第15話 村の立て直し
翌朝。
起きた俺達は、ギルバートさん達を見送っていた。
「では、何時かまた会おう」
「ええ。お元気で…」
二人の元騎士達は、良子の特性の鎧と剣…蓮が編んだマントを羽織って、旅人として歩いて去っていった…
二人が作った特注品の加護にあらん事を…
「さて、これからがどうするかだ…」
「そうね。村の人達に、色々と教えていかないとね」
良子の答えと共に、俺は再び村の運営を考えていった…
「村で取れる特産品の種類は、コレだけですか?」
「はい、コレだけになります…」
ケンタウロスの女性から差し出された種籾を見るに、俺は考えさせられていた…
麦と大豆…これは分かる。
しかし、普段主食にしていたのが、粟と稗の二つ…
流石に、この二つだけでは、栄養も満足じゃないだろう…
「他の野菜とかは栽培はされてないのですか?南瓜とか、大根とか」
「それが…今までは野菜類は税として納められ、私達の口にはとても入れませんでした。しかも、近年では麦と大豆までも税の対象になり、それでも払う物が無いと言ったら、村の娘達を税に…」
となると、食うためじゃなく、税として栽培していたのか…
そして、後にあるのは、森で直幸達が持っていた岩塩である。
村の外れには、岩塩が覆う地層の穴があり、村人はそこから岩塩を砕いてて手に入れてはいたが…見ての通りに、崩れた岩塩同士をぶつけ、粗末に砕いた程度の大きさであった。
当然、生成などと言ったものから遠すぎる代物である。
「うーむ…石臼があれば、まだなんとかなるかな。所で、石臼はこの村にも各家庭に置いてありますか?」
「それが…税逃れ対策として全部押収されてしまい、一つも残ってはおりません…」
「…一から作る事になるな」
そういった俺は、早速石臼作りをする事にした…
「こんなもんか」
「ざらざらとして堅い岩なんて、早々に無いわよ…」
良子が呆れながら物を言いながらも、俺が持ってきた岩を見て、早速加工をしようとしていた。
玄武岩でも良かったんだが、流石に火山岩は川とかには小さい奴しか落ちてないし、取りに行くとしたら少し離れた平原に埋もれている大岩を掘り起こすしかなかった。
しかも、岩塩採掘所の周りの岩は意外に脆く、簡単に力を入れればボロボロに崩れそうなぐらいに、玄武岩よりも脆かった。
仕方ないので、一番堅い花崗岩の中で、一番表面がざらついている奴を石臼用に加工することに。
「ん…やっぱり堅いわ。無理やり加工しようとすると割れてしまう…」
「あっ、雑賀さん。良かったら、僕に任せてもらえないでしょうか?」
悪戦苦闘する良子の後ろから、蓮が話しかけてきた。
すると、良子は「えっ?」と言う顔をして、蓮に任せていった。
その一方、蓮はアラクネの糸を丁度石臼の形になるように岩に巻きつけ、一対の糸をそれぞれの左右の手に持ち、引っ張れる状態にしていた。
「…
そう叫んだと同時に、蓮から引っ張られた糸は鋼鉄の様に堅くなり、堅い花崗岩を一瞬で石臼の形になるように裁断されていった。
「お姉様…かっこいい♪」
いつの間にか、取り巻きになった村のアラクネ女性二人に褒められた蓮は、残りの花崗岩も石臼の形へと変えるように、鋼糸と化したアラクネの糸を使って裁断していった。
「…良子」
「何?錦治君」
「アレでよかったのだろうか」
「…良いんじゃないかしら」
そんな蓮の様子を、俺と良子は目が点になって茫然と見ていた。
蓮のおかげで石臼を大量に作れる事が出来たので、早速皆総出で石臼を作り、試しに納税用に備蓄していた麦を石臼に引き、粉として磨り潰してみた。
即席ながらも、岩の荒目によってよく磨り潰されており、見事な小麦粉が出来上がっていた。
同時に、細かく砕いて石臼の穴に入るぐらいに小さくした岩塩を、石臼に引き、砂塩も完成したのを見て、本格的に塩作りが出来る事に、皆も喜んではいた。
ここまで細かく砕ければ、水に溶けるだろうし、調味料も作れ…
調味料…味噌…
「味噌!」
突然の俺の叫び声により、皆が驚いて俺を凝視していた。
「な、なんだよいきなり…」
「麦…大豆…そして塩…何故これほど揃っているのにも拘らず、日本人には嗜好品であるあの調味料を作ろうと思わなかったのかを、今思い知らされた…味噌作りをしたい!!」
味噌を作りたい。
俺はそう断言した瞬間、またしても皆が空笑いしながら…特に冴子に到っては、俺の肩を叩いて首を横に振ってきた。
