第48話 阿頼耶識
次に意識を感じた時、私は妙な世界が見えた…
なんていうか…幾つもの光があって、なんだか落ち着くような…
かと言って、天国や地獄といった死後の世界とはちょっと違うような…
そう、夢の世界に来たような気分だった。
”ここは…?”
声を出そうにも、何故か声として出ず、頭に響くような…そうだ、言うならば、テレパシーみたいな感じに直接頭に響くものだ。
そう思った瞬間、頬が引っ張られるような痛みがきた。
”いたたたたたたたっ!?”
”漸くお目覚めか、馬鹿たれ”
痛みの余りに引っ張った奴を見たら…錦治であった。
しかも、今の人間とトロールを混ぜた姿ではなく、元の人間に近い形で。
ただ、裸…といっても、殆ど幽霊みたいな形であるため、丸見えではなかった。
”き、錦治!?ここは一体なんだよ!!”
”ん…?ここか。ここは
”つまり…夢の世界という事?”
”半分は正解。もう半分は…心の世界という事か。それにしても…”
”な、なんだよ…”
”やっぱり、元の時からお前は可愛いな…”
”なっ!?あっ、そっか。私も一時的に戻ってるか…って、大きなお世話だ!”
…今も昔も可愛いと、遠回しにアイツにいわれてしまって、ついカッとなって言ってしまった。
”まぁ、それとは別に…ありがとうな、冴子。あのままだったら、俺は大馬鹿として命を散らしていた”
”それはこっちの台詞だ。…何時もお前は汚れ役を引き受けすぎなんだよ”
”そうかもな…お前の心から聞いていたが、やっぱり気付いていたか”
”当たり前だ。三年飛んで、私はお前の10年も幼馴染をやっているんだ”
”そうだな…まぁ、知っての通り、元の世界ではお前達を面白半分に穢そうと、西園寺と取り巻きの奴らが金で使って雇った奴らが少なからず居たからな”
”…だからか、お前が不殺が出来ないのは”
”ああ。俺は…蓮以上に人を殺してる。あいつも、一人か二人は殺しているが、俺は少なくとも10人は殺してる”
”だから言っただろ…お前は背負いすぎてるんだって”
”だな。だから、俺の内なる渇望は…俺自身を裁きたかったかもしれないな”
そんな錦治の一言に、私は抱きしめてやった。
大体気付いていたが…こいつは他人以上に自分に厳しすぎる。
最初から家族に見放されていた私と違い、元から親から相手にされてない。
認めて貰いたくても、甘えられる相手がいないんだと。
その上に、あの父親の一族の非道も見せられた上に、爺さんの代から続く殺しも知ってしまえば、後戻りが出来ない状態だと。
ならば…これからは私がずっと見守ってあげなければ…
そう、私の…錦治達が言う渇望として表すならば…
”何時までも傍にいてやる。お前がどんなに汚れようとも、私は傍にいて癒し、抱きしめてやる…永遠に”
”…ははっ。全く、俺は鈍感だな。こんな良い女が、傍に居た事に”
”全くだ。…泣かせた分は愛せよ”
”善処はする。ただ、お前ばかりだと、あいつ等が嘆くからな”
”それはそれでいい。ただ、お前の魂との絆は私だけのものだ。知らなかったのか?私って嫉妬深いんだよ”
”ああ。あの糞お袋よりもずっとマシな、本当の女らしい感情だ。…ずっと傍に居ろよ”
”ああ…”
そんな感じで、意識体の二人で寄り添っていたら…別の声が聞こえてきた。
”妬けるわねぇ…20年前の私もそんな恋がしたいわ”
”…そういえば、ここって神様も乱入できたっけ?”
”しかも、神に直接物申しが言えるぞ”
”そう言うこと。…んで、あんた達がやっと揃った所で言うけど、今回の件にて私から言わせるなら…ちょっと拙い事になったわ”
”というと?”
