「……は?」


「え?」


「……今さ、なに、なんて、言ったの?」


「いやだから……突然とつぜん、魔女になったんでしょって」


「違う、そのあと」


「……え? ……むらすくうために、自分の命をしたって……」


「……私が? 自分の命を? は、はは……でたらめ言わないでよ……そんなことしてない……そんなこと好きじゃない、きらい。私が命をした? 違うよ! そんなことしてない! 私は殺されたんだよ!!」


 ハックを退け、一歩いっぽ前にし、魔女はさけんだ。


「……馬鹿ばか言わないで、好きじゃない、やめてよ。……そんなの少しも好きじゃない……私が好きなのは……。無理矢理むりやりだよ、勝手かってにだよ、死ぬまでずっといやだった、死にたくなんてなかった、大人おとな勝手かってに決められたんだよ、むらのみんなに勝手かってに、無理矢理むりやり殺されたんだよ。……もう決まったって言われて。もう決まった? はあ? 誰もたすけてくれなかった、おや親戚しんせきも誰も。ただ友達ともだちが泣いてくれただけ、それだけ、たったそれだけ。むら意見いけんだからって、おまえ綺麗きれいだからって、おまえわかいからって言われて、……私は無理矢理むりやりあなそことされたんだよ!!

 ……私は一生いっしょう、パパとママをゆるさない。私をたすけてくれなかった。そればかりか、パパとママは2人で、私をあなそことした。私はパパとママに殺されたのよ。……おまえおやであることをほこりに思うってどういう意味? は? はあ?

 やば、やばいよ……。あんたら見た? パパとママの顔。見てないなら、1回見た方いいよ。パパとママさ、まだあなふちに立ってるから、……ここに来るまでにみずうみとおったでしょ? そこにいるから。見た方いい、やばいから……は、はは、やばいから……」


 あのみずうみは星の落ちたところだったんだ。多分たぶんあな雨水あまみずまって、みずうみになったんだろう。


「……あれがむすめを殺したおやの顔かよ!! なによ、あの顔、うれしそうに、は、は、ははは、なに、あの気持ち良さそうな顔、……は……まるでエッチでもしてるみたいじゃない、なに、あの顔、ほこらしげに、なによ、あれ、さも、いいことしましたよ、みたいな、ただしいことしましたよ、みたいな、ははは、やばいよあの顔、永遠えいえんに見ていられるよ、きないもん、何百年なんびゃくねんったって、少しもきない、なんで、あんなゾクゾクした顔してるわけ、……できるわけ、やばいよあの顔、なにあれ、なに、あのりた顔、やばい、やばい、やばい、やばいよ……。あれが私のおや? あんなのが私のおやなの? ……ふふ、あははははは! やば。やばい。やばいよ……。

 パパとママは言った。私たちがんだんだから、おまえの命は私たちのものだって。私たちがいなかったら、おまえまれていなかったんだぞって。それを考えろって、頭をやして、しっかり考えろって。……やばくない?

 村長そんちょうまわりの大人おとなが言った。おまえの命はみんなのものだって。おまえは死なない、おまえは私たちのなかき続けるって。全員ぜんいん死ぬはずのところを、おまえの身体ですくえるのだから、それはおまえきているのもおなじことだって。むしろ、よりとくたかせいいたれる、名誉めいよなことなんだよって。それを考えろって、冷静れいせいになって考えろって、考えて考えて考えけって。……やばいよね?

 ただ、おまえ枝分えだわかれするにぎない。おまえ植物しょくぶつになるんだ。たくさんのおまえになるんだ。おまえ総体そうたいは変わらない。命のおもさは変わらない。それどころかそれはさらえていく。おまえはみんなにいて、子々孫々ししそんそんまできていくんだよ。養分ようぶんいながら、おまえ総体そうたいはずっとえ続けていくんだよ。おまえはこれから宿やどになるんだよ。永遠えいえんきられるんだよ。……やばすぎない?

 おまえせいは、これからすばらしいものに変わるんだよ。だから、おまえのそのいかりは、場違ばちがいで、不相応ふそうおうで、ずかしいことなんだよ、意味のない感情かんじょうなんだよ。おまえ植物しょくぶつなんだよ。おまえはこれから、永遠えいえんに恋をしてきるんだよ。それは不幸ふこうとは無縁むえんの、幸福こうふくな恋なんだよ。おなかたされ、ねむりながら、恋をする。

 すべてがたされたそこでは、感情かんじょうなんかいらないんだよ。いかりなんていらないよ。もうべられない、おなかがこんなにあたたかい。いかりなんていらないよ。微睡まどろみは至福しふく賛歌さんかいかりなんていらないよ。初恋はつこい芽生めばえ、成熟せいじゅくした恋のいつくしみ。いかりなんていらないよ。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。いかりなんていらないよ。おまえ太陽たいようびるのが大好き。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。おまえほか植物しょくぶつが好き。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。からませるくらい大好き。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。ませるくらい大好き。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。その中身なかみをすするほど大好き。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。ひとつになるくらい愛してる。太陽たいよう微笑ほほえんでいるんだもん。

