第3話 いきなりサバイバル

とりあえず、最初にやる事にしたのは…全員のご飯であった。

丁度昼飯前に此方の世界に飛ばされたので、全員お昼ご飯がまだなのでご飯を出そうと思ったが…


「そういや、コンビニで買ってきたお握り…駄目だわ。全部駄目になってる」


冴子が旅行トランクの中にコンビニで買ってきた御握りやお菓子があったが、どうやら前の世界のものは全部駄目になっていた。


ライター。


携帯、スマホ。


パソコン、ゲーム機。


辛うじて大丈夫だったのは、加奈子が何時も持ち歩いてる小説や漫画、良子の工具、美恵の園芸道具と小型の植物図鑑ぐらいだった。


案外、ここの神は狡賢いかも知れん。


「全然うんともすんとも言わないね…」

「電池がなくなってる感じだね」

「…電気魔法でもあれば、動くんじゃない」

「たぶん駄目だな。先ず電圧が不安定だし、電量も半端内から…たぶんやったら機械類は全部壊れる」

「ですね。皆、諦めましょう…」


良子の声に皆は「はーい」の返事で、他に使えるものが無いか調べていた。


が、やはり進展が無いので…とりあえず俺は壊れたマイクロバスを見て何か出来ないか考えていた。

使えないならば、荷車にすれば良いかなぁとか。

そこで、良子と冴子に提案したら、以外と乗ってくれた。


早速、俺と冴子、加奈子と美恵の四人でマイクロバスを持ち上げ、良子が下に潜り込んで、バスの車体を固定してあるボルトなどを全部取り外し、車体枠だけを外せるようにして解体していった。


全員怪力になったのは凄いと思ったが、良子が前以上に手早く工作が出来る技術力の凄さに驚きを隠せなかった。


「凄いな…もう終ったぞ」

「前以上に頭がスラスラと入ってくるのよ。これも錦治君が私にフォローしてくれたおかげかしら?」


と言って、一つ目でウィンクしてきた。

一つ目だが、可愛いと思った。

ソレを見ていた他の四人も少し妬きもちを焼いていたので、均等に頭を撫でてやった。


そして、解体した車輪が付いた車体下に、縄と鎖を繋いで牽引出来る様に改造し、あとは牛でも馬でも何でも引っ張れる動物がいればいいんだが…


「ねぇ…錦治君。あの動物って…?」


そこに居たのは、人間ぐらいの大きさの合鴨顔の鳥が居た…






「焼いたら美味いな」

「うん、この羽鳥には感謝だな」


流石に腹減っていたのか、俺が手早くその鳥を捕まえ、首を折って絞めて、丁重に羽を毟って、肉を確保した。


そのついでに、直子が隣にある川から石を幾つか見つけ、火打石になるか調べていたら、何個か見つかったので、燃やせる紙に火花を散らして燃やし、焼肉をしていた。


…いやまぁ、サバイバルで焼肉食えるというのは、本当にありがたい。

このまま生肉を生食となると、流石の女子達は泣きながら食べてるだろう。

主に精神的虐待的に。

しかし、亜人怪物ならば生肉喰っても腹は壊さないと思うが…まぁ、衛生潔癖で育った元日本人と考えるならば、止めて置いた方が良いな。


焼肉食った後は、他に使えるかの道具作成をしていた。

今回は素手で鳥を捕まえる事が出来たが…ここはファンタジーの異世界。

他に凶暴な生き物も居れば、俺達と同じ亜人怪物の魔物。

はては人間が攻める事も有る。

となれば、先ずは武器を作らねば…


実を言うと、良子が車体外してる合間に、同じ様に美恵も何か道具を作り、直子が拾ってきた黒曜石っぽい石を加工してナイフにしたり、使えない車の部品などを使って槍などを作っていた。