「あのさぁ…幾らなんでも西洋文化の強い異世界なんだよ。流石に現地の人に味噌作りしろって言われたから、流石にきついと思うよ。錦治…」
「ぐっ…正論であるな…」
流石にぐうの音の言えない冴子の正論に、俺は黙るしかなった…
だが、そんな俺を横切る様に、美恵が手を上げてきた。
「…なら、ここにいる皆の分だけ造れば良いんじゃない?」
その時の美恵が、俺にとっては最高に輝いて見えた…
「して、どうすんだよ…村人達もギャラリーに混じったじゃないか」
「まずは…分けてもらった麦を全部洗ってしまおう」
まず最初に始めたのは…精米ならぬ精麦からであった。
米の場合、玄米から白米へ精製する際に、糠と麦芽と取り除く必要があり、特に糠を取り除かないと、麹を作る際に雑菌が繁殖して、かびてしまう。
ゆえに、麦も同じく念入りに洗い、精製して綺麗な白麦と麦芽に分け、落とした糠は、これはこれで取っておく。
次に、一晩かけて水につけて、水を切ってから蒸すんだが…
「そういや、錦治っち。昨日辺りにね、面白い魔法が覚えたんだ」
「どんなのだ?直子」
「ふふ~ん♪それは見てからのお楽しみ♪」
と言って、直子は水につけた白麦に向かって、何かの魔法を掛けていった。
すると、麦が驚くほど早く水を吸い上げ、一晩漬け込んだぐらいに膨れ上がったのだ。
「ちょっと待てい、お前…何をした?」
「ん?実はねぇ…生物以外の時間を早めちゃう魔法を覚えてたの♪しかも、菌とかの微生物は対象外で発動しちゃう便利な奴♪」
「なんつー魔法を覚えてたんだ…」
そんな様子で見ていた俺であったが…後で調べてみたら、直子のこの魔法は、以外と普通に使われていた魔法で、酒造りに携わる職人とかが覚えてると。
…案外、酒やチーズは簡単に作られそうだな。
して、そんな直子のサポートの下で、膨れた白麦を蒸して行き、蒸し終えた白麦を殺菌した容器に詰めて、改めて消毒した手で広げて行き…
そういえば、冴子が持っていたおにぎり、あったな。
「ちょっと待ってな…うっ…か、カビが…」
「上出来だ。貸してくれ」
「うえっ!?しょ、正気が!?」
「と言っても、使うのはこいつだけだ」
俺は冴子が持っていたカビたおにぎり…の白っぽいカビだけを採取。
後は焼却をする様に頼んだ。
やはり、本当に日本人でよかったと言うのが、この白カビ。
これの種類にある不完全カビこと、コウジカビを培養する事で、味噌などの調味料になるわけだ…
ただ、全部の蒸かした白麦にやると危ないので、一旦小さい保温容器に白麦の一部を入れ、その中に白カビを落として、直子に魔法をかけながら混ぜるようにお願いし、培養して増やした白麦のソレを見た。
すると、良い感じに膨れあがり…真っ白で良い香りをする種麹が出来た。
一発で成功するとは、幸先がいいものだ。
あとは、この種麹となった白麦に、同じ様にして残りの保温してる白麦に入れ込み、一旦魔法をかけながら様子を見て、白っぽいものしか繁殖をしないかを見て、無事に白い菌糸の斑点が見えてきたので、これを更に時間魔法をかけて醗酵させて熱を帯びさせ、発熱によって水分が飛んでいく白麦を、高温をキープさせながら水分をどんどん飛ばし、白麦の中へ菌を流し込ませてゆく…
あとは、白麦が完全に白っぽくなって膨れ、良い香りしたら、麦の種麹の完成。
そして、この麦種麹を時間魔法で乾燥させて、からからに乾燥させた後は半分は俺達が保管、残りは村人達に分けてあげた。
以外と、興味心身で聞いていたからな…
そして、これからが本番であった。
同じ様に、今度は大豆を水洗いして同じ様に水につけ、時間魔法で加速させた後、同じ様に蒸して麹菌が繁殖しやすい環境にし、大体砕いても大丈夫なぐらいにふやかしたら、例の種麹を入れ、大量の岩塩の粉を隙間に敷き詰めるぐらいに降っては全体を潰して、空気が入らないように敷き詰め終えたら、密閉用の押し蓋を乗せ、その上に重石になる漬物岩を乗せて、あとはもう一度時間魔法を操作して、約十ヶ月ぐらい中の物体の時間を進めて醗酵させてみた…
そして、中を空けてみた俺達は…
「うおぅ…味噌の香りだ…」
「すげぇ…直子の魔法が無かったら、恐らく一年かけて作ってたわ」
「はふぅ…疲れたよ姉御ぉ…」
「…よく頑張ったわ。直子」
「本当に共同でお味噌を作っちゃうなんて…」
「直子ちゃん、よくやったわ」
