複雑な想い
「なあエミル。明日はサザー街に行かね?」
「どうして?」
珍しくナユタがボクを街へ誘ってきた。
ナユタは『ワープ』でちょくちょく街に赴いているらしい。
曰く、「ギルドが『ワープ』じゃなくて俺のユニークスキルって言いふらしてくれたからいつでも街に行ける様になった」との事。
ギルドはナユタに甘い。
こうやって際限なくトンデモなことをやって、結局「ナユタだから」で済まされて、またトンデモな事をやらかす。
まあ、それはさておきナユタの意図がわからなかった。
ナタリアを誘ってどこか出かける、なんて事すらしないナユタが何故ボクを誘う?
いやボクの預かり知らないところで逢引しているかもしれないけど。
「食料品の調達。この村の材料は確かに一級品だが、限度がある。特に調味料にレパートリーが乏しい。んで、『鑑定眼』持ちのお前とそういった珍しい材料の目利きがあると助かる」
「もちろん、ナタリアも一緒だよね?」
「えっ? いや誘うつもりはないけど……」
「ナユタ、そういう哀れみはかえって人を傷つけるのだと忠告しておく」
これでも泥臭い人間関係の下に成り立つ貴族という世界に二十二年も身を置いていたのだ。
ナユタらしい、残酷な優しさが返って辛かった。
彼なりの気遣いから来るお誘いなのだろうが、そういった悲しい優しさは辛い。
「……ああもう! 倒くせえなあ! そもそもてめえに拒否権はねえ!!」
そう。それでいい。
ナユタは自分が決めた事を誰かの顔を伺うような人ではない。
「ちゃんとナタリアに事情を説明すること。もし付いて来ると言うなら受け入れる事。これが条件」
「……ちっ。最近のエミルはなんかやりづれえ」
伊達にナユタより四年も多く生きてないからね。
特に君のようなわかりやすい少年の考える事ぐらい手に取るようにわかる。
……。言い換えれば、先のお誘いはナユタからのデートのお誘いだ。
けれど、ボクはそれを受け入れるべきではないと思った。
もちろん今でも、いやナユタとナタリアが恋仲になったと知ってもなお色あせるどころか膨らむこの気持ちは、むしろ本物なのだとはっきりと自覚した。
だから、その優しさを受け入れてはいけない。
そしてナタリアも<英雄>の仲間として、そして同じ女性の友人として大切な存在だ。
きっと彼女なら、ボクとナユタがこっそりデートのような事をしても、笑って許してくれるだろう。
でも何も感じないわけがない。
確かに明確に恋仲となっている今だからこそ、不安な部分もあるだろう。
最近の積極的なアプローチがそれを現している。
だからボクは愛する人と、大切な友人をボクは見守る事にしたのだ。
まあ、今はね?
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