第65話 ⭐異変⭐
碧はここ数日、何だか少し体調が悪かった。
発作はいつも突然やってくるが、何とかやり過ごしながら仕事をしていた。
(陽の緊張がうつってしまったのかな。。)
碧は何かいつもと違うようなだるさを感じていた。陽のオーディションの事で色々バタバタしてるから疲れてるのかな、と思っていた。
陽はオーディションに向けてレッスンに励んでいた。いつもより少し帰りが遅くなっていた。
『碧、待ってないで、ゆっくり休んでていいんだよ!
俺頑張るから、きっと夢を掴むから。碧は発作とか起きてるだろ?気を使って我慢してほしくないよ。』
陽は遅くなっても自分を待っていてくれる碧の事を少し心配していた。
『うん、ありがとう』
そして、陽のオーディションの日がやってきた。
いつものように、大きなおにぎりを持って。
『書類もった?鍵は?』
と忘れ物のチェックをふたりでする。
『行ってきます!』
『行ってらっしゃい!』
陽はオーディション会場へ向かった。
碧は陽の事をベランダから見送っていた。
オーディションに受かってほしいけど、寂しくなっちゃったりするのかな、なんて考えながら後ろ姿を見ていた。
と、その時だった。
(何だか気持ち悪い。。。発作かなぁ。。。)
くらくらとしてその場にへたりこんだ。
(どうしよう、何だろう。)
碧は這うようにして部屋に入り携帯を手にした。
陽はダメだ!
お母さん。。。発信したところで気を失ってしまった。
目を覚ますと病院のベッドに寝ていた。
『碧、大丈夫?』
『お母さん。私。』
『電話かけてきたのに何も言わないから慌てて家に行ったら倒れてたのよ!救急車で運ばれたの。』
母親は碧が目を覚ましてほっとしているようだった。
『陽には?』
『大事なオーディションだから、終わった頃に連絡した方がいいかなと思って。。。』
『うん、ありがとう。陽の邪魔になりたくないから。』
(良かった。とりあえず、陽は頑張っているんだ。)
碧は深いため息をついた。
母親は碧の様子を見ていた。
そして、少し躊躇いながら口を開く。
『それとね、碧。気づかなかったの?』
『ん?何?私、どこか悪いの?発作じゃないの?ね、お母さん??』
(何?何?)
こんな母親の表情を初めて見たような気がする。
碧は次の言葉を待っていた。
『発作もあるのかもしれないけどね、貧血だって。碧、お腹に赤ちゃんいるの。知ってた?』
『。。えっ。。赤ちゃん?私の?陽の?』
『そう。赤ちゃん。知らなかったの?
てことは、陽くんも知らないって事?』
(赤ちゃん?えっ、赤ちゃん?妊娠してるの?)
碧の頭がついていかない。
少しだけ考えて、碧は言った。
『お母さん、まだ誰にも言わないで!お願いだから、誰にも言わないで!
陽は今、大事な時だし。とりあえず、オーディションが落ち着いてから、ちゃんと二人で話をするから。お願い!』
(今はダメだ。)
母親には申し訳ないけれど、陽には今は黙っておこうと碧は決めた。
『碧、自分の体を大事にしてね!陽くんの夢も大事だけど、お母さんは碧が大事なのよ』
『わかってる。ごめんなさい。』
碧は母親の胸で泣いた。。。
(こんな時にどうしよう。。。)
でも、碧はどうしようもなく陽が好きだった。
どんな言葉で表現すればいいのかわからないけれど、愛するというのはこういう事なんだと、陽と一緒にいて感じていた。
陽との赤ちゃんが、私のお腹にいる。
碧はそーっとお腹に手を当てた。
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