第5話 ⭐教室1⭐

教室に入ると黒板に番号が書いてあった。

自分の名前の番号の席に座る。


前に座っていた先輩の仕業だろうか。

机の右上にはカッターナイフで掘った【LOVE】の文字が、少し黒ずんで残っている。


椅子に座り直して、鞄を机の横にかけた。

背が高いので、足の置き場に困る。

これはいつもの事だった。


「やったー同じクラスだ!」

友達を見つけてはしゃぐ女子達。

碧はそれをボーッと見ていた。

(私はあそこには入れない)

碧にはわかっていた。

嫌いな八重歯と背の高さがコンプレックスな上に人見知りな性格だから。


碧はいつも教室で静かに外を眺めていた。

だから、席替えで窓際になると嬉しかった。

高校に入ってもそれは変わらない。

この時はそう思っていた。その時、碧の真横で音が聞こえた。


「ダンッ」

隣の机の上に鞄が乗せられた。

ふと見上げると、さっきぶつかった顔だ。

「あっ」

ふと目が合い、碧はまたペコリと頭を軽く下げ前を向いた。

(同じクラスだったんだ……)



そして、メガネをかけたクラス担任らしき男性が教室に入ってきた。

「はーい、ここ見て自分の席を見つけて座って下さい」

と、黒板を指差した。


先生の挨拶があり、出席を取る。

はぁー緊張するなぁ。

自分の順番が近づいて来ると、心臓がドキドキする。


「神﨑碧」

先生に名前を呼ばれた!

「……はい」

小さな声しか出なかった。

先生は下がってきたメガネを片手で直しながら顔を上げてこっちを向いた。

「神﨑ー、緊張してるのかぁ?」

先生は笑っていた。その場を和ませようとしたのだろうか。

だが、碧は余計に緊張して恥ずかしくなってうつ向くしかなかった。

(…………こうゆうの苦手だ。)

碧は小さく見せる為に背中を丸めた。


出席は進んでいく。

「桜木陽」

「……はァい」少しだるそうな返事。

(桜木陽っていうんだ……)

碧は何気なく、横を向いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る