「へへっ…皆ありがとう」
皆、直子にべた褒めであるが…一応俺がレシピを教えてるんだからな。
と言いたいところであったが、ここはあえて黙って、村人達に味噌を食べさせておいた。
…初めて食べる日本の食べ物に、戸惑ってはいたが、美味しいと答えてくれた人達はいるようだ。
とりあえず、本来の種麹の作り方とカビ毒の注意、あとは味噌などの作り方を教えておいた。
たぶん、大丈夫だろうが…万が一不快臭がしたら捨てるように促しておいた。
あと、村人達に普段は捨てられている麦の糠はどうしてるかと聞いたら、大半は捨てて畑に撒いていると答えていた。
…まぁ、これも本来は糠漬けに使えるんだが、あれは上級者向けだから止めておこう。
失敗して、すっぱい漬物になってしまったらいかんわ。
とりあえず、俺は残った糠は乾燥させるように木の板に広げ、天日で干していった…
味噌を反則ながら満足に作れた俺は、残っていた石臼の作成を終えて、各家庭に配っておいた。
岩塩に関しては、これで解決しただろうし、あとは昔ながらの生活の知識で任せることにしよう。
と言いつつ、村近くまで寄って来た、森にいた羽鳥を狩猟して、今晩の村全員の肉を確保した俺達は全員でご飯ありついていた。
特に、新しい調味料の味噌を使った加奈子の料理に皆喜んでいた。
案外、美味いものは異世界問わずに万国共通に共感するんだなと実感した。
そんな食事を終えて、村の住民達も寝静まった頃に、俺達は外で焚き火をして、次の話をしていた。
とりあえずは、村に常駐するか、旅をするか…
だが、全員満場一致で村に常駐することにした。
ギルバートさんが言っていた、凶獣ベヒーモスとの戦いを避ける為に。
「まさかな…昔俺がやっていたゲームで出てきたボス魔物が、この国にいたとは驚きだよ…」
「次郎さんから空想の話として聞いていたけど、まさか居るとは思っていなかったわ…」
次郎さんと花子さんはそう言いながら、ベヒーモスが存在していた事に驚きを隠せてなかった。
「ところで錦治。そのベヒーモスって、どのくらいの大きさなんだ?」
「私達、ゲームはあんまりやらないから分からないし」
「ファンタジー物も余り読まないからねぇ」
直幸と江崎姉妹達はそう答えながら、実感湧かない顔で俺の方を見ていた。
「そう言われると、私らもあまりゲームやんないし、ファンタジー物の漫画や小説は読んだ事が無いんだよな」
「そういえば、私も姉御と同じだよねぇ」
「…その点、何か知ってるよね?」
「そうね。あと、蓮君…蓮さんって呼んだ方が良いかしら?」
「いえ、普通に連で良いです。良子さん」
「なら、蓮。貴方も知ってるのかしら?」
良子の問いに、連も一旦は考え、俺と加奈子に合わせて皆に話した。
「…ベヒーモスは、旧約聖書のヨブ記に出てくる伝説の獣で、その大きさは山のようにでかく、その巨体さゆえに歩くだけで国が一つ滅ぶとされるぐらい、やばい奴だ」
「その上に物凄く凶暴で、戦う意志のある者ならば生物問わずに攻撃し、跡形がなくなるまで相手を攻撃し続けるほどのものなの…」
「その上、上位になるとキングの称号も付き、ベヒーモス達を束ねて、群れで行動するほど、とても危険な魔物なんです」
俺達三人の説明に、次郎さん夫妻を除く皆は今一実感を感じてはなく、未だに首を捻ってる状態であったが…
「なぁ、その大きさってさぁ…どのくらいなんだよ?」
「そうだな…」
冴子の質問に、俺は皆が見える位置に立ち…
「ここから…」
その場所から自分の足で約200歩ぐらい進んだ所まで進み…
「ここまでかな」
立ち止まった所で皆の方を見ていたら、加奈子と蓮を除く、冴子ら四人と直幸ら五人は驚きを隠せずに居た。
「でかすぎだろ…」
「しかも、厄介な事にこいつの大抵は魔法無効の体質を持っており、上位であるキングになると逆に魔法を使って応戦する上に、一度倒しても神の力で止めを刺さない限りはゾンビなってでも戦おうとするぐらいに、厄介な魔物だ。出会ったら、まずは逃げる事を進めるだろうよ」
その説明に、他の皆は沈黙していたが…
今の所この広大な国の領地の中でうろついている程度らしいので、村に常駐するならば大丈夫だろう。
そう俺が告げたら、改めて皆も村に残る事にしたので、本日の俺達の一日は終っていった…
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