案外、良子の次に才能があるな。

ただ、完成した後のにやぁとした笑顔は怖いから止めて欲しい。


その間、暇をしていた俺と冴子と加奈子の三人で、晩御飯の狩りを始めに、残りの三人はバスの車体を当分の家としながら、色々と道具を作っていた。



「久しぶりに…三人っきりになったね」

「そういえばそうだな」

「そうだな。…安心しろ、加奈子。私が守ってやるから」

「大丈夫よ…小川さん。私も頑張らないと」

「冴子で良いよ。この世界では苗字は不要だと思うから、皆家族のように名前で呼び合おう」

「そうだね…それじゃあ、改めて冴子さん。頑張りましょう♪」


普段余り見せない笑顔で接する加奈子に、俺と冴子は照れながら、前に進んでいった。



…そして、この異世界で最初の過酷な現場を俺達は見た。

俺達とは更に醜悪な…原生のゴブリン達が人間達の冒険者を襲い、殺して身ぐるみを剥いでいたのを。


「うげ…見ちまった…」

「加奈子、あまり見るな」

「ううぅ…」


流石の冴子も、いきなりの殺人現場に衝撃を受けていた。

喧嘩っ早い冴子でも、あまり血を見慣れては居なかったからだ。

それどころか、腹を切り裂かれて中身が飛び出しているのを見るや、正気で居られないだろう。


そして、冒険者の中には女性も居た。

だが、女性はゴブリン達の縄で拘束されており、ほぼ全裸にされていた。


「可哀相だが…あの女性は助からんな」

「…?どういうことだ?錦治」

「よくファンタジーのゴブリンの繁殖では、人間の女性を使って繁殖するの。基本は雄の種族だから、仕方ないとはいえ…」

「なっ…!?わ、私らは大丈夫だよな!?」

「ああ、大丈夫だ。逆に同じ種族だと繁殖はし難い。その上、雌の亜人怪物は雄よりも凶暴だから、雄たちから恐れられている。おっ?」


そこで俺は思い出した。

雌が雄よりも怖い…

ならばこそ、俺は二人に耳打ちをし、二人は戸惑いながらも作戦に了承した。


そして、俺達は一斉に飛び出した。



「うわああああああああああああああああああ!!」


冴子がオーガらしく大きく声を上げて吼えた瞬間、コブリン達は悲鳴を上げて腰を砕けて座り込んでしまった。


ソレを見た俺は加奈子と共に棍棒を振り上げながら、飛び出した。


「うおおおおおおおおお!!」

「がああああああああああ!!」


トロール、オークの巨体にゴブリン達は涙を流しながら土下座したり、頭を押えながら蹲って震えていた。



「よーし、成功だ」

「…なんだかなぁ」

「ゴブリンは基本、大きい亜人には勝てないと思うほど力の低い種族なんですの」


直子には悪いが、基本ゴブリンという種族は魔物の中でも最下級で、同じ亜人怪物の中で一番下であり、その上位であるオーク、オーガ、トロールと言った怪物が現れると一目散に逃げたり、あるいは服従したりとプライドのかけらも無い姿を晒す。


…そう考えると、直子はただのゴブリンというより、上位のホブゴブリンだったりするんじゃないかと。


そんな事は置いといて、俺はリーダー格のゴブリンの頭を掴み、ちょっと交渉をしてみた。


「おい、俺達の言葉が分かるか?」

「ハ、ハイ!ワカリマス!!?」

「今から俺が幾つか聞くから、全部答えてくれや?」


人間時代に、他のクラスと交渉する際に使ったドス黒い笑顔の交渉術をゴブリン達に行なったら、皆壊れた機械の様に頭をぶんぶんと上下に振って応対してくれた。


流石のその俺の姿に、あの冴子は苦笑いをしていた。




ゴブリン達から聞いた話では、ここは一番辺境の森らしく、鳥や牛の姿をした原生生物の魔物から、自分たちゴブリンやオーク、コボルトの亜人怪物しかいないらしい。


牛が居るなら、大丈夫か。


そして、ゴブリン達の”優しく”交渉しながら食料を要求したら、今日捕まえた羽鳥の肉を幾つか貰った。


他にも、例の捕まえた女冒険者も渡そうとしたから、「あっ、そっちは要らないから、君達で頑張って処理してくれ」と突き返したら、茫然と見つめていた。


すまないね。

大抵、男だらけのパーティならば嬉しいご褒美だが…ほら、俺、今は緑怪物じゃん。


その上、横の二人と留守番してる三人を合わせたら、女だらけの面子に、人間女性を入れたら…と考えると無理だわ。

あと、かなりの美人だから確実に嫉妬する。

彼女には悪いけど、残りの人生をゴブリンと共に暮らしてくれ…



「…良かったのかしら?あの女性」

「下手に救おうと思うな。今の俺達は人間の敵だからな」

「確かにな…まぁ、手を合わせて拝んで置こう」


来世では良い人生でありますように、南無。




して、無事に帰ってきた俺達三人を、良子からお叱りを受けた。

加奈子から借りた本を読んで覚えた知識から、幾らゴブリンとはいえ、数によってはオーガすらを怖がらずに襲ってくる事があるらしい。

それに、オークと合流して行動してたら、戦争に成りかねないから止めて頂戴との事。

いや、本気で反省してます。


とまぁ、本日二回目の焼肉の晩御飯を有りつけたということで、今日一日が無事に終了しそうだった。


明日からが本格的に忙しく成りそうだ。


そう思いながら、俺達はバスの座席を改造して作ったベッドの上に寄り添うように寝そべり、一夜を明かした…




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