第21話 原種達から見た創生の使い手

――転送人・桜井達郎と、その関係者の記録と会話。


アレから二日後に、決闘に関する御触れが流れて、オークのビュディとオーガのバイスが不用意な喧嘩が起きなくなったのは良いけど…

この二人、先日に手合わせした…僕と同じ転生してきたオーク・奥村加奈子さんとの戦いに納得はしていなかったらしく、町で見かけた彼女と旦那様である横山錦治さん達の一行を見かけたので、ビュディとバイスの案で彼女達の訓練を見に行く事にしたんだ。


「ねぇ…二人共。やめようよ、こんなコソコソと…」

「何言ってんだい!タツロー!!あたしらがあんな手打ちで納得したと思ってるわけ!?」

「そうだよ!あんな筋肉が少ない奴に投げ飛ばされたなんて、信用できないじゃない!!」

「そりゃあそうだけど…」

「それに…あの男の人に納得出来ないオーク、オーガの連中だって居るんだ」


ビュディの指摘に、他の若くて屈強なオークやオーガなど十数人も集っており、皆こっそりとあの人達を観察しに着たんだ…


「正直、今の王都の功労者とか、なんとか言ってるけど、あたしらはまだ信用をしてないんだよ。だから、どんな力を使ってるのか見たいし」

「でも…とんでもない光景だったらどうするんだよ…」

「そんなのありえる訳無いでしょ。あたしらだって、魔法使える奴の攻撃で爆発とか興せる奴なんて早々にいないしぃ」


と、その時であった…


大分先の平原までやってきたあの人達が居た場所で、物凄い土埃で出来た柱が…

空高くまで舞い上がっていた…


『…はぁ!?』


その時いた僕達全員が驚愕の声を上げながら、騒然となっていた。

そして、その先で…雷鳴とか爆炎、闇の塊などが爆発して…地面に大きな窪みが沢山作っていた…



その光景を例えるなら…まるで現代戦争みたいな戦場…もしくは本物の魔王との最後の戦いみたいな…そんな光景であった。


それを繰り広げていたのは…錦治さんに向かって突撃する9人の女性であった。

しかも、その中にはあの王女クラリッサ様までも居たのだ…



アラクネの女性が人型の剣士に転身し、狂気紛いの刀による剣術を繰り出しては元の半蜘蛛型に戻り…


その隣にいたダークエルフの子も、同じ様に刀を持って突撃し…


王女様とお付きの従者らしい吸血鬼コンビは小剣を全力で突き払って…


後ろにいたゴブリンとトロールとサイクロプスの三人の女性は魔法と魔改造した弩みたいな飛距離武器を無造作に撃っていた…


一方で、加奈子さんはというと…錦治さんと同じ様に拳に何かを纏わせながら、錦治さんの纏うどす黒い魔力の拳を相殺していた…


そして、バイスとは違うオーガとしては小柄の女性が、剣に雷光と炎を纏わせて錦治さんの方へ向けて突撃し、爆発を起していた…



無論、そんな光景を見せ付けられた僕達三人以外のオークやオーガの人達は…

一目散に帰っていった。


いや、無理も無い…

あんな人達が十人もいたら、世界が崩壊しちゃう…


勿論、ビュディやバイスの二人は…腰抜かして座り込んで呆けていた…


「…帰ろう。ビュディ、バイス。錦治さん達は、僕達以上に何かと戦う為に力をつけてるんだと思う。勿論、僕達を守る為だと…」


僕のその言葉に、二人は無言で従い、錦治さん達の訓練の場所から離れていた。

少なくとも、僕達みたいな凡庸な者達は見て良い物じゃない。

確かに、僕も異世界に来てから勇者みたいな力を神様から貰ったけど、あの人達全員がそれを逸脱している。


少なくとも、僕にはそう実感させられた…



――――――――――――――――――――――――――――――――――――






どうやら、遠くからオークやオーガの住民達が見ていた様だが…

理解したのか早々に退散してくれたようだ。

ただ、これを見たからといって余所余所しい態度を捕える事だけは避けたいが…


「何余所見をしてんだよ!錦治ぃ!!」


と、叫びながら魔法剣を放ってくる冴子を、俺は寸前で交わしながら拳に魔力を纏わせては爆発させて吹き飛ばし、後ろから殴りかかってきた加奈子を拳による反動を利用して投げ飛ばし、蓮、フェイシャ、エミー、クラリッサの四人の剣を避けながらカウンターをかまし、直子、美恵、良子の三人による魔力集中砲火を眷属化した闇の魔力で迎撃して落としていた。


「ちょっと!?あれを全部撃ち落としたの!!?」

「流石にお手上げですわ」

「というより、これでもまだ上げるつもりなの…」


そんな叫びを上げる三人は余所に、カウンターを喰らった四人はよろめきながら立ち上がって、剣を構えてはいた。

だが、そんな中を…二人だけは猪突に攻めていた…


「やるなぁ。冴子は勿論の事、以外についてきてるな。加奈子」


そんな俺の言葉に、加奈子はジッと見つめながらも負けず嫌いな精神を出して、俺が教えた拳による喧嘩術を屈指ながら攻めて来た。


基本、優しくて臆病な加奈子ではあるが、意外にも信念は持っている事は知っていた。

それに、さくの課せられた題には応じたい構えなんだろう…


現状で言うならば…今のペースならば柝による鍛錬を全員施した所で…

俺と冴子以外は育たないと、柝から告げられた。

特に、加奈子に到っては…このままだと戦力外になると言われたぐらいだ。


それを指摘されてからは…加奈子は意地になっても喰い付く様に俺からの猛攻を耐えながら鍛錬を受ける事にしたのだ。

無論、同時に加奈子の中にある創生の力が目覚めながら…


既に気付いていたが、加奈子の中にある創生の力は…光と水、そして聖の属性。

そして、その効果というのは…癒しと消去…つまりは”完全なる浄化”だ。

冴子の付加と消去である”相殺”とは違って、”浄化”。

お袋みたいな操作と消去による”呪殺”の制限を、癒しと消去による”浄化”をさせることで、”呪殺”を封じる事が出来るのだ。

そして、それはあのお袋への切り札にもなる…


と言いたいのだが…如何せんまだ力が発揮してないし、形成すらしない。

まだ、本質が見えては無いのだろう…だが、焦ってはいけない。

まだまだ、じっくりと鍛える余裕がある。

柝にとってはつまらないが、利があっているのは間違いないと踏み込んだ上で、加奈子にあの煽りを入れたのだろう…


いずれにせよ、加奈子には大いに期待をせねばならない…

その為にも、鍛錬中は鬼として動かねばな…


「どうした?まだ終わりじゃないだろ?それとも、ここで降りるか?」

「…っ!?ま、まだまだよ…!!錦治君!!」


そう言いながら、加奈子は上げながら俺に向かってきた…

そうだ、それでいい…


あとは、もっと上げてくれよ…


そんな俺に、冴子も同じく上げてきて俺に向かってきた。


「仲間外れは酷いなぁ…!ちょっとは私にも向けよ!!」

「すまんな、冴子。お前ばっかりにかまけてたら、他の奴等が遅れるだろう…?…お前らも、全員息切らしてないで掛ってこいや!!」


それと同時に、他の七人も同じ様に上げながら攻撃を再開してきた。

どんどんやってこい…お前らが置いて行かれたくなければな…






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