私がそういうや、神の奴がコホンと咳をして答えてきた。
”祟り神。そこの男を黄泉の瘴気を流し込んだ奴が…悔しいけど、私の上の奴、もしくは外道の奴が居て、あんたを介してちょっかい掛けてきたわ”
”やっぱりか。どう考えても、あれは今の俺には扱え切れんものだ”
”そっ。しかも、よりによって八つの厄神をあんたの中で具現するとはねぇ…。ぶっちゃけると、あんた。このままだと一年足らずで死ぬわ”
”そうか…”
”ちょっと待って!どうにかならんのか!?”
”待ちなさい。そこで、私から取引だけど…あんたが中のそいつ等を制御する。代わりに、私があんた達二人に全身全霊を掛けて不老不死のおまけを与える。どう?破格の条件でしょ?”
”つまり、俺達は中に居る
”化け物と言うのは酷くない?一種の神様にしちゃうというのよ。まぁ、これは元から計画していた事だけどね…あんた達二人は、はっきり言えば元から創生の力が強すぎて、神格化しちゃうぐらいにあったからね。かといって、俗世の方が好き勝手にやる方がいいでしょ?”
”ぐっ…確かに…”
”否定はしないな…”
確かに、この神がいう様に私と錦治は管理は苦手だ。
何よりも好き勝手生きるのが性分だし、今更管理職に就けと言われても、はいと言えないしな…
”…少なくとも、事故で死ぬとかはないんだろうな?”
”うん。ただ、要注意しなきゃあいけないのが…あんた達二人は、どんな時でも二人でいなきゃあいけない。決して一人にならない様に”
”離れ離れになるなということか?”
”そう。あんた達はもはや、対の存在、昔の人から言うなら太極の陰と陽かな。光と闇が常に回り続けなければならない。じゃないと…あんた達の…そこの男は底なしの闇に飲み込まれるよ。気をつけてね”
”お前に言われなくてもな…”
”あっそ。それじゃあ、最後の大出血サービスよ。受け取りなさい”
そう言って、神の奴は私達二人に向かって強い光を掛けてきた。
その瞬間、意識が飛んでいった…
”今度直接会う時は、魔王と勇者の決戦の地かもね…”
最後にそう聞こえたが、意識がぶっつりと途絶えてしまった…
次に目を醒ましたのは…石造りである豪華だった部屋のベッドの上であった。
「ん…?ここは…?」
私はそう言いながら、キョロキョロと見渡してみた。
…建物にひび割れが無数有るものの、頑丈なつくりをしていた為か、崩壊は免れていた。
「姉御!目が覚めたんだ!!」
部屋の中に入ってきた直子は、私を抱きしめてきた…
「直子…。ここは何処なんだ?」
「王城の廃墟ですよ。よかったぁ…」
「そっか…あの後気絶したんだ…どれくらい眠っていた?」
「丸一日は寝てましたよ、姉御」
アレから一日か…どうやら、相当やばかったみたいだな。
それよりも…
「錦治は何処に居るんだ?」
「あそこで寝てます」
直子が指差した隣には、錦治が寝ていて、フェイシャが看病をしていたようだ。
ただ、既に起きていたらしい。
「…漸く起きたか。寝ぼすけが」
「うっせ。でも、良かった…」
「だな…」
そう言って、錦治と私は起き上がり、お互い向かい合った。
「改めて…ありがとうな。冴子」
「どうしたしまして、旦那様」
私はそう言いながら、錦治を抱きしめてやった…
その後は、直子とフェイシャから詳しい経緯を聞いていったら…
あの厄神の一撃で半分も失ったならば、当分は動けないだろうな。
その上、
次に
こいつ等は健在のまま、何事もなく風来坊の様に消えていったそうだ。
しかも、去り際に蓮の頭を撫でて「この二人を無闇に足を突っ込ませるな」とか余裕ありすぎだろ…
だが、当の蓮も、八雷に最後まで怯まなかった鬼の頭領に恐怖をしていたから、何も出来なかったのは致し方ないだろう。
最後に、
私が覚醒して錦治の中にある黄泉の気を払った事には何も無い様子であったが…
フェイシャが錦治を支えていた時に国塚がやってきたそうだ。
