祭の町 怠惰勤勉
1
空には雨雲はおろか、
「雷だ……。やだなぁ」
「もしかして、怖いの?」
「うん。普通に怖いよ」
「なんで
「さすがの僕も、あれに打たれたら
「この辺りは多いらしいよ。
「そうなんだ……。少し様子見ようか?」
「雷くらいでビビりすぎ。大丈夫よ。それにほら、……」
そう言ってミュートはリュックを開けて、いくつかの紫色の魔石を僕に見せ付けた。
「いや、ほらって言われても……、なんの魔石?」
「
「ああ、それなら安心……」
「これで、あいつに勝てる!」
「なるべく、
「ふふふふ……」
ちなみにミュートはそよ風の町で自分の服を
祭の町。
この町で常に感じたのは音だった。
大勢の掛け声、誰かの歌声、
僕たちを最初に
「お祭りやってないじゃん!」
「いや、僕に言われたって……」
町に立ち入りしばらく歩いてみても、祭りなんてやっている様子はなかった。人影はまばらで、見掛ける人は、お祭りとはほど遠いような暗い顔をしていた。
「ははーん。分かっちゃった。こういうお祭りなんだわ」
「そんなわけ……」
「きっとそうよ。二百年もやってるからだんだん難易度があがったのよ。多分、上級者向けの祭りなんだわ。だって……」
僕はうわ言を続けるミュートを置いて、近くの人に声を掛けてみた。
「あの、すいません。ちょっとお聞きしたいんですが……」
「はい……なんでしょう……」
声を掛けた女の人は、声から
「お祭りをやっているって聞いたんですが……」
「えぇ……やってますよ……
「えーっと……」
「あぁ、ごめんなさい……ここじゃなくて、……町の外……いいえ、町の
「
「……ここはね、祭の町じゃないのよ」
「え?」
「ここは……
「え……? じゃあ、祭の町は……? この辺りに、町はここしかないって聞きましたけど……」
「ごめんなさいね……。はぐらかすつもりはないのよ。……外から見るとここは大きな町に見えるでしょ? でも実際の
「あくまでも別々の町なんですね?」
「ええ。
「町の中に町があるってことですか。でも、
「犯罪者……?」
僕の言いたかったことを先回りすると、女の人は短く
「……あの人たちはそんなんじゃないわ。……ただの引きこもりよ。自らの意思であそこにいるの、人のことなんか何にも考えずにね。……多分、あの人たちは世界が
「な、何です?」
「戻って来られなくなるかもね」
僕の
「……何人も見てきた……あの町は年々人が増えていくんだから……あんなに人が死ぬのに……。は……? ……? ……へ? 私の主人はね、あの町に殺されたようなものなのよ? 分かる? 分かってる? は……? え……?」
「え、え? だだ、大丈夫ですか? なんだか顔色が……」
女の人の顔は真っ青で、口を少し震わせていた。
「ごめんなさい……平気よ。それより本当に気を付けて……」
「……分かりました」
「いい? あの町では、心から笑わないこと。戻って来たいのならね」
そう言い残すと、女の人はふらふらとした足取りで近くの建物に入っていった。
「なに、ナンパなんかしちゃって! 祭りだからってはしゃぎすぎよ!」
突然、後ろから声を掛けられた。誰だろうなんて考えるまでもなく、それはミュートだった。
「違うよ……どうしたらそう見えるの……」
「で? やっぱりこういうお祭りだったわけ?」
「まだ言ってる……。違うよ、えっとね、ここは祭の町じゃなくて……」
僕はたった今聞いた話を簡単に話した。
「そんなことだろうとは思ったわ」
「……」
「なによ?」
「いや、さすがミュートだと思って……。なんかきな臭いよね」
「いいじゃん! 祭りならスリルはあっていいよ! 早く行こう!」
僕たちは祭の町に行こうと、
町は高い
近付く内に
軽快だけど何処か独特なリズムの音楽は、聴いていると不思議な気持ちになる。そのせいなのか、まるで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます