12
それから僕たちはこれからの旅について話し合った。お互い手掛かりはほとんどなくて、僕が耳にした、祭の町で魔女を見掛けたという噂だけが
ミュートはリュックから地図を取り出すとそれを広げて、どう進めば
「うーん、まず、祭の町でしょ、砂の町かぁ……、まぁ
「
「ん? ああ、なんでも魔女の出身地らしいよ。と言っても何百年も前の話だから、なにがあるってわけでもないんだけどね。誰も住んでないらしいし」
「誰も住んでない? 町なのに?」
「確かに……まあ、多分、行けば分かるよ。……行かない内に旅が終わるかもだけど」
「うん?」
「とっても遠いから」
「そうなんだ」
「
「じゃあそこで残念会だね」
「
「そうだね」
「美味しいものでも食べながらさ」
「うん」
その時、突然、
だから、本当は安心していいはずなのに、実際に鳴っていた
「どうしたの?」
「ううん、ただ、急に収まったから、びっくりしちゃって」
「ビビりだなぁ、もしかしてサンデーは少しうるさくないと、眠れないタイプ?」
「案外そうかも」
「
「えーっと……」
「
「あれ……?
「これって、もう外に出ていいってことなのかな?」
「えっ、どうなんだろう……」
「それとも、とりあえず風は出るようになっただけで、まだ毒ガスは消えてないのかな? どれくらいで押し戻してくれるんだろ」
「もしかして今から外に出るつもり? ……飲食店は閉まってると思……痛っ!」
いきなりテーブルの下で、すねを蹴られた。その瞬間、ミュートは机の上に顔を
「くくうぅ……あんたの
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないわよ……。ていうかあたしはそこまで食い意地張ってない。そりゃあクッキーじゃ物足りないけど」
あんなに食べたのに……?
「ただ、こんなに
「あー……そのまま来ちゃったもんね」
「ベット汚しちゃったら悪いしさ」
「おじさんに聞いてきてあげるよ」
「ホント?」
「うん。任せて。あっ、ちなみに夜食もお願いし……っ痛!」
「うくくぅぅ……。もう! あんたの
「あ、あの、お、お客様……?」
突然、ドアのノックと一緒におじさんの声が聞こえてきた。
「夜中ですので、お静かにお願い致します」
僕は慌てて立ち上がってドアを開けた。
「ごめんなさい……!」
「
「本当に申し訳ありません……。あっあの……」
「どうされました?」
「
「はい、大丈夫ですよ。丁度それをお伝えしに
「あっそうだったんですね。よかったぁ」
「ですので、ご安心して
「あー……」
「はいっ? どうされました?」
「今からお風呂入ることって……できたりします?」
「今からですか? ええ、まぁ、構いませんが……?」
「
「そういうことでしたか。こんな時ですからよろしいのに。ですが、まぁ、構いませんよ。しかし……」
「はい……?」
「なるべくなら、ご一緒に行かれた方がいいでしょう」
「ぇ……?」
僕たちは追い風を背中に受けながら温泉への道を歩いていた。
ミュートはいきなり
「別に付いてこなくてよかったのに。今から戻ってもいいよ?」
「でもなぁ、あんな話聞かされたらなぁ」
「あんなのただの
おじさんが部屋に
「着替えなどもすぐにご用意いたします」
「ありがとうございます。あっ、僕の分は結構です。僕は
「いえ。こんな
「えっ!?」
「お客様、お静かに……」
「すす、すいません……でも僕たちはそういう関係じゃ……」
「おや、そうでしたか、私はてっきり……」
「違います違います!」
「ちょっと否定しすぎでしょ! 何かムカつくんだけどお!」
ミュートは廊下に反響するんじゃないかってほど大きな声を出した。
「お客様……」
「ご、ごめんなさい……」
僕は何だか嫌な予感がした。
「あの……もしかして、だから一緒に行った方がいいなんて言ったんですか?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
「え、なら、どうして……」
「昔からこの町では、こんな風にいいます。……
「なんです、それ?」
ミュートは
「ふふ、
おじさんは更に面白そう。
「……その昔、
「消えた?」
建物が細長く作られているせいもあって廊下も長く、
「それってただ毒ガスに
ミュートはいかにも
「まぁ、その線が
「え、記録? これって、実際に起こっていることなんですか?」
「と言いましても大昔の記録ですがね」
「なんだ……」
「ですが、残っている記録の中の被害者はみな女性だったりします」
「え」
「それも
「やめてくださいよ」
「はは、失礼しました。町の若い者はこういう話に乗ってくれないもので、つい面白おかしく。まぁご安心ください。もっとも
「50年って……意外と最近じゃないですか、何百年も前かと思ってましたよ」
「おや、そうですか? 町の若い者に10年そこら前の話をする
うーん、多分だけど、おじさん昔話とか好きそうだから、若い人たちは何度も聞かされて
「
「百年?」
「はい。
「まぁ、いいことじゃないですか」
「そうですね。町の者が
「え? ……ああ、確かに百年くらい前ですよね、魔石が本格的に一般に
魔石は二百年前に生まれたけど、最初の百年はまだまだ数も少なかったし、技術も進歩していなかったから、一部のお金持ちしか持てない
「そうですね、私たちの生活はもはや魔石なしでは成り立たないでしょう。しかし魔石はこの世界の
「
「ええ、世界はますます
「それはいけないことなんでしょうか」
ミュートの口調はなんだか
「どうなのでしょうね。私にも分かりませんよ。良いことも悪いこともたくさんあるのでしょうね。ただ、私は何となく寂しいと思ってしまうのです」
「寂しい、ですか?」
「
「そんなこと……寂しくないっていうのは大事だと思います」
「ありがとう。しかしまぁ
「あれ?」
僕はずっと2人の話を黙って聞いていたけど、ふと疑問が頭を
「どうされました?」
「すいません。いや、ただ、そんなに昔のことならあまり気にしなくてもいいんじゃないかと思って……みんな忘れ掛けて、50年起こっていないなら……」
「私もまさか本当に
「え、じゃあどうして?」
「
「よく意味が……」
「
「何ですか?」
「若者の中ではこんな
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