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花火が上がって祭りは
「なんだか想像以上だね。特にこの辺りは」
「そうね。中に入り込むほどつまらなくなる。お祭りは、
「確かに、そうかも」
少し歩くとすぐに事務所は見付かった。テント
声を掛けても反応がなかったので、僕たちは恐る恐る建物に入っていった。内装も外と同じで
「突然、お邪魔してすみません……」
声を掛けながらその人に近付く内に気が付いた。
「ん? ああ客人か? 珍しいな、こんなところまで来るなんて、普通はビビって逃げ帰るんだが」
高くて張りのある声だった。
「ようこそいらっしゃい、お祭りの町へ」
上半身は裸で
「あ、ありがとうございます。それでその、団長さんに会いにきたんですが……」
「ああ、そりゃあ俺だな」
なんとなくそんな気はしてた。なんというかこの人だけ、他の人とは明らかに雰囲気が違った。姿を見るだけで空気が変わるようで。目が合うだけで言うことを聞かなくちゃいけなくなるような、そんな気持ちにさせられる。
「お
いきなりそう
「お熱いね」
僕たちは慌てて手を離した。
「これは、違うんです、そういうのじゃないんです。そういう関係じゃないんです。信じてください!」
「ちょっと! いくらなんでも否定しすぎでしょ!」
「痛!」
ミュートは
「はははは! 立ち話もなんだ、まあ座れよ。
そう言って腰を下ろす団長に僕たちもならった。すると、すぐに団長は、ズボンのポケットから
「心配いらねえよ。少量じゃ
その声を受けてミュートは座り直した。おしり一つ分くらい
ミュートをじっと見ながら、団長はマッチを
「やっぱり、あの木からできてるんですね?」
気まずい空気を何とかしようと僕はそう質問した。質問選びに失敗したと思ったけど
「ああ、
煙に目を細めながら、さも
「松? それってホントですか?」
ミュートの声には少しだけ
「その前に、あんたらの名前を聞かせてもらえると嬉しいんだが」
「お邪魔しておきながら、名乗らせるばかりで名乗りもせずに申し訳ありません。私はミュート・フレイザーです」
はきはきと丁寧に喋ってはいるけど……ものすごく態度が悪い感じだ……。というかミュートのファミリーネームは『フレイザー』っていうんだ。初めて知った。
「僕はサンデーっていいます」
「よろしく、お二人さん。で、松だったか? あれは
「松があんなに大きくなります?」
すかさずミュートが言った。
「奇跡だろ?」
「魔法では?」
「同じだろ?」
それきりミュートは黙ってしまう。団長はゆっくりと
「あの、えっと……あ、そういえば、なんとお呼びしたらいいですか?」
「カシヤでも、トーキングでも好きに呼んだらいいさ」
「えと、じゃあカシヤさんで。それであの木の
普通はあんなに大きくならないそうだから、きっととんでもない年数を生きているんだろう。
「およそ二百年だ」
「え? 二千年じゃなくてですか?」
「二百年」
「……魔法じゃん」
とミュートは一言、ぼそっと呟いた。
「あれ? 確かこの町の
「ああ、二百年続いてる」
「もしかして、なにか関係あるんですか? 町の
「関係は
「あれでも……」
「まあ聞け。今から二百年前、この町は
そんなご
「じゃあ、この町のお祭りは、松への
「……まぁ、そういう
「というと?」
「
「
「ああ。おぎゃあと産まれて、俺たちはまだ泣きやめねえのよ。松に
……
「そこまで分かってて」
ミュートは急に団長の話を
「どうして、そうしないんです? この町には小さな子供だっているのに……」
「それがほいとできたら苦労はないさ」
「苦労?」
「ガキのおもちゃを無理に取り上げたらどうなる? それと同じさ。おもちゃはな、自分で卒業しなきゃなんねえのよ。この町全員を卒業させなきゃなんねえ。納得させなきゃいけねぇんだ。そのための祭りよ」
「どういうこと?」
「そういう取り決めなんだよ。この町の全員が納得できるような祭りをぶち上げられたら、
俺たちは祭りを終わらせるために、お祭りをやってんだ。笑えるだろ?
「い……命を
低い声でミュートは言った。何故だかミュートはやけに団長に
「人の命はそんなに軽くない。それに
団長は怒って言い返すと思ったけど、ただ
「
団長の笑った顔が怖い。多分、僕たちが殺されるところを想像してるんだ。
「まあ、切ろうとしたところで
そこで言葉を切って、団長は自分の
「もう
団長の目はぎらついていた。
「それで? それが終わったらどうするの?
「はは。それも面白そうだが、こんな言い伝えがあるんだ。ぶち上げた
「そんな、おまじないじゃあるまいし……」
「お祭りみたいだろ?」
団長の言葉を受けてミュートは
「終わらせられる
「希望がねえわけじゃねえさ」
「それは?」
「俺だよ」
「……え?」
「俺が希望の星なのさ」
「あーー」
「言葉を探さなくていい。ただの
「
「俺の身体はバカなんだよ。松の
僕は、この町のこともお祭りのこともよくは分からない。なのになぜか、この人ならやってみせるんじゃないかって思えた。
「それで?」
「え?」
「聞きたいことは聞けたかな?」
「……は、はい。勉強になりました」
「そりゃ何より。あんたらは
少しあって僕は思い出す。ここには情報収集をしに来たんだった。
僕は魔女を探してること、ミュートはいなくなった恋人を探していること、僕の身体や記憶のこと、祭の町で魔女を見掛けたという
「ほう、それは
「
正直、分からない。どんな
「まあ、しかしよ、その
「僕はただ身体を戻してもらいたいだけで……!」
「……そうは言うがな、魔女さまの
奇跡の
「協力はできないということですか?」
「そうは言ってねえ。まずは仲良くすることから始めてみましょうってことさ」
「つまり、どうしたら……?」
「そう、せっつくなよ。こう見えて、俺は
「……」
「……まあ、話は分かった。今日のところは帰るんだな。今日はあんたらの
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