サドリカ姉妹しまいのところをあとにしてから、ミュートは口数くちかずは少なかったけど、ずっとおこっていった。ミュートは、帰りの案内あんない使つかいを出すというユスリカのもうことわってしまい。僕たちは、散々さんざんまよった挙句あげく宿やど辿たどいた。僕は、もうミュートの心をしずめるにはねむりしかないと思って、今日は早く寝ようとミュートに言った。そうして早めにとこいたけど、僕たちは満足まんぞくねむることができなかった。その夜、僕たちは寝込ねこみをおそわれ、またも袋叩ふくろだたきにされたからだ。今度はサドリカ一味いちみにではなく、町の警備隊けいびたいに。


 ミュートはそのまま警備隊けいびたいられ、僕はあたまなぐられ朝まで気絶きぜつしていた。朝、目覚めざめるとつくえうえ置手紙おきてがみがあった。それにはこう書かれていた。


  サンデーくんとかいったかな? 夜中よなかにノックもせずに失礼しつれいしたね

  むすめの命がしければ、ぞくどもの居場所いばしょを教えてくれ

  すまないが、今度はきみが私のところに足をはこんでくれたまえ

  私のまいは、町の住人じゅうにんにでも聞いてくれ

  この町の住人じゅうにんはみんな親切しんせつだから、こころよく教えてくれるはずさ

  昼になれば、むすめの命はないものと思え

  まあ、それも無駄足むだあしになるかもしれないがな

  このむすめいため付けて、ぞく居場所いばしょかせてやる

  これは砂崩すなくずしだ、そしてこれは競争きょうそう

  棒切ぼうきれのたおれるのが早いか、きみ棒切ぼうきれれをひろい上げるかのな

  いいか、時間になったら、容赦ようしゃなく棒切ぼうきれをへしるぞ


                    フェイス・クオーター


 僕はすぐに出発しゅっぱつしようとけんさがす。でもどこをさがしてもけん見当みあたらなかった。きっとやつらが持っていったんだ。それにミュートのリュックも普段着ふだんぎもなくなっていた。

 丸腰まるごしでなんとかなるだろうか、と考えてそこで思い出す。ミュートから爆弾ばくだんの魔石を1個だけわたされていたことを。こしのポーチを見ると、持っていかれてはいなかった。やくに立つかは分からないけど、武器ぶきがあるってだけで心強こころづよい。


 僕は宿やどあとにして、町長のまいを聞こうと、さっそく道行みちゆく人に話し掛けた。すると突然とつぜんうしろから誰かにばされて、僕は地面じめんたおれ込んだ。そしてすぐさま大勢おおぜいかこまれ、なにかでなぐり付けられた。


 最初、警備隊けいびたいやつらかと思った。でもちがった。僕をかこんでいたのは町の住人じゅうにんだった。みんな長い警棒けいぼうのようなものを手に持っていて、それで何度なんど容赦ようしゃなくち付けられて、僕はを起こすことさえできなかった。知らないからだ。みんな知らないんだ、僕がよろいだって。僕がいたがっているのを演技えんぎだと思っているんだ。嘲笑あざわらいながら、何度なんど警棒けいぼうを振り上げる。身体が所々ところどころへこんでいくのが分かる。次第しだい熱狂ねっきょうしていく。みんな、まるでスポーツでもするように顔をきさせている。誰が一番いちばん最初に僕にあなけるか競争きょうそうしてるんだ。


 ダメだ……僕はこのまま、ここで殺される……。そうなったら、ミュートも殺されてしまう。そう思って足掻あがいても、あらしみたいなち付けに、うで一本いっぽんさえ上げられなかった。……ごめん、ミュート……。


 僕は大馬鹿おおばか野郎やろうだ。ミュートを死なせてしまうってのに、こんなことを考えてしまった。こんなことなら、ダメもときって言いたかった、なんて……。

 ……ごめん、ミュート……僕に付いてきたばっかりに……。

 突然とつぜんあたりがしんとして、ひかりし、ち付けもピタリとやんだ。……おむかえが来たんだと思ったけど、ちがった。僕はまだきていた。それに、聞こえてきたのは、どちらかというと悪魔あくまりの声だった。


「んだ、おめえはよお? よろいてるくせに、ギャンギャンわめきやがって! 敏感症びんかんしょうかよ! だはははははは!」


 顔を上げると、そこには刀剣とうけんかついだミミクラが立っていた。そのまわりには手下てしたもいる。僕をなぐっていた連中れんちゅうや町の人たちは、ミミクラたちから距離きょりを取って、遠くに離れていた。


「しかし、奇遇きぐうだなあ、昨日きのう今日きょうでよお。あたしらはいまから、町長の野郎やろう喧嘩けんかけに行くんだよ」


「……おねがいだ……町長の居場所いばしょを……おしえて」


「はっ! 知ったことか! まぁあ、いてくんのはおまえ勝手かってだがよお」


 そう言ってミミクラは、手下てしたれて走り出した。僕はなんとか立ち上がり、そのあとった。ひざがガクついて、くような思いだったけど、そんなのかまっていられない。

 走り出しほどなくすると、ミミクラは速度そくどを落とし僕のそばにって来て、まえいたまま話し掛けてきた。


「おい、おまえ一応いちおうあやまっておくがよ。おまえらがおそわれたのは、ユスリカが町長の野郎やろうどもに密告みっこくしたからなんだ」


「え? なんで……!」


「あいつらはなくって言ってな」


「でも、どうして?」


「ああ?」


「どうして、きみは僕をたすけてくれたの?」


「だはは、さぁな。あたしのせいで、ユスリカとおまえらがケンカになったんだ。そのびだとでも思っておけよ」


「ありがとう」


「うるせえ、だまって付いてこい」


 ミミクラはそう言って、走る速度そくどを上げた。僕もそれに必死ひっしに付いていく。足をたび右膝みぎひざがグラグラして、背筋せすじこおる。だけど、走れるだけ幸運こううんだ。僕には、あしがなくなろうが、ってでも行かなくちゃいけないところがあるんだから。僕は本当に幸運こううんだ。僕は一度いちど、ミュートのことをあきらめたんだ。死なせてごめんってあやまった。そんな僕にチャンスがめぐって来たんだ。死んでもミュートをたすけなきゃ。じゃなきゃ僕は、このまま一生いっしょうからっぽだ。

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