第67話 ⭐病室⭐

走ってきたのだろう。汗だくで陽が病室に飛び込んできた。髪の毛は乱れていて、上着を持ったままで、リュックのファスナーは空いたまんまだ。

『碧、ごめん!ホントにごめん!』


碧は優しい笑顔で迎えた。

『何で謝るの、私こそ心配かけてごめんなさい。陽、オーディションどうだった?』

『え?あ、そっか。オーディション受けてきたんだった!忘れるくらい心配した』

碧の顔を見て安心したのだろう。

陽はベッドの横にある椅子に座った。


『私は今夜はお泊まりだって。明日診察して、何もなければ帰れるから大丈夫。』

『じゃあ、俺もここに泊まる!』

『無理よぉ!』

陽の思考はたまにズレる。

それが、陽のいいところでもあるが。

病院なので、それは許されない。


『陽くんも疲れてるんだから、家でゆっくり休んだら?』

碧の母親も声をかける。


『いえ!ここに泊まります!頼んできます』

そう言って病室を出ていった。


『お母さん、内緒にしててね。。。』

『わかった。なるべく早く話をしてね!』


碧は少し不安そうに母親に聞いてみる。

『お母さん、怒ってる?』


碧の母親は笑った。

『逆だよ。碧が新しい命を授かったんだよ!それも大好きな人の。嬉しいよ!』

『ありがとう!』

『お母さんは碧も陽くんも応援してる。』

『うん』


ガラガラーーー

陽は小さな子供のような顔をして戻ってきた。

『看護師さんに無理やりお願いしたらOKだってー!布団持ってきてくれるってさ!意外と病院は優しいんだな!!!』


碧と母親は顔を見合わせて驚いた。

母親はびっくりしながら笑った。

『ははは!陽くん、普通は無理よー!』

『へぇー。』

やっぱり、たまにズレている。


『陽くん、ご飯食べた?私は何か食べて帰るけど、一緒にどう?碧は病院食だから』

『あ、そっか。俺のはないのか。。。じゃあ、お母さんと食べます!』

『ふふっ、いってらっしゃい!』

碧はふたりに手を振った。


『食べたらすぐ戻ってくるから!』

『ごゆっくりー』

碧の母親は、気を遣って陽を誘い出してくれた。

(良かった、お母さん喜んでくれてるんだ。)

碧は強い武器をひとつ手に入れたような気がして嬉しくなった。



ふたりが食事に出たあとに、碧の食事が届いた。

『お母さんも心配してるし、体の為に食べれるだけでも食べてね!』

看護師さんが笑顔で言ってくれた。

『あと、彼氏?イケメンだねぇ!俺もお泊まりさせてください!!って!スゴい勢いだったよ!』


『お恥ずかしい。。。』

『あまりにも元気よくて。先生がたまたま見てて、静かに寝るなら許します!って言ったら、消灯時間になったらすぐに寝ます!って。先生も珍しく笑ってたよー。』

『すみません・・・』

(大丈夫よ)と笑顔を浮かべて、看護士さんは

言葉をかけてくれた。

『赤ちゃんの事、なるべく早く伝えてあげたら?神﨑さんの為にも、彼氏さんの為にも、ねっ。』

『はい。。。』

『食事が済んだら置いといて!後で見にきます。何かあったらこのボタン押してね!』

『はい。』

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