 太陽たいようはずっと微笑ほほえんでいてくれるって。私はほか植物しょくぶつが好き、からませるくらい、ませるくらい、その中身なかみをすするほど、ひとつになるくらい愛してる。ずっと微笑ほほえんでくれるなら、私は太陽たいようびるのがずっと大好き、永遠えいえんに続けるよ、太陽たいようが好きなのを、好き、大好き、愛してる、私は宿やどだから愛してる、宿やどはお日様ひさまが大好き、私はひかりが好き、微笑ほほえんでくれるから、愛されたら愛せずにいられない、ひとに言われるまでもない、私は太陽たいようびるのが好き、私はもとから好きだった、ただ声に出していなかっただけ、好き、好き、私は植物しょくぶつが好き、太陽たいようだって大好き、どっちも愛してる、2つの関係性かんけいせいが好き、私は宿やどが好き、太陽たいようが好き、みんなが大好き、ほか植物しょくぶつが好き、好きだよ、大好きだよ、愛してるよ、私は太陽たいようびるのが好き、キスをしてほしい、私はほか植物しょくぶつが好き、キスをしたい、永遠えいえん口付くちづけがしい、永遠えいえん口付くちづけを受け取ってほしい。

 あばらがれるくらいめて、いたくないように優しく手足てあしはずしてよ、私の右足みぎあしはお日様ひさまひかりが大好き、薬指くすりゆびを受け取って、私の腰骨こしぼねほか植物しょくぶつが好き、私の左目ひだりめ太陽たいようびるのが好き、もっと優しくはずして、私はキスが好き、私のくちびる日光浴にっこうよくが好き、くび丁寧ていねいはずしてほしい、私のしたはキスが好き、私の心臓しんぞう初恋はつこいが好き、私の胃袋いぶくろべるのが大好き、私のゆび恋人こいびとゆびが大好き、私は太陽たいようびるのが好き、私の親指おやゆびねむるのが大好き、みんなのことが大好き、私はほか植物しょくぶつが好き、私のあばらはめられるのが大好き、いたいのは好きじゃない、優しくしてほしい、私はその関係性かんけいせいが好き、大好き、愛してる、優しくねじってほしい、いたくしないでほしい、私のほっぺはうのが大好き、私ののうみそはねむるのが大好き、私の皮膚ひふ太陽たいようびるのが好き、私はその関係性かんけいせいが好き、私はなにもかもが大好き、好き好き、大好き、愛してる、愛おしいの、私は太陽たいようびるのが好きだし、ほか植物しょくぶつが好き、目隠めかくしも大好き、さるぐつわだって大好き、空腹くうふくも、ながいお説教せっきょうも、くら部屋へやも、友達ともだち悪口わるぐちも、手足てあししばられるのだって大好き、自分の汚物おぶつうえで寝るのも好き、私はたかところが好き、私はひかりが好き、私はまえ恋人こいびとが殺されるのだって大好き、私はほか植物しょくぶつが死ぬほど大好き、私はたかところからりるのが大好き、私はふかあなそこを愛してる、私は太陽たいようびるのが好きでした は は はは ははははは は は ははは ははははは はははははははは なにこれ? は ははは 笑える 笑える なに? はは いつ 思い出したって は 笑えるわ 笑える いつ思い出しても笑えるよ ははははは ははははははは ははははは ふ ふふふふ うふ え? え? なによこれ 笑えるんだけど なになに? え? 私は太陽たいようびるのが好き? 私はほか植物しょくぶつが好き? え? ん? むふ ふふ 多分たぶん これで一生いっしょう笑えるよ 一番いちばんわらばなし はらがよじれるおなかいたいよー はは ふー あ はははは だ だめよ だめだめ 思い出したら ふ ふ むふ ふふふふ あはあは あははははは た 多分たぶんさ 私のウエストがくびれてるのは このせい 絶対ぜったい いつからか筋肉痛きんにくつうなおらない お おなかがずっといたいのよ ふふ んふふ いきができない はーはー たは はは ふー ははははは おかしい 笑える く くるしー 中身なかみが出ちゃう はらわたが出ちゃうー」


 魔女は大きく口をけ、ケラケラと笑い続けた。目尻めじりげて、かた目蓋まぶたじて、なみだこぼしながら、はらかかえ、声を裏返うらがえらせて、やがてってられず、両膝りょうひざ地面じめんいて、空に向かって笑い始めた。のどおくさらして、痙攣けいれんするように、顔をにして、あせさえいて、そのうちに魔女はまるめ、はらかかえたままコテンとうつせにたおんだ。それでも笑いはおさまらず、魔女は身体を痙攣けいれんさせ続けた。声はかすれ、息はえで、時折ときおり悲鳴ひめいみたいな、あられもない声をはっしていた。そのうちに笑い声はおさまっていったけど、魔女はまるで事切こときれていくかのように、痙攣けいれんしてはおさまるを、しばらく続けていた。痙攣けいれん完全かんぜんおさまると、ほたるたちが一斉いっせいに魔女にむらがりはねやすめた。ひかりまれ、魔女はまるで地面じめん一体化いったいかしていくように見えた。魔女は死んでしまったかのようにピクリとも動かない。

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