第124話  第2章 ⭐不穏⭐

B/のメンバーはそれぞれドラマの撮影に行ったり、雑誌の取材を受けたりとバタバタと忙しい。

そして、夕方にライブのリハーサルに集まってきた。

リハーサルをしながらもグッズを考えたり、振り付けを考えたり。。。やることは山盛りだ。



時には陽もイライラとする事もあるが、メンバーがギクシャクし始めていた。


そんな時だった。

陽がボーカルのリハーサルを終えて戻ってくると、海人がソファーで横になっていた。

何だか顔色が白く見えた。


『ん?海人、調子悪いのか?』

『陽、俺動けないんだわー。体がふらふらしてさ。。。』

海人が倒れてしまった。

『海人、スタッフ呼んでくるから待ってろ!』

陽は慌てて、スタッフを呼びに行った。



海人は病院に行った。

点滴を受けながら、検査をしてもらった。


『過労ですね。血液検査もおかしなところは見当たりませんが。強いて言うなら、血糖値が少し低いかな。目眩は少しは治まりました?』

『はい。少し落ち着きました。』


医師は続けた。

『睡眠時間も取れてないようだし。

他のメンバーは大丈夫ですか?同じような睡眠時間でスケジュールとかも同じ感じですか?』

『そうですね。。。』

マネージャーは答える。


『人気絶頂だからね、気持ちはわかるけど、みんなが倒れてしまうよ!』

『はい、気を付けます。。。』

『移動中とかでもいいから、とにかく体を休められる時は休んで、しっかり食べて!』

『はい、ありがとうございました。』



その日、海人はそのまま帰宅して休むことになった。

一番大変なリハーサルがうまく進まず、メンバー同士もぎすぎすとして、B/は今にも崩れそうだった。


次の日もスケジュールは変わらない。

海人もまだ顔色も冴えないままだ。


なるべく休憩を多めにいれながら、リハーサルを進めていく。


『ほいっ!これ、碧から。』

と小さな保温ポットを海人に渡した。

『ホットのハチミツ金柑。喉にもいいし、少しホットするから飲んでもろよ。』

『ん、サンキュ。』

海人は蓋を開けて、香りを嗅いだ。

『んー、あまーい匂い。』

そして、ゆっくりと冷ましながら飲んだ。


陽は海人から少し離れた壁に寄りかかって座った。

そして、陽も同じ物を飲んだ。


『ほんとだ。温まるー。』

『だろ?金柑の種を取って、ハチミツに漬けて瓶に入れてあるんだ。』

暫くふたりは黙って、それを味わっていた。


『なぁ、陽。』

ゆっくりと飲み終えた海人が口をひらいた。

『ん?』

『たまに思うんだよね、俺何やってんだろうって。。。』


(気持ちはわかってるよ。)

海人を見ながら答える。

『忙しすぎて?』

『ぉん。陽はないの?』

前を向いたまま、海人は聞いてみた。


『んー、嫌な時はもちろんあるよ。休みなんてないし、時間もバラバラだし。』

『だよな。俺、自信なくなってきたわ。』


『えっ?』

『ステージで踊ってるのが辛い時がある。』


(ステージでも辛いって。)

陽はどんなに辛くてもステージでは楽しかった。ファンのみんなの笑顔や涙を見ると、全てが報われる気がしていたから。

海人の事が心配になってしまう。



『海人。。。』

『でも、ファンの人達の事は大事な存在なんだよ!それは心から感謝もしてる。

ただ、それだけで頑張れなくなってきたんだよ。辛くてたまらないんだ。』



『よく分かるよ、その気持ち。投げ出したくもなるし、逃げたくもなる。』

『だろ?』

やっと海人が陽の目を見てくれた。


『でも、誰か1人でも欠けたらB/じゃなくなると俺は思ってる。今しか出来ない事ってあると思うんだよね。』


(そうだよな)と、海人の心の声が聞こえるようだった。

『あー。どうしたらいいんだろ。』

海人は飲み干したポットの蓋をゆっくりとしめる。


『辞めたいのか?』

『辞めたい!って訳ではないけど、辛い。』

海人は下を向いてうなだれた。


陽は海人の真横に行って座った。

『辛い時は誰かに助けて貰えばいいんだ。その為の仲間だろ、俺たち。』

『わかってる。。。』

陽はそのまま、しばらく海人の横に座っていた。

何も話はしないけど、大切な仲間が苦しんでいる。陽も他のメンバーもスタッフもハードなスケジュールで大変なのは変わらない。

『海人、俺たちはしっかり前を見よう!ステージに立てば答えはわかるだろ。』

『そうだな。。。。。』



『さぁ、始めるぞ!』

と誰かが言ったので、ふたりは立ち上がる。

『碧ちゃんにお礼ゆっといて!』

と陽に空になったポットを渡した。

『おうっ!』

と言って陽は受け取り、海人の背中をポンと優しく叩いた。

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