第51話 王女の気持ち

――王国・王女クラリッサの手記。


幽閉生活の身でありながら、割と自堕落に優雅に暮してはいたのは自負するが、あの王都崩壊の日からは、私は再教育を施されていた。

そもそも、悪魔国からの密偵として使用人でやって来た、ヴァンパイアの母上を誑かして手玉にした父上も相当な者であるが、まさか避妊をし忘れて私を産んで祖国に逃亡するとは思っても居なかった。


むしろ、それが正解なのは知っていた。

この国では、人間こそが至上とされる人間至上主義の王国。

いくら亜人に関して寛容な父上でも、王国の貴族や民は許さなかった。

父上は生まれた我が子を信用おける侍女に世話係を任せる事にし、私を幽閉する事を成し遂げて、国の人間達の信頼を回復させた。

しかし、私を嫌っていたわけでもなく、貴族達の目を盗んでは定期的に会いに、檻越しで私と話しかけてくれたのは嬉しかった。


ただ、貴族達だけは私を疎んでおり、父上に政略結婚を持ちかけては子を作らせ、私の事を忘れさせて忘却させようとしていた。

それだけでは飽き足らず、人間の民は愚か、他の亜人族の村を襲い、亜人狩りを行なっていた上に、魔術教団と組んで傀儡実験等をやっていた。

無論、私にも行なおうとしていたみたいだが、高ランクの魔物である、吸血鬼の魔力の前には無力であったみたいで、奴らは何時も諦めた顔で私を蔑視しながら逃げていった。


そんな事を繰り返しの日々であったが、外では今年も異世界から転送されてきた人間達が来訪してきた為、今年も波瀾な出来事が起きるだろうと思っていた。


それが、父上や付きまとっていた貴族達が亡き者にされた上に、城までも破壊をされちゃうとはね…


その上、本当の妾の子であった兄や弟達も全滅し、幽閉されていた私だけが残り、他の生存者は全員亜人になるとはね。

ただ、その時の外の破壊尽くされた光景と、雄雄しく戦うあの方…キンジの勇士には、心から心酔してしまった。

本人は魅了による錯覚といっていたが、私としては父上以上に惚れてしまうほど勇ましいお方だと心酔してしまった。


そして、あのお方は…厄災と呼ぶべき魔王以上の強さを持つ、異界の化け物達を自らの命を削って、厄神と呼ぶあの神達を呼んだ…


ただ、その後は命を回復したと言っていたが、私には分かっていた…

同じ不老不死の力持つダンピールの血を引く私だから分かる。

あの方達は、あの厄神を御する為に、この真の裏側を知る為に、神が不老不死にさせられたと…


ならば、私は…あの方達を為にも血を受け入れたい…

なのに…あの方は頑なであり…そして…



――――――




深い溜息をした後、私は手記を止め…あの草原にいるキンジとサエコ達を見て、もう一度深い溜息をした。


…分かっている。

あの草原で厄神様を呼び出して稽古をつけて貰っている様だけど、私はおろか…

恐らくは帝国の勇者でも無理だと。


あれは、人外魔境。

酷く言えば、魔神の領域だ。


だけど、あの方達は、抗って見せてる…

だからこそ、私は…あのお方達の為にも添い遂げたい…

ギルバートからに進言して許可を貰って居るのだが、中々実現出来ない者だ…





―――――――――――――――――――――――――――――――――




王都から、あの王女の眼差しを感じ取れた俺は、一瞬身震いをしてしまった。

その瞬間、さくから放たれた神通力をもろに喰らい、胸部をひしゃげてしまい、

一回死んでしまった。


「何やってるんだよ!錦治!!」

「すまん。気が緩んでしまった」


死んだのにも拘らず、不老不死の特性で蘇生した俺は、胸から煙を上げても体を起こしながら、体制を整えなおした。

だけど、柝から手を拍手を二回叩かれて、強制的に終了させられた。


「流石にそんな致命傷を受けて蘇生したてでは、まともな修業は出来ません。本日はここで終わりです。父様」

「むぅ…」

「あと…私から言わせるならば、あの王女様とは添い遂げても宜しいのでは?」


柝までも進められてしまうとは…

流石にあれなので、反論をしようとするのだが…


「なぁ、錦治…お前は、あのお姫さんの気遣っているつもりだが…あれ、お前の魅了を効いてるそぶりはなく、本心で惚れてるみたいなんだよ。女の感を持つ、私だから分かるんだよ」

