ナタリアから学ぶ「エルフの保健体育」
「はい、ということで――」
「はい、ということでこの話は終了とする」
ナタリアの訳わからん授業を何故聞かなければならない。
そもそも保健体育って、こいつほんと、なんだろうなあ。
「いやいや私も結構本気よ? 『人間』と『エルフ』が本気で交際しているのよ?お互いきっちり、種族の壁を乗り越えないといけないと思うの」
「俺は普通の『人間』より五倍は生きるけどな」
「だとしても! 『エルフ』の寿命以下でしょ? そもそもナユタの寿命五百歳が本当なのか怪しいし」
「……。まあ、うん。エミルの眼でも正確にはわからんらしいしなあ。で、今日は何が言いたい。どうせ性欲関連だろ?」
「ええ、そうよ! 何が悪いの!? むしろ私は悪くないと主張したいがために説明がしたいの!!」
開き直るかー。
まあ、ナタリアの指摘ももっともで、どこぞも知らぬ奴に「五百年は生きます」なんて言われるのを素直に信じるのも迂闊すぎる。
そして種族として確実に千年は生きるエルフと、真剣に交際を続けるのであれば無知は罪だ。
「私も『人間』を色々調べました。その結果、『人間』と『エルフ』の違いにわかったことがあります」
ナタリアは真剣な顔をして、その結論を口にするのを渋った。
言いたくない、そんな表情をしつつも淡々と言葉を発した。
「……女性は『人間』も『エルフ』も、初潮の時期は同じです。十五歳までにはおおよそ迎えてます」
「はあ……」
「一方、男性は『人間』は十五歳で半数が精通を迎えます。しかし『エルフ』は二百から三百歳が精通時期とされています」
「はあ……」
もう俺、はあ、と言うしかないけど、それで何が言いたいの?
「おかしくない!? 『エルフ』の女は十五歳前後で子供作れるのに、男性は早くて二百歳って!! 欠陥しかないわ! そりゃ生理とか辛いけど、同じぐらい好きな人の子供欲しいわーっていう性欲的なものもっちゃいますし? 二重に辛いんですけど!!?」
「お、おう」
「私はまだ処女だし? 性欲に溺れてエルフの里から出たわけじゃないし? 全然いいけれど? でもエルフが人間の生活に混じるのって『性欲に負けて里から下りてきた色狂い』って言われてるのよ!? そうよねえ、『エルフ』はあと二百年レベルで性欲我慢する必要あるものねえ。なら『人間』とやっちまおうって思っても仕方なくない!?」
「落ち着け。ただでさえ最初から『エルフ』ってキャラがぶれてるのに、ナタリアてめえ誰だ感が増してるぞ」
「辛かったよぉ……。剣技だけで自立していこうって決めて冒険者になったのに、ずっと私の事を『そういう目』でみられてたんだよ……」
「いやナタリアの場合、普通に美人なだけだろ」
ナタリアの言うような「色欲に溺れたエルフ」って見る奴はきっとどうしようもない連中だろう。
それ以上に、ナタリアは冒険者として、剣士として美しかった。
そこに性欲を抱く余地もなく、ただ美しかった。
「変な話だけど、ナタリアが『エルフ』じゃなくても、その時は同じように見られてた、と思う。少なくても俺は『エルフ』だからナタリアに惚れたわけじゃない。種族とか出身とか、そういうの関係なしに、ナタリアに惚れた」
「うん、知ってる。ナユタが『性欲墜ちのエルフ』として私を見てたら、もうずっと前から私を抱いてるもん」
「おい辞めろ。抱かない理由はそこじゃねーし」
「……抱いて欲しいっていう気持ちは強いんだよ。性欲からかもしれないし、ごく普通に愛して欲しいって気持ちもある。でも、あえて優しい関係が続いているのも嬉しいって思ってる」
「結局何が言いたんだよ」
「何人子供欲しい?」
「……。おい」
「いえ、結構真面目な話よ? 『ハーフエルフ』なんていう伝説的な存在がいるらしいけど、『エルフ』が生んだ子は『エルフ』なのよ。ナユタと私の子はほぼほぼ『エルフ』よ。私がナユタの子をいつ産むか、何人欲しいかって、人生設計として本気で考えて欲しいの」
だって、どうがんばっても私より先に死んでしまうんだから。一緒に子と孫に囲まれる幸せな時間は違うんだよ?
なんてちょっと寂しそうな顔をして。
「ほんと、色々生物としておかしいわ。……、男と女、せめて一人ずつ欲しい。男は俺みたいな荒っぽいガキに育てる。『英雄』が継がれるかわからねえけど、普通に強い男になって、ナタリアみたいな美人と結婚して欲しい。女は……、やべえ俺とナタリアの子だろ? 見た目だけの高飛車女しか想像できねえ」
「やめて! 実は私もそう思ってた!! ナユタの荒っぽさと私みたいな欲に負けない子にしましょう!?」
「そだな。うん、がんばろう」
「だから、まずがんばるのは」
「俺じゃねえよ? がんばるのは我慢するお前だよ!」
保健体育からの、お互いの人生設計を立てる。
いや、頭ではわかっていたけど結構辛そうな感じだな。
「別に子作り目的じゃなくても」
「うっせえ!!」
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