第61話 ⭐ポスト⭐
オーディションを受けてから、1ヶ月を過ぎた頃だろうか。
帰宅した時にポストを覗いてみると、封筒が届いていた。
テーブルには食事が並び、封筒が真ん中に置いてある。
『ねー、何か溢して汚れたら大変だよ!』
碧は、ハラハラしている。
『うん。。。開けるの怖くてさ。。。』
珍しく陽は不安そうな表情をする。
『まずは開封式しなきゃ!開けて開けて!』
『だな。』
陽は深呼吸をして封筒を開けた。
陽の目が少し大きくなり、少しずつうるうるとして、ニッコリと笑った。
『碧ー!1次審査合格だってぇー!!!』
『やったぁ!おめでとう!』
ふたりはハイタッチをする。
『ありがとう』
『夢への第一歩だ!』
碧も、目を潤ませながら目を細めて笑った。
『陽が歌手になったら凄いねー。テレビとか出ちゃったりするのかな。』
『それはもっともっと先の事だよぉー』
ふたりの楽しそうな声が部屋をより明るくしている。
『とりあえず、ご飯食べよう!』
『いただきます!』
ふたりは顔の前で手を合わせた。
食事をとりながら、いろんな話をする。
どうでもいい話も、今日のようなオーディションの話も。
もちろんこの先の、夢の話も。
『そっかぁ。でも今までいっぱい頑張ってきたもんねー』
ケガをしてサッカーを辞めて見つけた夢。
『初めて出会ってから、もう6年くらいになるんだな。碧はずいぶん可愛くなったよね』
陽は昔の碧を思い出していた。
教室でコソコソと陰口を言われ、背中を丸めていた碧が、今は目の前で別人のように背筋を伸ばして座っている。
それが陽はとても嬉しかった。
『なぁに?照れる!陽もすっごく。。。』
『すっごく何?』
碧は恥ずかしくて、少しだけ声が小さくなる。
『カッコ良くなって、歌も上手くて。。。』
『それから?』
こうゆう時の陽は子供のような顔をする。
昔から変わらない。
『。。。大好き。。。』
『珍しっ!めっちゃ嬉しすぎ!』
(もー、言わせた癖に。)
と、碧ははにかんでみる。
ずっとこのままでいられるのかな。
『人気者になってもそばにいてくれる?』
碧はお味噌汁を飲みながら、陽の顔を見ていた。
『ずっと一緒だよ!心配するなよぉー』
『うん。』
この頃の二人は半分だけ大人で。
でも、本気でずっと一緒にいると決めていた。
離れる事なんて考えもしない。
高校生の頃からいつも一緒にいたから。
それが当たり前だと思っていた。
(碧から嫌いと言われるまではずっと一緒にいて生きていくんだ。)
陽は思っている。
(陽の邪魔にならない限り離れない!病気で迷惑もかけちゃうけど、ずっとそばにいる)
碧も思っている。
『炊き込みご飯、めちゃくちゃ美味しい!』
陽はいつもの笑顔で美味しそうにご飯を食べている。
『良かった!仕事でメニューとか考えて勉強してるからね!栄養バランスはバッチリです!』
『頼もしいぜ!!!』
陽は嬉しそうに、炊き込みご飯を口いっぱいに頬張った。
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