第11話 ⭐帰り道⭐

靴を履き替えて学校を出た。

グランドからは、部活をしている生徒の声が響いている。


さっき助けてくれた声も、碧の耳には微かに聞こえている。

背中を丸めたまま、下を向いてゆっくりと駅に向かって歩いていった。

その足取りは重く、太陽の位置が低くなり暗い影を落としていく。


(ピーッ)

定期を翳して改札を通り、駅のホームで電車を待った。

(はぁー、イヤな1日だったな。)

目の前で開いた扉から、電車に乗り込んだ。


碧は電車に揺られながら、窓の外を見ていた。

汚れた水で濡れたスカートは少しずつ乾いてきていたが、シートを汚すのは迷惑なので扉に寄りかかって立っていた。


いつもと同じ景色は、どことなく色を失っているように碧の目には写っていく。

流れるそれを見ながら、溢れそうな涙を我慢していた。


(また明日からもいじめられるのかなぁ。)

実は、碧は中学の時、いじめられていた。

『背高ノッポ!』『変な歯!吸血鬼みたい』

何気ない言葉は、時にはナイフのように傷をつけ、血のでない傷跡を残す。

碧の心の中には傷跡がいっぱい残っている。


また始まるんだと不安でたまらなくなる。

友達も出来ないままだった中学。

高校生活がスタートした日は嬉しかった。

いじめられていた事を親にも言えずにいた碧は、家では元気に振る舞っていた。

いじめから解放されればそれでいい!


『行ってきまーす』と新しい制服を来て玄関を出た瞬間から、それだけを願って通学していたのに。


(桜木くん、忘れ物ってあのタオルだよね。私のスカート拭いたから汚れちゃったのに、部活に持っていっちゃったな)

碧は少し後悔しながら、窓の外を見ていた。


(この汚れた制服も、お母さんに何て言えばいいのだろう。。。)

碧は色々と言い訳を考えながら、また流れる景色を見ながら電車に揺られていた。



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