第3話 若雷とハーピー達の保護戦

メルの案内の元、俺達は難民のハーピー達の集落に向かっていたが…


「やたら偵察が多いな…」

「あたい達ハーピーが見つかりにくい場所に拠点を構えてるからね。どうしても探したいんだよ。あいつ等…」


空には大量のレッサーデーモン達が飛んでおり、迂闊に飛行できないどころか、山道も歩く事もままならなかった。

むしろ、先ほど人間の冒険者数人が山道を歩いていたら、数人の悪魔に囲まれ、身ぐるみ一つも残らず剥がされ、惨殺されていた…


「なんとかならんか?錦治」

「そうだな…”御出でませ…柝雷さくいかづち”」


俺はさくを招来して、相談に乗る事にした。


「何ですか?父様…って、うわぁ…鬼達が飛んでる…」

「正確には、悪魔であるがな…柝、お前の力でどうにかできないか?」

「うーん…集団で纏まってないと神通力の効果は薄いし、あれは大物じゃないと厳しいからね…そうだ、一応、今の父様ならあの子なら大丈夫だ。頭を貸して」


そう言って、柝は俺の頭に手をかざし、何かの招来する詞を送り込んできた。


「よし、これならあの子を呼ぶ事が出来るようになったよ。あとは、父様に任せておくよ」

「…若雷わかいかづちか。最年少の子だな」

「そう。私の大事な妹の一人だからね。優しくしてやってくださいね」

「善処はする」


柝はそう告げた後は、元の魔力の塊に戻って俺の中に入っていった…


「すっげぇー…今の男の子、あたい以上の魔力が合った」

「あれでも、神様であるからな。どう?何か出来そうか?錦治」

「ああ。若雷を呼んで見る」


そう言いながら、俺は両腕から黒い雷鳴を出しながら招来を始めた…


「”御出でませ…若雷よ”」


軽く詠唱詞を終えた瞬間、暗雲に黒い雷と共に俺に向かい落ち、そこから魔力が飛び出して具現化していった。


そこには、忍び装束らしい和服を着た鬼の女の子が立っており、俺を見つめた。


「我を呼び出したのは貴様か…ん?ああ、父様かぁ」

「お前も父様と呼ぶか…始めまして、若雷」

「ええ。始めまして父様、若でございます。此度は柝雷兄様の命により、父様の手助けしろと受けましたので…」

「いきなり仕事となるが、いいのか?」

「ええ。もとより、私と柝兄様は父様の手伝いをしたくて、致し方ないと存じて降りましたゆえに…」

「そうか…兄妹揃って献身的であるな」

「全ては生のある世界へ連れ出してくれた父様のおかげで御座います…さて」


そう言いながら、若は空を徘徊する悪魔達を見て、観察をしていた…


「そこの鳥人の娘が曰く、この鬼達が鳥人を不必要に攫って殺生を行なっているとの事ですね」

「そうだ。まぁ、見ての通りに数が多くてな…」

「そうですね…では…黄泉の厄神が一柱、若雷の力をご覧あれ」


そう言いながら、若は悪魔達を一通り見終えた後、ニッコリと笑いながら…


「処す」


と呟いて、雷鳴が轟く黒い雷雲を操作し、空に飛んでいた悪魔達全員に雷を落し、谷底へ落していった。


「コレなら当分は起きて来れませんでしょう?」

「だな。といっても、手加減をしていたのだろ?」

「ええ。直接殺生を行なうのは私としては嫌っておりますが、事故で死んだ事となれば、何も問題は無いです」

「そうか…若は賢いな」


俺はそう言いながら、若の頭を撫でてやったら、「えへへ♪」と笑って返して、俺に抱きついてきた。


