13
「早死にって、
ミュートは歩きながら頭の後ろで手を組んでいた。その
「そう思わない?」
「まぁ
「半分になったわけよね」
「半分?」
「つまりさ、今までは
「確かに考えようによっては……でも、つまりそれってどういうことになるんだろう?」
「どうにもならないよ、ただいい加減な
「確かに
「そう? ケーキじゃあるまいしさ、『はい、今度からは半分』なんてことできないよ。……あーケーキ食べたぁ……」
そう言いながらミュートはお腹をくねらせた。
変なダンス? を終えるとミュートは両手を
「見てなさい」
ミュートは少し恥ずかしそうに言い、右手に小石を2つ握り込み、腕を大きく振り被ると、横に振り抜いた。2つの小石はまったく違う方向に飛んでいき、それぞれ違う木に命中し
「……すごいね、まるで手品みたい」
「ふふ、でしょ?
「……
「そんなことより、キレイなもんだね、道」
「ん? 確かに」
風がやんだ後は、温泉までの道に、動物の
「絶対転がってるみたいな
「さぁ知んないよ。たまたまじゃない?」
「でもよかった。僕、なんだか
「
ミュートはコロコロと笑っていた。けどそれを急に引っ込めてこんなことを言った。
「元から毒ガスなんかなかったりしてね」
「えっ……」
「なんてね。冗談よ。それよりほら、着いたよ」
「変な気……起こさないでよ」
「うん! もちろん!」
「なんでそんなに、元気に
……あの黒鎧みたいな目に
ミュートが温泉に入っている間、僕は壊れた
「ねえ、サンデー」
思いのほか声が近くて、少し驚く。
「どうしたの?」
何だか胸がドキドキしてしょうがなかった。さっきは、直接裸を見てしまっても平気だったのに、どうしてだろう? 今の僕には心臓だってないはずなのに。感覚だけは当たり前にあるから本当に
「明日の昼前にはこの町を出よう」
押し殺したようなミュートの声は、ものすごく真剣だった。
「えっ……? そんなに早く? もしかして何か気になることでも……」
「この温泉、旅人には毒ねぇ。
「あっそ」
「え?」
「あ、ごめん」
「びっくりしたぁ。いきなり
「ごめん、ごめん。ところでさ、次の祭の町までは遠いの?」
「ううん、道は
「どんな町なの?」
「その名の通り、お祭りが
「ふーん、お祭りかぁ。やってるといいね、お祭り」
「ふふ、心配いらないわよ」
「ん?」
「
「
「そう、1日も休まずにね」
「なんかすごいね」
「でしょ?」
「そんなにたくさん
「なんでも、ずっと町の誕生を
「誕生って……えっそれ本当なの?」
「さぁ私も行くのは初めてだから、よく分かんないわよ。でも
「じゃあ、1日に何個もお祭りがあったりするんだ……」
「そう。つまりそこでは
「
「何年なんてもんじゃないわよ。二百年前からやってるって話よ」
「二百年!? 二百年ってあの二百年?」
「どの二百年よ……そうよ二百年」
「なんだか、行きたくなくなってきたなぁ」
「どうしてよ。いいところらしいわよ。食べ物はおいしいらしいし、
やっぱり一番はそこなんだ……。
「でも、そんな楽園みたいなところホントにあるのかなぁ」
「夢がないわねぇ」
「だけど、空気がおいしいのはいいね。ここはずっと風が吹いてて息をしてる気がしないから」
「はは、そうかも。多すぎてもダメなんだね」
「何ごとも、ほどほどが一番だよ」
「そんなこと言ってると、早死に、するかもよ」
「や、やめてよ……」
「ははは、冗談よ。……さて、そろそろ上がろうかな。話しすぎちゃった。のぼせちゃいそう……」
「だ、大丈夫?」
「ヘーキヘーキ。……こっち来たら、早死に、だからね」
「分かってるよ……」
ミュートの
「あー、風が気持ちー」
ミュートは両手を広げて風を受けていた。おじさんに準備してもらった服の長い
「これはいいね。このために風が吹いてるっていってもいいね!」
ミュートは見てるこっちが楽しくなるくらい、
「サンデーもそう思わない?」
笑い掛けるミュートの髪はいつもよりさらさらで、こんなに暗いのに輝いているように感じた。
「うん、そうだね」
僕は温泉に入っていないからその気持ちよさは分からなかったけど、なぜだかそう返事していた。
翌朝、僕たちはミュートが言ったように昼前、というよりまだ朝の早い内に町を出た。
「よかったら、またいらしてください。いつでもお待ちしておりますよ」
こんなに早く出発するのに驚きながらも、おじさんはにこやかに見送ってくれた。思えばおじさんは、僕がずっと鎧姿なのに理由を
「はい。いつか必ず」
いつか、身体を取り戻して、今度はちゃんと温泉に入って、おじさん
「おじさん、いろいろありがとね!」
大きく手を振るミュートに
まだ
町を出ると風はより
「んなー! 飛ばされるー!」
「楽しそうだね」
「んなわけないでしょ! 場所変わって!」
「はいはい」
僕を風よけにしてミュートは少し落ち着いた。
「あれ見て」
ミュートは風の吹く方に向かって指を差した。見ると遠くの森の中に、大きなお城が建っていた。城はただ大きいだけじゃなくて、横に広がっていた。おそらく元からあったお城を
「あの城から風が出てるのね」
城から町に掛けて、森が
「なんか不気味だね。海賊船みたい」
「んん? まぁ見えなくもないわね。ふふ、森に浮かぶ船? 素敵じゃん。この風さえなければね! ちょっと、
「ごめんごめん。どうしよう、
「……。いいえ。やめときましょ。風が止まったのが、もしあいつの
「そっか。そうだね。付いてくるなって言ってたし。寄り道はあいつの思うつぼかもね」
「逆のことしてやりましょ」
「また、あいつ来るかな……」
「まぁ、来るでしょうね。ふふふ……」
「な、なんで嬉しそうなの?」
「そんなわけないでしょ。来たら今度こそ爆発させてやるわ」
「なんか
「さて、どうかしらね……ふふ……」
温泉に入ったからだろうけどミュートの顔はやけにつやつやしてて、そんな顔で
そうこうしている内に風の流れから抜けたのか、風は次第に弱まっていった。ただそれだけで、町を後にしたという感覚が強く胸に立ち上ってきた。振り向けばすぐそこで町は風に吹かれているのに。
いなくなってしまった人たちはどこに行ってしまったんだろう。
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