抜け殻の勇者 ~七つの美徳と七つの悪徳、七つの町を巡る旅~

倉井さとり

始まりなき悪徳

 これは、ほとんど空っぽの勇者の物語である。


 どうして、ほとんどかって?


 文字通り、元の中身は、ほとんどなくなっているから。

 そんなだから、勇者にはほとんどなにも分からない。ただ分かるのは、自分の中身がなくなっていることだけ。失くしたものの価値も大きさも、勇者には分からない。


 これは、失くしたものを探そうとする物語。


 失くしものは、見付からないことの方が多い。探し出すのだって一苦労だ。失くすくらいだから、そんなに大事なものじゃないことも多い。


 普通の人は、失くしものと探す手間とを天秤てんびんに掛ける。

 だけど勇者は失くしものが何なのかさえ分からない。だからいつまでも天秤てんびんは大きく傾いて、片方はずっと地を向いている。


 歩こう、失くしたものを見付けるために、下を向いて。それでもだめなら地を這って。

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