第22話 ⭐揺れる⭐
『今日は部活ないよー』
振り返ると教室の入り口に陽が立っている。
『うん、知ってる。』
碧は頬杖をついたまま、陽に顔を向けた。
夏の匂いを運んできた風が、碧の髪の毛をフワッと通りすぎていった。
『ここのパン屋美味しいんだ!一緒に食べよ。どれがいい?』
陽はいつものパン屋に寄ってたくさんサンドイッチを買い込んできたようだ。
机の上にたくさん並べられたパンを見て、
碧はびっくりしていた。
フルーツのサンドイッチが2つ、たまごやチキンなどが入ったサンドイッチも2つ。カレーパンやレーズンのパン。少し焦げ目のついたメロンパンやクリームが挟んであるコッペパン。
(明日の分も買ってきたのかな。。。)
碧はそう思いながら、パンが広げられた机を見ていた。
『なぁーに?どした?え、好きそうなのない?それとも少なかったかなぁ。。』
陽は碧の反応に困った顔をした。
『えっ?』
『えっ??』
陽は真剣なようだ。
『違う違う!こんなにたくさんあるから』
碧は慌てて顔の前で両手を振る。
『良かったー、好みじゃないのかーとか、物足りないのかって心配しちゃったよぉー!
あー、びっくりしたー!
はい、好きなのを好きなだけどーぞ』
ホッとした陽は嬉しそうに言った。
(この量にびっくりするのはこっちなんだけど。)
碧は心の中で呟いた。
『じゃあ、このイチゴサンドがいい』
碧はイチゴの入った可愛いサンドを選んだ。
『おっ、やっぱり?それ上手いぞ!』
『いただきまーす』
陽はたまごサンドにかぶりつく。
『いただきます』
碧はイチゴサンドをパクっと食べる。
『おいしい!』
『だ☆₩*&※#。。』
『ん?』
陽の口はサンドイッチでパンパンで何を言ってるのかわからない。
それでも、どんどん口の中にサンドイッチはほうりこまれる。
『もっと買ってくれば良かったなぁ、これじゃぁ、足りないぞ!』
陽があまりにも子供のような顔をしたので可笑しかった。
『ぷぷっ』
思わず碧は笑った。
『!?ん!? ん!?』
陽は慌てて口の中のサンドイッチを飲み込んだ。
詰まりそうになって、慌ててカフェオレで流し込んだ。
『やったー初めて笑った!嬉しい!上手いよねーここのサンドイッチ!笑えるほど上手いよねー?』
陽のそのずれた反応が碧をまた笑顔にした。
『何よー!嬉し過ぎるー』
陽が笑って言った。
『うん、笑えるほど美味しい!』
碧も笑顔で言った。
(しまった。八重歯が見えてしまった。)
碧は慌てたが遅かった。。。。。
陽は碧の笑顔を見てニコッと笑った。
『なぁ、いつもここからグランド見てるよな。サッカー好きなの?』
少し首を傾けて、碧の顔を覗くように陽はこっちをみている。
少し傾きかけた太陽に照らされた陽の瞳はとても綺麗だ。
(え?!見てるの気づいてた???)
碧は少し驚いた。
『見るのは好き。運動は苦手だから。。。』
(ふぅーん)と小さく頷いて、ふと顔を上げた。
『マネージャーとかになれば?』
『マネー、ジャー?』
碧は首を傾げてみる。
『あのー、さ。そのー、今の神﨑の顔、また見たいなぁって。』
陽は恥ずかしそうに言った。
『。。。八重歯嫌いなの。恥ずかしい。』
やっと、ちょっとだけ本音が口にできた。
碧はそれだけで嬉しかった。
『。。。オレは見たいな。』
そんな言葉をかけられたのは初めてだった。
碧は視線を落とし、陽の手を見ていた。
爪は綺麗に手入れされている。指の節は太いけれど、指は長くて美しい手をしている。
そして、私の大きな手よりもほんの少し大きく見えた。
陽は机の上に並んだたくさんのサンドイッチやパンをあーっというまに食べてしまった。
1つだけ、フルーツサンドを残して。
『これはお土産、持って帰ってお母さんにも分けてあげな!あー美味しかったー』
(ありがとう)と、受け取って鞄にそっと入れた。
『そんなに食べて苦しくないの?』
ゴミを集めながら聞いてみる。
『ぉん。家に帰って晩ごはんも食べるし』
陽にとっては当たり前のようだ。
碧は『えーー!』と大きな声で反応してしまった。
碧がいつも家族といる時と同じ。
(やばっ!家にいる時と同じじゃん。。。)
思わず手で口を覆った。
それを見ていた陽は言った。
『なぁ、マジでサッカー部のマネージャーにならない?何かさぁ、やっぱり今の神﨑の事見てたいわ。無理にとは言わないけど。』
陽は本気のようだ。
ゴミを片付けて、鞄を肩にかけて教室を一緒に出る。
『んー考えてみる。』
陽があまりにもまっすぐに見つめて言ってくれるから。。。
『ほんでもって、帰りに毎日サンドイッチ一緒に食べよ!』
『太る太る!縦にも横にも大きくなったら恥ずかしいよ。』
アハハハハハ!と陽は笑っているけれど。
碧にとっては大きな悩みだから。。。
『神﨑、背比べしよ!ほら、やっぱりキレイなんだって!それに、さすがに俺より大きくなれねぇだろーーー』
その時の陽の笑顔はズルいと思った。
小さく見せようと丸めた背中を伸ばして、大きくなった碧の事を"キレイ"と陽は言う。
碧はドキドキして、心が揺れていた。
(何だろう、この気持ち。発作?ではなさそうだな。。。。。)
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