「大事にしてくださいな。私の愛する
あの女は、本気で警戒をしておかねばな…
一方、西園寺が率いる”光の改革”の連中は、全員帝国の残存部隊に回収され、撤退していったそうだ…
…まぁ、あいつの事だから、復讐心を燃やしながら世界中駆け巡るだろう。
自分達を屈辱に追い込んだ愛宕陣を探しながらな…
魔王軍もまた、生き残った連中を引き連れて撤退したらしい。
まぁ、あんだけボロクソにやられたなら、当分は恐怖で襲ってこないだろう。
自分達よりも恐ろしい祟り神など、相手にしたくは無い。
して…旅団と
「当分は、このお城と城下町にて復興に手伝うとの事らしいです」
「そうだな…あれだけの被害が出たんだし…」
「何よりも、ギルバートさんが剣を捧げていた国王が亡くなったからな」
本格的に崩壊してしまった国の再建の手伝いをすることにしたらしい。
特に、村人達や直幸達の学生組、あと次郎さん達やデュミエール達も亜人側も、崩壊した国の惨状を見て、手伝う事に意欲を見せていた。
むしろ、あのドワーフの長の言いだしっぺによる各地から援軍で来た他の原生亜人族が部族を率いて王都に到着した際、王都の惨状に見て復興を手伝うほど悲惨なものだったらしい。
その上、国王の血縁者である王女が亜人化の呪いに寄って幽閉されてた事も、王城の崩壊して出来た空洞の先にある牢で軟禁されてた事もあり、国の騎士であるギルバートさんが王女を王代理として復権をすると宣言したまでだから、仕方ないしね…
ちなみに、王城の地下とかには帝国からの怪しげな実験の技術なども見つかり、その奥には犠牲となった人間や亜人達の骨も見つかっており、錦治が言う嫌な予感も当たっていたのだ。
ただ、それも一部の貴族や、つるんでいた魔術教団が関わっていたという事が判明した為、ギルバートさんは一度亜人と人間混合の騎士団を編成し、非道を行なっていた貴族一派と魔術教団を捕獲に乗り出すようだ。
そんな話を結構長く聞いていて、纏めた所で…
「直子。ちょっと、錦治と二人っきりで話し合いたいから、フェイシャと共に部屋の外で待機してくれないか?」
「ふぇ?キンジさんと?」
「姉御と二人きりなんですか?」
「そっ。…ちょっと、今後の事で話したいからね。特に創生での」
「あっ…そうだね。フェイシャ、ちょっと外に出るよ」
「ああ、待ってくださいー…」
直子は若干抵抗するフェイシャに服を引っ張って一緒に出て行ってくれた。
そして、改めて二人っきりなった私と錦治は向かい合った。
「…あの事か」
「うん。…お互い、目を瞑ってみようか?」
「そうだな…」
その言葉と同時に、私と錦治は目を瞑り、ステータスを見てみた。
…根本的差異は変わっては無かったが、スキル欄にあの文字があった。
”不老不死”
あの神の言う通り、私は不老不死になったようだ。
そして…
「確かに、あの神の言う通りに貰ったようだな…冴子」
「うん。あっ、口に出さなくて良いからな。聞き耳立てられると辛いし」
「だな。…冴子。分かっているよな?」
「ああ…”私らは、別の時間に進む事になったんだ”」
「そうだ。意味は分かるよな?」
「ああ。何時か訪れる結末を、私らは見届け続けなければならない」
「そうだ。…これからは、辛くなるぞ」
「馬鹿野郎…覚悟は出来てたさ。それよりも…」
そう言いながら、私は錦治を抱きしめながら擦り寄った。
「お前が居なくなる方が怖いんだよ…お前と共に永遠に生きたんだから」
「…他の奴の別れ悲しみの際に、喧嘩するならば笑い泣きながら殴り合おうか」
「それも良いな。どうせ、物凄く長い時間になりそうだし…」
「頼むぞ…相棒」
「任せてよ…相棒」
そう言って、お互い見つめあった後…男女としてのキスをした…
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