第33話 ダークエルフの生き残り

一時して…

他に何か手がかりは無い森の中を見て回ったが…

あったとすれば、あのダークエルフ達の集落跡と、無数の亜人達の屍骸の山しか残っていなかった。


結局の所、この森は後藤の独壇の実験場で、亜人の生態を調べ上げていただけに過ぎなかった…


「…生き残りとかも居なさそうだな」

「ああ。生きてたとしても、恐らくは…」


あと、後藤が残していた危険な薬物や薬草は、全て穴に埋めて焼却した。

残しておいても、悪用されて薬物が蔓延しても困るからだ。

あんなダークエルフ達の薬漬けの最後など、させてはならないんだと。


そう思ってはいた…


「…!?錦治っち!こっちに来て!!」

「どうしたんだ!?」


調子が少し戻った直子から、俺は呼ばれた場所まで走っていった。

そして、直子が指差した先には…震え怯えて泣く幼いダークエルフの男女の子が隅っこで蹲っていた。


しかも、この子達の目は薬物に汚染されては無いぐらい綺麗なものであった。



「く、来るな!お、お前もアイツに連れてこられた奴だろ!!」

「落ち着け!もうお前らを悪用する奴はおらんぞ!!」

「嘘だ!!あのガリ痩せエルフの実験にするつもりだろ!!」

「嘘じゃねぇ!!アイツは俺達が倒した!外を出てみてみろ!!」


怒鳴ってくるダークエルフの男の子に、俺は思わず大きな声で応戦しながらも、このやり取りを何度か繰り返すことにより、ダークエルフの子ども達は俺達の言葉を半信半疑になりながら外に出てくれた。


