第28話 ⭐陽と碧⭐
パンが入った大きな袋をぶら下げて、陽と碧はふたりで並んで歩いた。
駅とは反対への道。
少し坂道を登って行くと小高い丘があり、きれいな景色が見えた。
『ここは木もたくさんあるし、ベンチもあるし、風が気持ちいいんだよー。』
陽は景色を見ながら言った。
『ほんとだー。風が気持ちいいー』
碧は少し顔をあげて空気を吸い込んだ。
『ここで食べるとパンがもっと美味くなる』
陽はベンチに座った。
碧も横に座った。
何気ない会話をしながら、パンは陽の口の中にどんどん吸い込まれていく。
(ほんとに早いっ!飲み込んでる?)
と、碧は陽の口元をじーっと見ている。
『見てないで、早く食わねぇとパンダなくなるぞ!』
『やだ!パンダは絶対やだ!』
……碧はパンダのパンをじっと見ている。
『ん?どした?』
『可愛くて、食べるの可哀想。。。』
ふっと笑って陽は碧の顔を覗き込んだ。
『食べてあげないほうがもーっと可哀想!』
『あ、そか。』
碧はパクっとパンダのミミをかじる。
『あ、痛いっ!』と陽が高い声でパンダの真似をして笑う。
(ふふっ)
『じゃあ、今度はこっちのミミ!!』
碧はまたパクっと食べる。
パンダのパンのチョコクリームが碧の唇の端についた。
陽はしばらく碧を見ていた。
そして、不意に碧の唇についていたチョコクリームにそっと口づけをした。
碧はびっくりして、目を丸くした。
そしてすぐに、二人は真っ赤な顔をしてうつむいた。
『あの…ゴメン!』
『いゃ、……あの。…その。』
陽は立ち上がり、碧に向かって言った。
『神﨑、付き合って欲しい。』
陽のキレイな髪が風に揺れ、前髪が瞳を少し隠す。
それでも碧の事をまっすぐに見つめていた。
『私なんかでいいの?でっかくて可愛くないし。病気ももってるから迷惑………』
碧は顔をあげれないまま呟くと陽の言葉がさえぎった。
『迷惑何て思わないで欲しい。そのままの神﨑碧が好きなんだ。』
陽はしゃがんで碧の顔を覗いて言った。
『恥ずかしいよ。。。』
碧は耳まで真っ赤になってしまった。
『それはオレも同じだ。』
日焼けした顔の頬が少し赤い。
『桜木くん。ヨロシクお願いいたします。』
『神﨑、オレは強い男になって、守るから!』
碧は頷いた。
暑い夏、二人の恋が始まった。
『夕陽がキレイ』
『だろ、これを見せたかった』
そしてもう一度、陽は碧にキスをした。
この日から二人はお互いの事を
"陽"と"碧"と呼ぶようになった。
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