第2話 山岳登山、原種鳥人

平野も大分進み、『原初の森』から更に北に位置する山まで辿り着いた俺達は、早速山道を上ってみる事にしてみた。


「へぇ…ドワーフの鉱山と比べて結構脆いな」

「油断するなよ。広い山道と思って歩いたら、地すべりなんて起こるからな」

「あー…それは怖いな…」



そう言いながら、俺と冴子は馬車が一台通れる山道を歩いて山を進んでみた…




大体歩いて一時間ぐらい経過…


「疲れた…」

「ああ…やはり、山登りする体力は別物だな」


日頃から山登りに対する筋力がなく、酸素も若干薄い岩肌だらけの山の上では、体力を大きく消耗する。

況してや、鎧と剣の装備の重さに加えて、食料などの荷物を背負ってる俺達の体力の消耗は激しい。

とりあえず、何処か休める岩陰でもあれば良いんだが…


「そこの岩に腰掛けようか?」

「ああ、そうしよう…」



そう言って、俺達は大岩に腰を掛けて座って、飯にする事にした。

登る前に、吸血蝙蝠の火あぶりに葉野菜をサンドにした奴を作っていたので、それを食べる事にした。


「今考えるけどさ…」

「ん?どうした錦治?」

「正直、亜人の免疫耐性には感謝したいな」

「ああ。疫病か…まぁ、それを言うなら、最初の羽鳥も警戒するならば…」

「だな。野鳥は結構寄生体を持っているからな」


今言った通りに、普通の人間だったならば、野生化した鶏でも当たる事があり、その場合は火を通すのが怠っていたと言わざるを得なかった。


野鳥や蝙蝠もだが、自然界での天然の肉にて、火でしっかりと焼かないと食べられると考えるならば、数が限られてくる。

況してや、家畜として育てていた肉としても、食中毒となれば話は別。

野生動物の肉を生で食べても大丈夫な日本人など、早々にいないだろう。


人間時代の俺達が食してた、家畜の肉や養殖の魚には大変感謝せねばなるまい。

あれらの殆どは、手塩を掛けて育てた農家や漁業の人のおかげだから安心して食べられる。

今の時代、それを忘れているから、平気で飯を残しているからな…

そう思いながら、しっかりと火を当してカリカリになった蝙蝠の肉を俺は噛み砕いていった…


その時である。

山陰から一人のハーピーが血を流しながら逃亡をしており、後からやって来た下級悪魔のレッサーデーモン達が彼女を追いかけていた。


「しつこいわね!!あんた達に従属なんかしないし、餌になる気など無い!!」

「うるせぇ!!鳥亜人など俺達悪魔族の家畜だろ!!」

「大人しく卵産んで肉となれ!!」


そう言いながら、剣を振り回して飛び回る悪魔達を見ていた俺達は…


「錦治」

「ああ、分かっている…」


あのハーピーの子を助ける事に優先した。


「”行けよ…禍津火まがつび”」


俺は軽く詠唱して出した黒い炎を具現化し、三体の悪魔の内一体に向けて放ち、直撃を当ててやった。


「お、なんだ?この火はあぎゃああああああああああああああああ!!」


炎に取り込まれた悪魔は断末魔を上げながら空中で燃え尽き、灰となって消え落ちていった…


「ダ、ダニエル!!」

「あそこだ!!あそこのトロールがやった!!」


そう叫んできた悪魔達は俺達の前に下りてきて、剣を構えてきた。


「ほぅ。今の炎を見ても怯まないとは…感心だな」

「貴様ぁ!!下等亜人で奴隷種族であるトロールの分際で!俺達デーモン族をコケにしてくれたな!!」

「よくもダニエルを灰にしてくれたな!!八つ裂きにしてやる!!」


そういきり立ってきた悪魔達は俺を切りかかろうとしたが…


「おせぇんだよ。この鈍間が」


冴子が片手剣とバックラーで悪魔達の剣を防いでいた。

無論、”不屈の鉄壁”の改良した使い方で、冴子自身が地面に立つ事で、全て防ぐ事が出来る新型の使い方で押し切ってきた。


「こ、この白いオーガ!俺達の剣を防いだ!?」

