第49話 復帰後の日常、八雷の柝

アレから一ヶ月が経過…

傷と魔力が順調に回復してから、体を動かしてリハビリも終えた事で、本格的に鍛え直す事にした。

やはり、体力が高くても、魔力の回復には時間が掛かるものだ。

その間に居候という訳でもないが…この復興したての王城にお世話になってた。


…というよりも、ギルバートさんの提案で、王都に在住していた人間の残りを、亜人にしてくれとの懇願も相まっていたからな。


まぁ、実際にあの時の王都の現状では、人間では住みにくい位に環境が悪化していたしな…


それに加えて、軟禁生活をしてた王女様…現女王様に対する教育も施して欲しいとの事もあったが…



「うぅ~キンジぃ~…これ、難しいですぅ~…」

「女王となるべきお方が、読み書きが出来ないとはどういうことですか…」


うん。俺達学生組以上に読み書きが出来ないとは…

大体のこの世界での文字は翻訳補正があるとはいえ、英語に近い物であった上で英語もとい外国語関係で強い美恵に任せた所、美恵が眉をしかめる位に赤点台をギリギリで渡り歩くほど、お馬鹿であったのだ…


まぁ、逆に本気の美恵がこの国の母国語で喋った時、ギルバートさんから…

「彼女、本当はこの国の出身ではないのかね…?」と言われる位に、ベラベラと喋るほどであったから、その美恵が眉をしかめるとなると…な。


そんなわけで、誰でも分かる程度の問題集を学生組の皆で協力して作り、王女に渡して解いて貰う様にして置いた。

…こう考えると、内の進学校は教育が偏っているんだな。


そんな事を考えながら、この国にある魔導書から元の世界にある五行の本等を、読みながら王女の経過を観察していた。


…無論、隣には冴子も座って読みながら。


「…飽きないか?」

「一緒に居たら飽きないな」

「そうか。ただ、未成年の子どもが居るんだから、イチャツキは無しだぞ」

「分かってるよ」


本当、アレからずっと寄り添うようになったな…

と思っていたら、王女が俺に引っ付いてきてきた。

というより、低身長の割りにデカイ胸を引っ付けないで欲しいものだが。



「イチャつくなら私も混ぜたもれ♪」

「冴子」

「あいよ」


俺と冴子は言葉短くして、冴子が悪戯してくる王女のこめかみをぐりぐりと当てて、お仕置きをしてやった。



まさか、亜人族の中でもアンデッド族であるヴァンパイアと人間のハーフであるダンピールになっていたとはいえ、年齢に似合わない体を持つとは…

おかげ様で、亜人種限定で魅了属性を持つ俺に惚れてくるのだけは止めたいわ。


「痛いですぅ~!私はキンジと添い遂げたいですぅ~!!」

「じゃかしい!!10年速いわ!!」

「むしろ、帝王学をみっちりと叩き込むまでは、絶対に無いからな」

「そんなぁ~!?」


冴子のグリグリ攻撃にヒンヒン泣いている王女であるが…

正直、この魅了現象に如何にかしたい所なんだよな…


「むぅ~…キンジ、何故そこまで頑ななんですか?」

「…こう見えても、節操を弁えてる身である。王女よ。仮にも貴方は国を頭へとなる身分の者が、流れ者である自分の血を入れたいなどと正気ですかね?」

「うぅ~…私生児である私が、王家を継ぐなど考えてませんでしたので…」

「私生児でも、直系の一族が居なくなれば継ぐのは当然である。大体、そんなんだから幽閉生活でも自堕落する始末であり…」

「うぁ~…またキンジの説教が始まるよぅ~…助けてぇ~サエコ~…」

「諦めろ。錦治の説教は私でも止められん」



一度火が点いた俺の説教癖が止まらず、約一時間ほど王女への説教をしていた。

…あとでギルバートさんからの指摘にて気付いたのだが、俺の説教は結構長いと言われていた。






結局、何とか本日の勉強会も終えて、王女を自由にしてやった所で、今度は別の部屋で勉学をしていた学生組の所へとやって来た。

丁度、次郎さんと花子さんも同じく魔導書などの読み解きをしていた所であり、俺と冴子も混ざる事にした。


「それにしてもよぅ…錦治」

「なんだ?直幸」


俺が進めた語学の本を読んでげっそりとなってた直幸が、やつれた目でこっちを見て答えてきた。


「お前らE組さぁ…本当は成績が良かったじゃないか?」

「ああ。あれか…一応、定期試験の問題はこっちにも流れてきたが…殆どは採点されずに放置されていたからな。元々が赤点を晒して恥をかかせたいらしかったみたいだが…」

「毎度ながら良い点数をたたき出していたから、隠していたと?」

「そうなるな。ああ、でも…俺達の不得意科目で赤点取った奴だけは採用してたらしいからな…」

「そっか。お前達なりに努力はしていたんだな」

「当たり前だ。…本来だったら、あの修学旅行が終って卒業したら、六人全員で会社でも立ち上げて、面白おかしく生きていこうかと考えていた所だったから」

