

そんな姿の俺に、皆は思い悩んでいたが…なんとか考えてはくれたようだ。


「正直さ…私はあまり人殺しはしたくないし、同じ学校だった人間は相手をしたくは無い。だけど、錦治が言うようにそれだけじゃあ駄目だと分かったよ」

「そう…だね。いずれは、通らなきゃあいけないもんね…」

「錦治っち…あんまり背負わないでね」

「…長を務める余り、背負い過ぎになるから」

「私はどちらかと言うと、あの学校の人間にはどうでも良い。でもね、錦治君。貴方は貴方の道で選んでね。その為なら、力を貸すから」


「正直、お前は大馬鹿野郎と思っていたが、本当に馬鹿野郎だ。…少しは俺に貸せよ」

「私達は、特に何も感情は抱かないけど…」

「むしろ、苛められた記憶しかない…」

「でも、人殺しは嫌だけど…」

「横山君がそこまでの覚悟なら、直幸君と共の協力する…」


「お前ら…」


そんな皆の意見に、俺は再び頭を下げた。


「錦治君。これからが大変だよ…本当の勇者は、あの時の子達よりも強い。覚悟はしておいてな」

「そうよ。斉藤でも、かつての私の親友の恵美を倒せるぐらいの強さだったわ。だから、侮らないでね」


次郎さん達も、俺に改めて警告しつつ俺に指示してくれた。

前任者として彼らに、頭が上がらなかった。


「成り行きで付き合い始めたが、最後まで付き合おう。どうやら、王族の中で不穏な動きをするものも居るようだ。フローゼも付き合うといってる」

「半分は元の人間を取り戻させて頂いた恩があるからね。私も協力する」


元騎士三人も同意してくれた。


「ここまで信用されてるとは…驚きでしたわ。当分は主義を置いときまして、一時的に貴方に協力を致しましょう。ジュラ、デュラ、貴方達も一緒に」

「姫様がそう言うのならば…」

「致し方有りませんですね」


少ながらずとも、オーガの三人も協力はしてくれるようだ。

あとは、村人と、合流したゴブリンや子アラクネ達も同意を得るとするか。


「…やはり、あの人が来ると思ってる?兄さん」

「当然だ、蓮。王国が動いた後は、必ず奴が動いてくる」


あいつ…A組の特待で学年主席のアイツが、俺達を無視しないわけが無い。

恐らくは、王国が虎の子の改造勇者が無くなったら、アイツに頼む様にしてすがり付いてくるだろう。


だが、それは俺と蓮だけの秘密にして、今日の会議は終えて就寝に着いた…




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