第33話 ⭐病院⭐

電話の相手は碧の母親だった。

まだ会った事もなかったが、陽は何としても碧を早く落ち着かせてあげたかった。

『碧、お母さん迎えに来てくれるから、もう少し頑張ろう!ずっと一緒にいるから!』

陽は汗でびっしょりになった碧の顔をタオルで拭きながら、声をかけ続けた。


碧の呼吸が少し落ち着いてきた頃、近くに一台の車が止まった。

運転席から女性が慌てて走ってくる。

『碧!大丈夫?』

『おか、あさん?』

碧の母親は、陽の顔を見た。

『あなたが桜木くん?ありがとうね!』


陽は頷いて、母親に告げた。

『ご挨拶もしてないのに、突然すみません。碧、苦しそうで。無理させてしまってすみませんでした!』

ひたすら陽は謝った。

『桜木くんのせいではないよ、ありがとう。とりあえず病院連れていくわね!』

(碧は母親に似たんだな、優しいお母さんだ。)

陽は心の中で感じていた。


『碧、車まで行ける?』

と、母親に声をかけられたが答える余裕がなさそうだ。

碧は陽の上着をギューっと握ったままだった。

碧の母親もそれに気づいたようだ。

『あのー!僕も一緒に行きます!』

『じゃあ、車に乗せるの手伝ってくれる?』

『はい!』

陽は少しぐったりしている碧を抱き上げて車に運び、一緒に乗り込んだ。

『碧、病院にいくから。もう大丈夫だから』

陽は碧の汗を拭いたり、声をかけ続けている。

その様子を碧の母親はルームミラー越しに見ていた。

(碧は優しい人と出会ったね)

と、母親は少しホッとした。



母親の運転で病院へ向かっている。

碧はぼんやりとした意識の中で、陽に支えられている安心感を感じながらも震えていた。

そして気が付いた時は病院のベッドで点滴を受けていた。

(私、陽にまで迷惑をかけてしまった。。。)



病院の廊下にあるソファーに並んで座った。

碧の母親はペットボトルのスポーツドリンクを陽に手渡しながら話をした。


『桜木くん、だっけ。ありがとう。私も1人だと慌てちゃってダメね。。。』

『いや、僕も今回は少し怖かったです。知らない間に無理をさせてしまっていたのかもしれません。本当に申し訳ございません。』

陽は碧の母親に深々と頭を下げた。


碧の母親は首を横に振りながら、微笑んでくれた。

碧と同じような雰囲気を感じながら、陽はペットボトルのスポーツドリンクをゴクゴクと飲んだ。


『桜木くんがいてくれて良かったのよ。ありがとう。私は紙袋とか知らなかったし。』


『病気の事を聞いてから、少し知っておかなきゃって…調べて持っていたんで。一番辛いのは碧、さんなんで。』


『碧は何も言わないけど、中学の時はいじめられていたようで。ほら、女の子なのに背が高いし、運動は苦手だし。自信が持てなかったんだろうなぁ。家では見せなかったけど』


(やっぱり知ってたんだな。)

陽は何も言わない事にした。

『そうなんですね、、、』

『だから感謝してるのよ!サッカー部のマネージャーやり始めて明るくなったというか。毎日楽しそうなのよ。でもこれからも、今日みたいな事はたくさん起こると思うのよ。それでもいいの?』

ゆっくりと碧の母親の視線は陽へと向けられる。


『僕は碧から"嫌い"と言われるまで離れるつもりはありません。』

その言葉を聞いた母親は笑顔で言った。

『ありがとう。碧を宜しくね!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る