「それじゃあ、私は還るね。用があったら呼んでね、父様」

「ああ、ゆっくりお休み」


若は俺の言葉を聴き、抱きしめたまま俺の中へと消えていった…


「…甘えん坊な子だな」

「らしいな。だが、無邪気さながらの残酷さ…確りと覚えさせて貰ったよ」


そう言って冴子は俺の肩を叩いてきた。

…少し、ビビらせてしまったな。


「安心しろ。純粋な子は割りと話を聞いてくれる。それに、柝が大丈夫だと判断したんだ。アイツを信じてやれ」

「そうだな…あっ、メル。もういいぞ」


冴子の言葉に、物陰に隠れていたメルは俺達にビクビクしながら姿を出し、怯えながら俺達のところまでやってきた。


「こ、怖かった~…」

「無駄に怖がらせてしまったな。すまない」

「な、なんて言いますか…おっかない邪神様を召還しますね」

「邪神ではない。あれでも俺達が元いた異世界の国での冥府の神様だ。正しく、生きていた者には、優しく死後の世界を案内してくれる常世の神様だ」

「ふえぇ…あたいらハーピー族にある風の神様とは大違いだ。あたいらの神なら死後も自力で登らないといけないからな」

「そういう宗教観を持っているのか…機会があったら学ばせてもらおう。さて、援軍が来ないうちに、案内を頼もう」


俺がそう促すと、メルは気を取り直して、俺と冴子を案内再開させていった。






隠れ家と思わしき縦穴に辿り着いた俺達は、早速メルの先導の下で歩いて行き、奥の集落と思わしきハーピー達の巣へ辿り着いた。


「メル!無事だったの!?」

「ああ。ここにいるトロールとオーガの二人に助けられた」


仲間のハーピーの子達に抱きしめられたメルを余所に、俺達は長老と思わしきハーピーの老女の姿を見て、膝間付いた。


「此度のご訪問、真にご迷惑をお掛けした事にお詫びを申し上げます」

「顔を上げてくだされ、トロール殿。末孫である、メルを救ってくださって、ありがとうございます…おかげで、全員揃う事が出来ました」

「…これで全員で御座いますか」

「はい…あの悪魔族の住民どもが、点在していた集落の縦穴を襲撃して行き、若い子どもと卵を奪って行き、年老いた者達を剣で裂いて肉にされてしまい、あと少しで全滅をするところでした…」

「そうでしたか…」


俺達は長老ハーピーの話を聞き、現状をまとめていった…


曰く、奴ら悪魔国の悪魔族は、帝国の襲撃によって人口激減を補う為に、食料である人間亜人族を捕獲し、労働奴隷もしくは食肉奴隷として確保をしていた。

無論、王国は勿論のことで他の国に侵略してまで確保となると、長年培ってきた帝国以外の国々との不可侵条約に触れる恐れが発生するため、国境沿いに構える難民達や流れ者の冒険者、もしくははぐれ者の亜人族を目当てに襲撃をしてた。


これには、前の王国ならば黙認の事、他の国々もまた難民の処理に困っており、難民を極秘で片付ける機会として容認していたのだ。


そんな中、この山付近に難民集落拠点としていたハーピー族に目を付け、奴らはハーピー族狩りのついでに、鳥亜人家畜計画に乗り出したのだ。


「なるほどな…悪魔国も疲弊状態か」

「その上、同じ悪魔族でも、吸血鬼族が魔王軍及び悪魔国に独立を呼びかけたのです…無論、独立は失敗し、吸血鬼であるヴァンパイア族は難民となって各地に散ってしまい。数を減らしてしまったと聞きます」

