第43話 旅団のひと時、そして王都へ

翌日…


英雄人狼ヴェオヴォルフと組んだ俺達は朝食を取っていた。


「しかしまぁ…本当に碌な物を食べてなかったのですね」

「面目ない…」


いくらドイツ人の血を引いていたとはいえ、やはりアメリカ人…

簡素なレーションに加えて、パンと干し肉というバランスの悪い食事であった。


「野菜とかは、取られなかったのですかね?いくら獣人族でも、野菜を取る事はありますよ」

「それが、そういったサバイバル知識が疎いものが多かったからな…ある程度の野菜は、亜人同士での交流による賞金稼ぎ等の仕事をし、仕入れたお金で購入をしていたのだが…何せ高いからなぁ」

「…もしかして、ドワーフ族から購入してましたか?」

「そうであるが?」

「あいつ等、ぼったくりして来ますよ」

「やっぱりか…」


カールさんはそんな感じを言いながら、遠い目をしていた。

…あの様子からすると、相当やられているな。


と言う事で、久々に俺も加わって朝食作りを手伝っていた。


この辺りにも羽鳥も生息はしていたので、今回は狩り組が結構の数を狩猟してたので、前回の干し肉分を全部使うことにした。

その上で、野菜を大まかに刻んで、干し肉の塩分に合わせる様に香辛料を加えて味付けをした。


他にも、先日の渓流地帯の川に生息していた魚類や甲殻類の生物も調理しながら、おかずを増やしてやった。


その時に、フェイシャが慌てて走ってきて、手に持っていた麦藁を束ねた物体に震えながら答えてきた


「キ、キンジさん!?この中に入っていた大豆が…!糸を引いて…!?」

「あー、納豆が完成したか。それ、頂戴」


早速、俺はフェイシャが持っていた納豆を取って、一口食べてみた。

うん、良い具合に醗酵していて美味い。


だが、その瞬間、納豆を食った俺の姿を見たフェイシャは驚愕したまま気絶して、そのまま倒れてしまった。

…ダークエルフでも、納豆は駄目なんだな。


「何食ってるんだ?錦治」

「納豆出来たんだが、食べるか?冴子」

「あっ、食べる食べる♪いやぁ、やっと納豆が出来たんだ」

「んー、もうちょい醗酵させてもいいかも。たぶん、他に在庫あるから、持って行ってもいいぞ」


とまぁ、そんな感じで朝食の準備をしていった。

ちなみに、直子に頼んで作った試作醤油も出来上がっていたので、丁度良い具合であった。



「久々に充実した朝食であったが…」

「やはり、米国人には納豆はきつかったか」


あの後、元日本人の亜人達からは大喝采だった納豆であったが、流石に現地人と英雄人狼の元米国人からは大不評であった。


美味しいのに…


「と言うより…腐ってますよね?それ」

「醗酵と腐敗は一緒であるんだがな。要は食って当たらなければ良いんだよ」

「流石は日本人だな…入国した際によく醤油と味噌の臭いが充満するぐらいだ」


カールさんの一言に、ある意味納得した。

というより、ここだけの話であるが…欧米人の場合はバターの臭いがキツイ…。




食事も終えて、二個の団体を持って王都へ目指す事にした。

流石に、竜車の走行ペースは戦車と比べたら遅いもので、五両の戦車は竜車の速度に合せて走行して貰っている。


その走行速度の故に、竜車内でカールさんとギルバードさん等の軍人達による王都への戦闘の際による作戦の最終確認を取っていた。

無論、俺と創生魔法の使い手による主力面子を交えた形で。



「なるほど…騎士の数はそれほどでもないと?」

「ああ。だが、王都防衛用の親衛隊である近衛騎士は、通常の100人分との戦力があると断言できる」

「確かに、ギルバート殿の事は分かるな。我らは兵器の扱いは長けていても、魔法に関しては疎い。況してや、錦治達が言う創生魔法に長けてる者が少なく、使えるのが私とヘルガを除いて、ほんの二、三人しか居ないのだ」


やはり、創生魔法が使える者はそう多くは無い。

先日の水鳥の国葬扱いにした理由は、恐らくは創生魔法使い手の魔物だということから、魔王軍からしても数少ない貴重な人材であったのだろう。

ゆえに、大部隊を率いる武将に格上げされたところで戦死となれば、扱いには丁重にならざるを得ない。


そう考えるならば、カールさんとヘルガさんの創生魔法使い手が限られるなら、俺達の五人の創生魔法使い手は大いなる戦力となるだろうな…

俺はそう考えながら、部隊の前線に出る面子を考えていた…


「それにしても…卿達の所もまた、女性が多いのが難点であるな」

「それは…俺にもよく分かりませんよ。元々が女子率の高い学校であったから、俺達学生組の連中に女生徒の比率が高いのが分かりますが…それはカールさんの部隊も同じではないですかね?」

「いや、そうでもない。私の部隊は、二年前にこの世界に飛ばされてきた際には100人以上であったが、その時の男女比率は男が多かった。だが…」

「だが?」


そう言いながら、カールさんは深い溜息をして外を眺めてた。


「この世界での男は余り長くは生きれない。寿命ではなく、激しい戦闘によって命を落とす事が多い。その上、性欲などの欲望に抑えが効かなく成り、悪魔達に心を奪われて虜になる者や、野生の獣の如くに襲って多種族の雌の番となる事が多いのだ」

