第71話 ⭐事務所⭐

(もう少し夢を追い続ける!)

それが、ふたりが出した答えだった。


籍は入れない。

でも、生活は今まで通り変わる事はない。

陽と碧の母親は碧のサポートをしていく。

そんな風に話は決まった。

碧は、陽が夢を追い続けてくれるのが嬉しかった。

(まだ、諦めてほしくない。)

それが一番の碧の願いだった。




陽はまたトレーナーの仕事とレッスンをする日々を過ごしていた。


とある休日の事だった。

陽と碧はベランダでのんびりと日向ぼっこをしていた。

(ピンポーン)

チャイムが鳴った。

陽はスウェット姿で玄関に向かった。

扉を開けると、スーツ姿の男性が立っていた。



『突然すみません。』

『はい?どちら様でしょう?』

『先日のFRY!!のオーディション拝見させていただきました。私こういう者です。』

小さな名刺を渡される。



『陽?お客様?』

碧が声をかけてきた。

『あ、私プロダクション9の者です』

『あがっていただいたら?』

碧の言葉に陽は頷いた。

『はぁ、どうぞ。』


『実は先日のオーディションの会場にいておりまして。放送も拝見しました。残念な結果になりましたね。私、松崎と申します。』

『はぁ。。。』


『何度かお電話させて頂いたのですが。連絡がつかないので突然来てしまいまして。。。申し訳ありません。』

『あ、なんか電話入ってたかも。。。ちょっと色々とバタバタしていて。

また諦めてないので挑戦は続けます!』



『そうですか!良かった。FRY!!とは違いますが、うちの事務所でやってみませんか?』

松崎と名乗る男性は、声のトーンをあげた。


『ほぇ?!』

『えっ?!』

『突然で驚きますよね?桜木さんの歌声がとても素敵だなぁと思って聞いてました。

他にも数名、うちの事務所でやりませんかと声をかけてあるんです。集まったメンバーでレッスンをして、デビューを目指してみませんか??』

その、松崎という男性は陽の歌声を気に入ってくれたのだ。


碧は少し興奮気味だ。

『え、陽!陽!すごい凄い!!』

『え、僕、デビューを目指せるんですか?』

(騙されてる?とかないよね?)

と、陽はキョロキョロとあたりを見回している。



『そうです。まだまだレッスンも必要ですが。本格的にやってみませんか?』


聞きたい事がたくさんあった。

本当の話なのか。今の生活のままできるのか。


『ただ、僕は今の生活はどうなりますか?』

『お仕事はジムのトレーナーさんですよね?レッスンなどの時間に合わせて勤務時間の調整とかは可能ですか?』

『それは多分大丈夫ですが。。。』



陽は色々と質問をした。

碧との生活は絶対に守って行きたい。


『ただ、彼女とこの今の生活は変えたくはないんです!』

『ま、私生活の事はまだまだ。。。。』


『まだまだ!あせらないの!陽。』

『そだな。ぜひやらせてください!よろしくお願いいたします!!!』

『良かったです!また他のメンバーや詳しい事が決まり次第ご連絡入れますね!』


松崎さんと連絡先の交換などをして、何度も何度も話をした。

そして、陽はプロダクション9の松崎さんにこれからの事をお願いする事に決めた。


陽がまた一歩、夢に近づいた。


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