「馬鹿な!?オーガは知性の無い蛮人だろ!!」

「お前ら…知性が無いなど下等など…それだけしか言えんのか!?」


そう言って、冴子は防いでいた悪魔達の剣を押して、その内の一体を光剣術を使い、一撃で仕留め切った。


「ば、馬鹿な…それは勇者の技…!?」

「はんっ、こんな技。真似すれば誰だって出来るんだよ」

「馬鹿な…オーガがそんな技を使えるわけが…」

「使えるんだよ。俺の女を舐めるな」


そう言いながら、俺はこの悪魔に最高の屈辱を与える事にした…


「”―――滅せよ、罪人よ”」


短く詠唱を終えた瞬間、悪魔の体は頭部以外全部潰れて棒切れになり、大量の血を頭部の穴と言う穴から一気に噴出して絶命した。



無論、返り血を一切浴びずに終えてだ…



「こんなもんか」

「相変わらずえぐいな…それ」

さくの神通力を扱ってみるのも、毎度ながら難しいものだ」


そう言う他愛の無い会話をしていたら、先ほどの傷だらけのハーピーが降りて、俺達の元へと駆けつけてきた。


「あ、ありがとうございます…!あのままだったら、あたいは…」

「お礼の前に、まずは傷を手当てと…何が起こっているのか話して貰わないと」


そう言って、俺と冴子は彼女の手当てを始める事にした…






「鳥亜人家畜計画?」

「なんで限定的に…」


俺達は手当てしたハーピー:メルの話を聞いていたが…どうやら悪魔族の連中は悪魔至上主義の下で亜人狩りを行なっていた際、悪魔族からして栄養豊富であるハーピーやコカトリスなどの鳥類系亜人…鳥亜人族を捕獲し、生産して食肉用と卵食用を確保するのが目的で、野性のハーピーやコカトリス…しまいには魔王軍あたりに在籍する事が多いセイレーンまでも捕獲して、性欲処理兼食肉用奴隷を生産しようとしていたのだ。

しかも、それだけでは飽き足らず、凶暴種であるブラックハーピーや雷で有名なサンダーハーピーまでも捕獲しようとしていたのだ。


「これまた厄介事になったな…錦治」

「だな。しかも、このあたりが悪魔国の国境だとはな…」

「あ、あたい達だって…こんな辺境の場所に住みたくはないんだよ…でも」

「帝国の侵略によって、棲家を追われたと…?」

「そ、そうなんです…元々は妖精国の辺鄙な山に住んでいましたが…」


メルのその言葉に、俺は複雑な気持ちになった…

フェイシャ達ダークエルフも、妖精国と帝国の戦争により難民となった…

メル達ハーピーもまた、戦争の難民なのだ。


そんな境遇なのか、俺は立ち上がってメルの手を引いた。


「とりあえず、現状として君達難民ハーピーの救出が先決だな…」

「そうだな…見て見ぬふりなんて私らには出来はしない。協力するよ」

「そ、そんな!?助けて頂いた上にあたいらの集落までも…!?」

「誤解しないでくれ。これは利害一致だ。今新生の王都は復興中だ。君達の、ハーピーを王都に派遣して住民にいきたい。一応、今の新生王国は全亜人族に対して手厚い保障策を行なおうとしている。が、圧倒的に人材が足りない」

「つまり…あたいたちの集落を助ける代わりに、王都に行けと?」

「推薦状を書いて、王都住民登録を促すようにしよう。つまりは家付きで住む事が出来て仕事も斡旋するように願い書も作ってやると言ってるのだ。幸い、その事に関して口利きが上手い奴等が多いからな」

「あ、ありがとうございます!!」

「まだお礼言うのは早いよ。とりあえず、私らを案内する前に…」


冴子がそう呟きながら、空を見上げていた…

先ほどの快晴から、どんよりとした雲に覆われ始めてきた事に…


「荒れるかな…?錦治」

「かも知れんな…」


俺達二人はそう言いながら立ち上がり、メルの案内の元でハーピーの集落へと向かっていった…




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