「それって何かの冗談?」


 焚火たきびの向こうでミュートが言った。

 僕たちはお互いに名乗り合った――僕はその場でもらった名前だけど――後、日が落ちてからも、暗くて何も見えなくなるまで歩き続けた。今夜は野宿のじゅくをして、明日の早朝そうちょうからまた歩き始めることになった。ミュートいわく、そうすれば明日の夜には、そよ風の町にギリギリ辿たどり着けるかもしれないらしい。

 これからの予定を話しえて、さてご飯にしようということになり、僕は魔石しか口にできないことをミュートに話した。

 それを聞いたミュートの反応がさっきの言葉というわけだ。


「いや、本当なんだ」


「いくら食料しょくりょうの魔石といっても発動前はつどうまえはただの宝石ほうせき、言っちゃえば石コロでしょ?」


「なんて説明したらいいのかな」


「投げ付けるなり、衝撃しょうげきを与えるなりしなきゃ、食べ物にならないでしょ? こうやって」


 ミュートはひらの上に食料の魔石を乗せると、反対の手をそこに振り下ろした。その瞬間しゅんかん宝石ほうせきが消えて、わりに料理りょうりが現れる。別に僕は魔石の使い方が分からないわけじゃない。

 うーん、やっぱりいちから説明しないと分かってもらえないかな……。


「えっと、まずね」


「うん?」


「このよろいなかなんだけど」


「ていうか、食事のときぐらいぎなよ」


「それができないっていうか……」


「何よ? はっきりしなさいよ!」


「中身がないんだ」


「そんなわけ……うわ!」


 僕は顔のバイザーをパカッとひらいてみせた。


「えっ? 中身ないじゃん!」


「うん」


「うんじゃない! 心臓に悪いわ!」


 ミュートは頭の回転が速いのか、てばひびくどころか、気味ぎみで反応してくれるから、すごく話しやすかった。そのせいか、僕はいつのにか、自分のことをつつみ隠さず話してしまっていた。


「ごめん、驚かせて……」


「いいけど……これってどうなってんの?」


「うーん」


「あ、ごめんね。聞いちゃいけなかった?」


「いや、そんなことない。ただ信じてもらえるか分からなくて」


「いいから話しなよ」


「うん。このよろいなかにはたましいの魔石が入ってるんだ」


たましいの魔石って……そんなバカなこと……」


 ミュートの顔は心なしか青ざめているようだった。


「だって……生き物を生きたまま魔石にすることはできないはずでしょ……。人間の、それもたましいだけを? しかもどうやってよろいたましいうつしてるの?」


「それが分からないんだ」


「分からない? 好きでそうなったわけじゃないのね?」


じつを言うと僕には記憶がないんだ……って言うと語弊ごへいがあるかな、自分が誰で、どうしてこうなったのかが、分からないんだよ。物の使い方とか、常識じょうしきは分かる」


「……いや、常識じょうしきもなかなか奥深おくぶかいよ。……それはともかく、日常生活は送れるわけね?」


「まぁなんとかね。それで僕はある人を探してるんだ。この身体のことを知るために」


「魔女ね」


「どうして分かったの?」


「そりゃあ、そんなことできるのはこのに1人しかいないもの」

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