6
朝の遅れを取り戻そうと急いだ
町に近付くに
町の入口にはアーチ状の看板があり、大きく『ようこそ、そよ風の町へ』と書かれていた。
「さっそく情報収……」
「まずは、温泉よね」
そんなやり取りをしてる間も風は吹いていて、ミュートの髪は前に向かってサラサラ揺れてその横顔を隠し、首に巻いている赤いスカーフも強くはためいて、今にも飛んで行きそうなくらいだった。
僕たちはアーチを
ぼんやりと
当てもなく町を
「あっ、ここなんか、いいんじゃない? こだわりの料理と温泉だってさ」
目を向けるとそこには小さな宿屋が建っていた。結構歩いたせいかいつの間にか町の外れに来ていたらしい。火山がまるでこちらに
宿の中に入ってみたけれど受付には誰もいなかった。辺りを見渡してみるが
「ごめんくださーい」とミュートが
「……はいはい、どうされました?」
受付の奥から出てきたのは
「どうって……あの、こちらに泊まりたいんですが、もしかして今日は休みですか?」
「いえいえ、申し訳ございません。この時間からのお客さまは珍しいものでして……」
「珍しい? 宿なのに?」
「えぇ、この町は昔から早寝が
と宿屋の人は感じのいい笑顔を浮かべながら説明してくれた。そしてカウンターの中から
「早寝ですか……。なんか健康的ですね」
と気の抜けた声でミュートは言った。
「えぇ、温泉の町ですから」
「そう、温泉! 温泉ってまだ入れますか?」
「えぇ、もちろん。ただ……」
「よし……! じゃあ、さっそく!」
「……あの、」
「分かってますってぇ、長風呂はしませんから。ササっと入って、パパっと寝ちゃいますから! サンデー、あとはよろしくね」
「あ、ちょっとお客さま!」
宿屋の人の声ももはや聞こえていないのか、ミュートはそのまま廊下の奥へ消えていった。廊下の天井には、分かりやすく『温泉はこちらです』と書かれた看板が吊るされていた。
「なんだか、すいません……」
「……あ、いえ、大したことではなかったので」
「というと?」
「もし
「
「風がやむ、それだけです」
「はぁ……?」
「ですから
「風がやむと……なにか困ることが?」
「えっ? ああ、とするとご存知ないのですか?」
「何がです?」
「この町に風が吹いている理由です」
「理由? 風に理由なんかあるんですか?」
「ええ。毒ガスから町を守るためですよ」
「ど、毒ガス!?」
そこで宿屋の人は声を殺して笑った。僕の反応が可笑しかったのだろうか。
「この町は誰かと戦っているんですか?」
宿屋の人は
「……すいませんね。失礼致しました。戦っているといえば、確かにそうですね。ただ……」
「ただ?」
「誰かではなく、私たちが戦っているのは火山ですがね」
「火山? あ、もしかして、毒ガスって」
「はい、お
「なるほど、それじゃあ風は毒ガスを弾き飛ばすためなんですね」
「はい。風がやむとこの町は毒ガスに
「大変だ。早くミュートを呼びに……!」
「ああ、お客さま!」
「な、なんですか……?」
「ご安心ください。
「故障なんていつ起こるか分からないじゃないですか……」
「まぁそうですね。ですから近年では定期的に送風設備のメンテナンスがされています。メンテナンスの際は、数週間前には町長から
「なんだ……よかった……」
その時突然、後ろから重たいような低い音が一つ聞こえた。
振り返り耳を向けると、それは店の入口、つまり外から来ていると分かった。
音は徐々にけたたましく響き始めた。反響を繰り返すその音は、なんだか
向き直り宿屋の人の顔を
「あ、あの、これは……?」
「……た、たい、へんだ!」
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