「そこまで考えていたのかよ…」


俺のその言葉に、直幸と江崎姉妹、上島と上村は驚いて感心していた…

まぁ、これに蓮を加えても考えていたからな…


「それが、いつの間にか二ヶ月も経過した上に、もう一度勉強し直しだからね。兄さん」

「そうだな。だが、学ぶというのは悪い事じゃないからな。人生は色々と学び、そこから成長をすればいいんだからな」

「そう言う所が、錦治君の良さでもあるのよね…」


そう言いながら、良子は読んでいた本を閉じて俺の所に寄って来た。


「どうした?良子」

「…本当に、生きてるよね?」

「俺がアンデッドでも言いたいのか?」

「正直、不安なのよ…あんなのを見せられた後は…」


その言葉に、加奈子、美恵、直子の三人も同意していた。

八雷やくさのいかずちを含め、俺の創生にある死に関する事に、恐怖を持ってたのは仕方ないかもしれん。

ただ、冴子だけは反応が違っていた。


「大丈夫。錦治はその辺の事は弁えている。私が保証するから…」

「姉御…」

「冴子さん…」


一方も冴子も、他の四人からは創生に関して若干警戒されていた。

俺が死を運ぶ闇ならば、冴子のは闇を払う光の生。

だが、同時に光で闇を魂ごと焼き尽くす物になる。

どっちにしても、今の俺達二人の創生は、他の者からすれば手に余るものだ。


こればっかりは、仕方なかった…


そんな不安がる良子を、俺と冴子は良子の頭を撫でてやった。


「安心しろ。私らの創生魔法は簡単には使わない。だから、そう警戒するな」

「ああ。…今のところ、アレを御せるまでは早々に使わない」

「二人共…分かったわ」


そういって、良子も不安な顔を消し、皆の輪の中に戻っていった。

それと同時に、直子の子であるあかりが泣き出して来た。


「おっと、いけないいけない…ご飯の時間かな」

「そっか。大分慣れてきたわね、直子ちゃん」

「うん。泣き声一つで何を要求してきたか分かってきたかな。…加奈っちも、そろそろ臨月なんだから、体に気をつけてね」

「うん、そうだね…」


そう言って、加奈子もお腹を擦っていた…

やはり、ゴブリン族の次に妊娠期間の短いオーク族であって、加奈子のお腹も随分と成長し、あと数日すれば生れる感じだ。

その一方、花子さんにも臨月傾向も見られて、やっと二人目が出来てて嬉しくなっていたそうだ。

…その点を考えると、次郎さんも毎日頑張っていたんだな。


「オークの二人が同時に臨月オメデタね。羨ましいな…」

「冴子ちゃん…」

「花子さん、今度の子は大事に守ってくださいね」

「うん…分かったわ」


花子さんも、冴子の体の障害を知ってからは、子どもに関しては気遣ってくれていた。

無論、江崎達四姉妹や上島もその辺に関しては気を使ってくれてはいたが…

俺としてはそうしなくても良いかなと思っている。

逆に気遣えば気遣うほど、冴子も同情されたと思って気を重くしてしまうしな。

そんな冴子を、俺は後ろから抱きしめて、頭を撫でてやった。


「そんなに考え込むな。お前はお前なりにしていれば良い」

「錦治…そうだな」


そう言って冴子を撫でていたら、残りの四人に加えて蓮、そしてさり気に入って来たフェイシャも加わって撫でて来いとしてきた。


「お前らぁ…!?」

「その前に蓮、お前はシャルトーゼが居るだろ!!」

「シャルはシャル!兄さんは兄さんだから!!」

「意味が分からんぞ!?」


そんな感じで、集団イチャイチャに発展してしまったのを期に、直幸達は勿論、上島と上村、果てには次郎さん達までもがイチャイチャし始めてしまった。


…やはり、場所を弁えるか。

そして、どさくさに紛れて俺に抱きつこうとしてきた王女を、女子七人によって引き摺られていった…


ギルバートさんに、彼女のお見合い話でもさせる相談でもしようか。




そんな勉強会も中断してしまったので、午後は冴子と二人っきりになって…

例の創生の力を操ってみようと思い、草原に出ていた。


「それじゃあ、冴子。早速だが…あれの一体を出してみるぞ」

「うん、分かった…」


そう言って、俺は早速奴らの一体を呼び出そうとしてみた…



「”御出でませ…柝雷さくいかづち”」


詠唱の言葉無しで、俺は自身の魔力を胎動させて、八雷やくさのいかづちの一体である、柝雷厄神を将来してみる事にし、黒い雷を腕に纏わせて放ってみた。


…快晴だった空は一転し、辺り一体を黒い雲に覆われて、黒い雷鳴が俺に直撃、それと同時に黒い雷光が魔力と共に飛び出し、女装した小さな少年が現れた。




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