「冴子…あのなぁ…」


改めて、俺は一回咳をして言い直した。


「確かに、答えてやるのは問題は無い。だが…」

「王族だからか?」

「それだ。それに、俺は…西園寺と同じ事をやるのは許せないんだよ」

「…各国のお姫さん。もしくは女王様を性的に襲った事にか?」

「そうだ。俺は…あんな畜生以下の性癖で女性と抱きたくは無い」

「そうか…父様は性悪を持つほどの心的外傷を負ってるのね」

「錦治…」

「それに、これ以上お前達を傷つけたくないんだよ。女タラシで傷を負わせる、あの糞親父や西園寺みたいな…」

「あいつ等は、あいつ等だ。私から言わせるなら…錦治。子どもを作ってやってくれないか…お前が好きだと言って来る奴等なら、私はお前が子を作るの許してやる…」

「本気で言ってるのか?冴子」


その俺の言葉に、冴子は静かに頷いた。

そして…


「言っただろ?例えお前が他の女を抱こうと、最後まで傍に居るのは、この私。…って」

「はぁ…後悔しても知らんからな」


そう言ってる間に、柝は俺の肩に手の平で叩いてきた。


「とりあえず、私は疲れたから中に戻りますね。父様。…後は宜しく」

「…ああ、お疲れ」


そう言って、柝は俺の中に融けて行き、元の魔力へと戻っていった。


「全く…世話が焼けるな」

「当分は続くよ。錦治」


そんな冴子を余所に、俺は王城へと帰還していった。







「あっ、おかえりなさい。錦治君」

「只今、加奈子。直子、美恵、良子も」

「順調のようだね、錦治っち」

「流石で御座いますね」

「それよりも…冴子、また防具をボロボロにしたわね?」

「悪ぃ…何時もの様に修繕してくれ」


そんな何時もの皆のやり取りの中、俺は後から来た蓮とフェイシャの肩を叩いて、奥へと進んでいった。


「…?兄さんどうしたんだろう?」

「喧嘩でもしました?サエコさん」

「いや、喧嘩はしてないよ。ちょっと、今からアイツは野暮用に入るからな…」





廊下を歩いていたら、ギルバートさんが歩いてきていた。


「おお、キンジか。今から頼みがあってな」

「なんでしょうか?ギルバートさん」

「王女の事だが…今日こそは『ええ、こちらから行きますよ』…はっ?」


即答で返した俺に、ギルバートさんを唖然とさせてしまうも、言葉を続けた。


「今夜、あの方と添い遂げさせて頂きます。新生騎士団長殿…」

「良かった…あのままでは、王女を分けの分からん貴族の玉の輿にさせる所であったからな…言っておくが、私は君を信用して頼んでいたからな」

「ええ。…身内から散々押されましたからね。ですが…」

「分かっている。君を束縛するつもりは無い。…むしろ、君はもうじき、旅に出るのであろう?」

「はい。無論、冴子と二人っきりです。二人で、考えたいのですから…」

「そうか…私は、何も出来なかったな。面倒事全てを、君達二人に押し付けてばかりだ」

「逆ですよ。俺達…いや、俺が面倒事を作ってしまった」

「いやいや…まぁ、本心から言わせるならば…君の力、御せる様になってから、帰ってきてくれ。出ないと…」


そう言いながら、ギルバートさんは震えながら俺を肩を触れてきた。

そりゃそうだ。あんな力、恐ろしいに決まっているだろう…


「俺と冴子の事は大丈夫です。むしろ、この力を持つ因果が知りたいのですし、これ以上迷惑をかけるつもりもないです」

「そうか…」

「それよりも、旅団の皆…生き残った学生と亜人達の皆を頼みます」

「ああ、責任持って預かろう。では…」


ギルバートさんの言葉を交わした俺は、王女の部屋へと向かおうとした。

だが、直に…


「言い忘れていた。英雄人狼ヴェオヴォルフのリーダー、カールも数日後にここを出るそうだ。一般兵の部下を置いて、お供の三人を引き連れてな…」

「そうですか…では…」

「ああ。彼が残した部隊の兵士も預かるよ…」


その言葉の後、お互い無言でそれぞれの目的地へと向かった…




そして、王女の部屋に入った俺は…


「あっ♪キンジではないか♪今日こそは添い遂げてもらうぞ♪」


そう言ってきた王女を、俺は優しく抱きしめてやって、軽い王女を抱っこしてそのままベッドに横たわらせ、俺は隣に座った。


「王女…いや、クラリッサ。今更であるが…今宵は貴方を抱かせて頂きます」

「…その言葉、待っておりました」


そう言って、王女はダンピールらしからぬ強い力で俺を己の所まで引き倒し、俺を抱きしめた。


「分かっているが、女の扱いには不慣れで御座いますゆえに…」

「それも分かっています。なので、私がリードします。知りませんでしたか?貴方が来てから、私なりに夜の勉強をさせて頂きました♪」

「どこまで益せてたんですか…」

「でも…初めてですので、優しくお願いします…」

「善処はします…」


そう言って、お互い蕩け合った…





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