「つまりは、男は理性を失って人間性が消えた人間になってしまう事が多いと?」

「そう言うことだ。況しては、私の部隊の多くは人狼などの獣人族。生物的生存本能が強く出やすいのだ」

「…脱走したものが多いと?」

「いや、脱走者は極僅かだが、大半は自分の女を守る為に、玉砕した部下が多いのだ。特に、愛宕陣あたごじんとぶつかって死んだ者が多かったからな」


やはり、愛宕陣の天狗とは相容れられないのだろう。

天狗といえば、仏教で言うなら魔王に属する高次元の魔族もしくは亜人怪物族…

その上で独立的な組織を持っている天狗としては、魔王軍などに属する事には、プライドとして許さないだろう。

その上に、近代武装をしてるとなれば、脅威とならざるを得ないな。

…そういえば、気になった事があった。


「男達の事には理解しましたが…今思いついた事がありまして、武装の補給とかどうなっておりますか?特に、戦車の燃料や大型の弾薬の補給とか、アレはこの世界では手に入りにくい代物です」

「あっ、それ。私も気になっていた。私達が異世界に来た時は、スマホや携帯の電子機器が全部使えなくなってたんだし、電子機器の多い戦車もあったんじゃ?」


冴子の指摘通りに、いくら野戦環境に強いとされる米国産の戦車でも、異世界に転送された際に何らかのトラブルを受けているはず。

実際に、俺達のマイクロバスすらもエンジンが動かずに壊れてしまったからな。


「その謎については、私の創生に関わっているかもしれないな。卿の指摘する、補給に関する回答は…これだ」


そういって、カールさんは詠唱無しに創生を発動させ、空の薬莢を翳していたその時、空だった薬莢が再生をして元の未使用の弾丸へと変貌した。


「詠唱も無しで創生…とは」

「私にも詠唱言葉を持っているのだが、それとは別に段階を下げて魔法じゃない創生の力を借りて復元したに過ぎない。これを利用する事で、使い捨てであった無反動砲などの重火器すらも再び使用する事が出来た」

「へぇ…俺達も真似すれば出来るかもしれないな」

「ていうか、私の風刃ウィンドカッターが、今のカールさんみたいな創生の力で放っているけど、皆気付いてないんだよねぇ。錦治っち」

「そうだったのか…他の皆も、そんな兆候はないか?」


俺のその言葉に、美恵、良子、フェイシャの三人も思い当たる所を思い出して、答えてきた。


「私の場合は、黒い影を使って弾丸のように飛ばす事が出来ますわ」

「そうねぇ…私の場合は、最近鍛冶で使う炎が威力を増していた気がするわ」

「僕の場合は、火の小鳥を飛ばして偵察など出来るかな…?」


やはり、兆候は見られていたな…

その内、最初に使用した創生魔法も意とも簡単に出せる様にはなるだろうし、何よりも国塚が言っていた”次の段階”の創生魔法が使える様になるだろう。

あとで、俺も試しに創生魔法無しでの創生の力を出来るかどうか試しておこう。


「良いなぁ…錦治を含めてそんな力があって…私は未だに結界を張るぐらいの力しかないのに…」

「冴子さん、それを言うなら私も同じですよ。皆と同じく活躍したいのに…」

「あっ、ごめん加奈子。でもさぁ、加奈子の回復魔法、皆感謝してるんだぜ」

「フォローありがとう、冴子さん。…私も、思いや信念、欲望等になる渇望があればいいのに…」

「そうだな…私もいい加減そんなものが湧き出ればいいのに…」


冴子と加奈子の二人がぼやくのを、俺は口を出してきた。


「二人とも、焦らなくて良いぞ。むしろ、俺達にはこんな力は持たなくても、生きて来れたじゃないか。たまたま渇望を具現化してしまった俺達であるが、普段はこんなもの無くても良いんじゃないかと思ってもいる」

「錦治…」

「錦治君…」


そんな俺の言葉に、カールさんは軽く拍手を二、三回叩いて、俺の方へと顔を向けてきた。


「本当、珍しい若者だ。普通ならば、こんな力を持っていると分かったならば平気で使用するのが人間であるからな」

「カールさん、俺は…」

「分かっている。卿は従来通りの”人間”として生きたい。その気持ちは私も理解出来る。無論、私達も元の人間となって前に居た世界に戻る事は出来ん。仮に戻ったとしても、この世界で手に入れた力など持っていたら…それこそ、国に利用されかねないからな」


その言葉に、俺達は身に染みていた。

こんな魔法も奇跡も無い元の世界からすれば、たちまち実験材料にされるか…

もしくは、名ばかり軍人として駒として潰されるかのどちらかだ。

それだけ、人間の底知れない欲が集中している国としての行動だろう。


「まぁ、私と卿の場合はこんな考えであるが…問題は連中にあるな」

「ええ。間違いなく、西園寺が創生を持ったならば、世界の覇者を狙いますね。魔王軍もまた、創生持ちの転生組の生徒や大人を集めて、この世界を征服後は元の世界への侵攻も画策するでしょうね」

「だな。まぁ、それを実現しようとしていたのが…あの愛宕陣であるからな」

「本当、警戒せねばな…」


そう言って、俺は竜車の外に見える景色を見て、目的地に辿り着いた事を知り、戦闘準備を始めようとした。

だが…


「キンジ…待ってくれ!王都が…燃えている…」


目の前の王都が、激しい戦火によって城下町が炎に包まれ、立派な王城もまた、建物全体に火の海で包まれていた。





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