そして、大人達は全部後藤の仕業で消えたことにして伝えたら、緊張が解けた余りで体から力抜けるようにして気絶していった。


「どうするの…兄さん」

「見捨て置くわけには行かないな…連れて行こう」


そういって、俺は二人の子どもを抱え、あのドワーフの長老に渡せそうな書類を他の皆に携えるように促して、「鎮守の森」から脱出することにした。






あの後、難なく森から出る事が出来、旅団の皆と合流する事が出来た。

待機していた面子の話から聞くと、こちらでも戦闘はあったらしいが…殆どが雑魚の集団で襲ってきただけに過ぎず、レベルの高い面子で対処をしていったそうな。

まぁ、村人亜人達のレベル上げには丁度良かったのだろう。

おかげ様でゴブリン族除く存在進化ランクアップしていない村人達の平均レベルが、大体60ぐらいには上がっていた。

なお、次郎さん達が世話していたゴブリン達は全員カンストに達し、ゴブリンとなった村人もカンストしていた。

次の日ぐらいは存在進化しそうだな。



一方、俺達は森で行われていた後藤の一族の非道実験のことを話し、事の顛末を全て伝えていた。


「そうか…あの勇者の仲間の仕業だったのか…」

「ええ。キンジ様と同じ異世界から来てエルフに転じた女の狂劇でした。後は…このダークエルフの子ども達しか生き残りは居ませんでした」


ギルバートさんとシャルトーゼがお互い話ながら、次郎さん達含む待機組みの面子はダークエルフの子ども達のことで話し合っていた。

そんな中を、俺は蓮の肩を叩いて頼む事にしていた。


「蓮。ちょっと、俺達六人は一回話し合うから、後で皆からの話を聞かせてくれ」

「あ…うん。分かったよ、兄さん…」


アラクネの弟に全てを任した俺は、何時もの五人をアイコンタクトで送り、竜車の中へと入っていった。





中に入ってからは…全員でお互いの知らない事を全てを語り合っていた。


冴子の家庭の事情と秘密…


直子の家庭環境…


加奈子の生活環境…


良子の教育環境…


そして、美恵の隠していた監視者としての過去も全てを…


俺が知っている全てを、この場にいる六人全員の前で話していった。

無論、皆から怒られ、嫌われる覚悟はしていた。

だが…


「錦治っち。私は言ったよね…何もかも背負い込まないでって…」

「そうだな…だが、お前達の仲を壊したくは無かった」

「逆だわ。錦治君…むしろ話さない方が、余計に拗れる事があるわ」

「良子…」

「それに…美恵も美恵だわ。役作りの為にあんな性格のふりをし続けるなんて、あんまりじゃないのよ」

「ごめんなさい…良子」

「様は無しよ、美恵。今後は使用人としての様付けは禁止。それが、貴方の枷られた使命よ。…直子が言ってたじゃない。私達は、既に家族なんだから…」

「うん、そうだね…それじゃあ、美恵。私からも一言だ。今後は私をお嬢様と呼ぶな。お前はお前らしく生きれ、もう私らは赤の他人じゃないんだから」


冴子からそういうと、美恵は口を押えてから静かに泣き、その側で直子が優しく美恵の頭を撫でていた。


…同い年で、これほど環境が違うと苦労はする。

だが、お互いを理解しあえば良い。

この日になって漸く分かるとは…


「錦治君…私が言えた義理じゃないけど…皆過去の事を話したんだし、これから過去を乗り越えるように頑張ろうよ。私達なら出来るんだから…」

「そうだな…加奈子。皆、それでいいか?」


俺がそう言うと、皆頷いてくれた。

本当に、すまないな…


「あっ」

「…?どうしたんだ。直子」

「あかりがお漏らしした…」


その瞬間、全員一斉に立ち上がって、素早く赤ん坊のオシメを張り替える作業に入っていた。

…よく考えたが、今後子ども生まれたら、コレの繰り返しだろうか。



とりあえず、六人の蟠りが大体解決した所で…美恵と直子から創生魔法の事で聞いていった。

特に魔力関連は大事で、大量消費となるならば連発は難しいだろうと思う。


「私の場合は、一日に一回が限界です。あの闇魔法創生の魔力消費量は半端がありませんです」

「そうか…ガロッパーレ・インフェルノはかなりの魔力を使うのか…直子は?」

「そう言われると…私のラース・ゲイルはそこまで使わない感じかな?あの後、何気なく風の魔法が使えたんだし…」

「ふむ…となると、対象次第と範囲効果、その他諸々で色んな効果によって、消費量も変わると言うわけか…美恵。俺から言わせて置くならば、お前の創生は切り札としてとっておく様に。強力な反面、使用タイミングによっては、危機に陥る可能性もあるからな」

