第14話 ⭐やっぱり⭐

朝なのに、教室の空気はまだ少し嫌な雰囲気が漂ったままだった。

陽はいつも通り仲間に挨拶を交わし自分の席についた。

だが、碧の方は違った。

碧が通る所には見えない線が引かれているようだった。


『神﨑さん。。。』『。。。じゃない?』

『えーやっばー!』

碧にはヒソヒソと会話が聞こえた。

昨日のメンバーだ。


せっかくさっきまで『背比べ!』で伸びていた碧の背中は、いつも通りに丸く小さく見えるようにもどってしまった。

碧の心の中はモヤモヤと曇っていく。

そんな碧の事を陽は横目で見守っていた。



開け放った窓からは光が射し込んでとても気持ちがいい。

グランドを優しい風が通り過ぎ、緑色の葉はサワサワサワーと音をたてて揺らぐ。

空は青く、雲は白く、碧の心の中にはない色が広がっていた。

『はい、じゃあ次は神﨑!続きを読んで!』

先生の声で我に帰る。


(やばっ、聞いてなかった。。。)

コツコツ。。。横で机を指先でつつく音。

陽は教科書のページを指先で教えてくれているようだ。

碧は慌てて、陽が指先で示したページを探して読み始めた。


『神﨑ー、次からもう少し元気な声で頑張ろかぁー。ちゃんと読めるんだから』

先生は笑顔で言ったが、やっぱりあの人達はクスクスと顔を見合わせて笑っていた。

(ふぅー、やっぱりこうなるんだな)

碧はまた、外に目を向けた。

他のクラスが体育でグランドを走っている。

(あれもやだな。。。)




その視界の中に隣の席から顔がぴょこっと現れて、少し微笑んだ。

恥ずかしかったが、碧もつられてほんの少しだけ微笑んだ。

(何でだろう。桜木くん。)

碧が憂鬱な時は必ず、陽は優しい微笑みを見せてくれる。

(それにしてもキレイな目をしているんだなぁ。)

陽の睫毛は羨ましいくらいに長くて、瞳は濃い栗色をしている。





それからも毎日コソコソと陰口を言われる日々は続き、憂鬱な学校生活は変わらない。

碧の登校は相変わらず足取りは重く、小さくなりたくて背中を丸める。



だけど。。。

『おはよ』

『ほら、背比べ!』

毎朝のように陽に言われて、背中を伸ばす。

陽は初めて出会った日から変わらずに、碧に毎日微笑んで見せた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る