「吸血鬼、ヴァンパイアね…今の新生王国なら、あの王女がダンピールだから、受け入れても良いかも知れないな」

「だな。ただ、ダンピールとヴァンパイアは仲が悪い。ダンピールは吸血鬼族を滅ぼせる種族でもあるからな」

「そっか。吸血鬼退治でもよく聞くな」

「まぁ、現状としては、メルを含めたここにいる難民ハーピー族の保護だ」

「お頼みします…この子達は私の氏族として、最後の希望でございます」


長老がそう言ってきた時、見張りの子が走って来た。


「敵襲よ!悪魔達が入り口の結界を破壊しようとしてるわ!!」


その言葉に、俺と冴子は入り口まで走っていった。






入り口付近まで辿り着いた俺達は、外には数十匹の悪魔族が飛び、中には、中堅クラスである中級悪魔のグレーターデーモンの姿が見えていた。


「アイツだ!部隊長殿、あのトロールです!!」

「よくも下等亜人の癖に、俺達悪魔族に歯向かったな!!」


そう言っていきり立つグレーターデーモンの様子を余所に、俺と冴子は前に出て、悪魔達を見ていた。


「ああ。確かに俺達がやった」

「舐めやがって!皆の者、やってしまえ!!」


グレーターデーモンの一声により、悪魔達が一斉に剣を構えて襲ってきた。

だが…


「本当、遅ぇんだよ!!」


冴子は叫んだ後、剣の柄を掴んだ後をすり抜けて、悪魔達をバラバラに切り刻みながら、返り血を浴びずにたっていた。


一方、俺は飛び込んて来た悪魔の頭を掴んで、別の方向から奇襲してきた悪魔の頭にぶつけ、そのまま両手で挟む形で二匹の悪魔を叩き潰した。


「うわぁ…相変わらずグロいな」

「だが、効率はいいだろ」

「言うなよ…他に無いのかよ」

「膝蹴りで顔面潰す。鷲掴みで潰す。あとは首元を掴んで捻り潰す」

「碌なのねぇな!おい!?」


そう叫ぶ冴子を余所に、俺は残りの雑魚悪魔を掃除する為に魔力を込めて行き、放っていった。


「”行け…馬車よガロッパーレ”」


美恵の創生魔法の応用した魔法弾を飛ばし、数十匹の悪魔達の八割ほど沈めて、其処が見えない谷へと叩き落していった。



「な、なんだ!?このトロールとオーガは!?」

「部隊長!!こいつらの分析した結果、限界突破しております!!」

「なんだと!?」


どうやら、悪魔達にも分析担当の奴が居て、俺達を分析魔法を使って調べ上げ、報告をしてきたらしい。


「小癪な!この俺の本性を見せてやる!!」


グレーターデーモンはそう叫びながら、体を膨張させて、まるで神話に出てくる悪魔そのもの風貌へと変化していった。


「”どうだ!これが俺様の本当の姿だ!!”」

「…冴子」

「あいよ。”…祓い流せ。迦具土かぐつち”」


冴子は短く詠唱を終えた後、剣を一瞬だけ引き抜いていった。

剣の一閃が走った瞬間、一直線の光線…つまりはレーザー上に真っ直ぐ進み、グレーターデーモンの頭以外を光の光線でかき消していった…


「ば、ばかな…」


そう言ったのを最後に、グレーターデーモンの頭は谷底へと消えていった…

残っていた三匹ほどの悪魔は、俺達の圧倒的な強さに太刀打ち出来ないと判断し、我先へと逃げていった…


「終ったな」

「ああ。やはり創生魔法を使わない戦闘は、あっけないものだな」

「そうだね…虚しいものだね」


冴子と交わした時、後ろから長老とメル達ハーピー達がぞろぞろと出てきた。


「終わったみたいですね…」

「ご迷惑をお掛けしましたが、もう安心です」

「いえ、お礼を言うならばこちらです。貴方方は…先日の王都にてかの勇者達や魔王軍との乱戦で現れて戦を鎮めたお方で御座いますね?」

「…ええ。確かに、俺達はあの先日の戦いにて亜人達を束ねて、勇者と魔王軍を戦った者で、『王』の素質を持つものです」


その瞬間、メル達は一斉に膝間付いて来た。


「数多くの無礼、お許しください!!」

「頭を上げてくれ…俺達は大した事をしていない」

「いいえ、私達を守り、救ってくださった。ありがとうございます…」

「ええ。…援軍が来る前に、皆行きましょう」


俺がそう言うと、皆が頷き、準備を開始しようとした時…


「あっ、良かったら…俺達も運んでくれないか?山下りるの結構苦労するから」


その瞬間、メル達若いハーピー達が一斉にすっ転んだ。






無事に下山をし、森の入り口まで下ろして貰えた俺は、長老とメル達に紹介状と仕事の推薦状と一緒に入った手紙を渡しておいた。


「それを持って、騎士団長のギルバートさんに会いに行けば大丈夫だから」

「本当に、何から何までありがとうございます」

「ああ。では、また会おう…」


そう言って、王都へと飛んだハーピー達を見送った俺達は、荷物を持ち直して、再び歩みを始めた。


「次は、何処に向かおうか」

「ここから西にいってみるのも良いかもな」


二人でそう言いながら、北の山から西へと進んでいった…





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