「承知いたしました。錦治…君」

「…やっぱり慣れないか」

「はい…この状態ですと、特に…」


そんな風にモジモジする美恵に、直子はジト目常態になって…後ろから美恵の胸を鷲掴みして揉み始めていた。


「ひゅあああああ!?な、直子!?」

「美恵っち。今度から様付けしたら、セクハラお仕置きするよ。一回目はコレ。二回目以降は…」

「い、以降は…」

「お尻叩き。しかも、蓮君に頼んでメイド服を作ってもらって、それを着ながら」


直子がそういった瞬間、美恵の頭がボンと煙を上がって倒れてしまった。

…攻めるのは得意癖に、攻められるのは駄目なんだな。


「…本来は真面目な奴だから、あんまり苛めないでやってくれ。直子」

「ここまで初心だとは思わなかったわ…んで、錦治っち。私は?」

「直子は、引き続き創生魔法の研究をしてもらえないか?もしかしたら、他に創生魔法が出来るかもしれないしな」

「そっか。私の場合はメイジだから、色んな魔法に出来そうだね。分かったわ」

「うむ。あとは、相性だな…美恵の創生が後藤の奴にかき消されたのと、直子の創生が後藤の創生を消せた関係を調べていかないとな」

「そうだねぇ。次郎さんにも聞いてみよう」


そう言って、直子は次郎さんの所まで向かっていき、俺は倒れた美恵を起して、竜車の中へと入っていった。





日が沈んで、焚き火の明りで暗闇を照らしていた時…

例のダークエルフの子ども達が起きてきて、俺達旅団の前に現した。


「僕達をどうするつもりなんだ?」

「その前に、名前を聞こう。俺の名は錦治、お前は?」

「…フェイシャ。こっちは幼馴染のリューミャ」

「フェイシャにリューミャだな…あの集落で、覚えている事があったら、教えてくれないか?」

「その前に聞きたい。…ダークエルフの皆は、どうなった?」


フェイシャの鋭い目つきで質問してきたが、俺は負けじに返しながら、答えていった。


「…駄目だった。全員、あのガリ痩せエルフの薬でおかしくなっていた…。その後は、事切れてしまった」


ある意味嘘ではなかった。

あの時の美恵の創生でトドメ刺さなくても、いずれは薬が切れて禁断症状に…その後は発狂しながら死んでいたであろう。

もしくは、薬の乱用が進みすぎて脳が麻痺して、夢見るようにして脳死状態に。

いずれにしても、助からない程に重症化していた。

その言葉を聴いたダークエルフの子ども達は立ちながら泣いていた。


「すまないな…もう少し早ければ…」

「あの女エルフが来なければ…僕達は…!!」

「…ずっと立っていては辛かろう。こっちに来て座れ。あと、飯も食いな」


俺はそう言いながら、二人を腰掛に座らせて、晩飯のスープを渡してやった。

…一応、配慮してから肉抜きにしておいたが。


泣きながらも完食したのか大分落ち着き、冷静になった二人から話を聞いた。


その話を聞いた俺達は、後藤の非道っぷりに怒りが込みあがろうとしていた。

あいつは…アヘン戦争の時みたいな中国の状態にしようとしていたのだ。


フェイシャ達がいた「鎮守の森」のダークエルフ達は、妖精の国からの難民で、帝国の脅威から逃げ出す形でこの国へと流れ着いて、少数ながらも暮らしていたそうな。

妖精の国の時よりも生活は貧しく、多種族とは断絶し大変ながらも平和に暮し、静かに暮していた。

しかし、一ヶ月前の時…あの後藤がこの森に住むダークエルフ達を発見、最初は警戒していた集落のダークエルフ達であったが、同じ妖精の亜人族という事で、話を打ち解け、後藤から疲労回復用のハーブだと言われて、皆がそのハーブを使い始めたのが悪夢の始まりであった…


二人はそのハーブ自体に警戒していた為、使用はしなかったものの…大人達は難民として逃げてきた疲労困憊し、誘惑に駆られるほどにまで弱っていたため、あっという間に集落中に禁制ハーブの薬が蔓延し、集落の大人達が働かなくなるほどにまで広がってしまった。

そこからが、後藤の本領発揮で…奴は禁断症状が出るまで放置し、大人達が奴に縋りつくまで徹底的に薬物調教を初め、手下として動かすようになっていった。

その後は、中毒洗脳された大人達を引き連れ奴隷商人と癒着し、他の集落にいた難民ダークエルフやエルフ達を捕獲し、ドワーフなどの亜人族まで拉致誘拐し、薬物実験を行なっていたそうな。

そんな中、フェイシャ達は薬物中毒の振りをしながらやり過ごし、今日までの日を待つまで怯えながら暮していたそうだ。


帰る場所も無い…家族も失った二人であったが、一つの気持ちがあった。


アイツだけは、絶対に許さない。


たったそれだけのシンプルな気持ちであったが、その気持ちは俺達以上に強く出て、今にでも旅に出て、仇討ちで奴を殺さんという勢いであった。

だが、俺は…


「お前達の気持ちは分からんでもない。現にアイツを殺さないと気がすまない。だが…お前らはまだ子どもだ。俺達よりかは歳を取っているかもしれない。だが、はっきり言わせるならば半場ケツの青いガキだ。そんな本気の殺しも知らない奴に復讐など出来ん」

「じゃあどうすれば良いんだよ!?」

「俺達に付いて来い。まずは強くなって成長しろ。成長して、奴に復讐するという感情が残っていて、奴が生きているならばトドメはお前達にやる。お前達が、復讐と言うの心を持ち続けるならば…だ」


そう言って、俺はフェイシャ達二人に何の変哲も無い小刀ドスを持たせてやり、フェイシャ達は黙ってそれを受け取って、無言で頷いた。


二人にとっては、これからが長い人生になるのに、同属殺しをさせるわけにはいかんと思っていたが…予想以上に決意を持っていた。

この終りが見えない旅の合間に、復讐心が消えてくれれば良いが、それでもなお憎むならば、この二人に後藤の始末を任せよう…


そんな形で、二人を正式な旅団員に引き入れた俺達は、一夜を過ごした…


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