幕間その2
セレンって何者?
「あ、いらっしゃいませナユタ様」
メイド服のセレンが笑顔で迎えてくれた。
え、なんで?
俺はセレンにすっげえ嫌われてたんだけど?
「なんで、ですか。旦那様のご友人を持て成すのは当たり前だと私は認識しておりまして……」
セレンは故郷では名高い家政婦の出自らしい。
ただ、その生まれ故に見知らぬ誰かに尽くすのが嫌で逃げ出したらしい。
しかし今は尽くすべき人、つまりアルとロロイナの為にメイドをしている、らしい。
今までも家事炊事掃除が出来ないふりをしていたそうで。
料理は俺と同じくアルの趣味なので基本的には譲っているそうだが、一日三食三人分となるとアルの腕では賄いきれないので、セレンが作っている。
ロロイナには時間を見つけては最低限の家事を教えているそうだ。
「ですが申し訳ございません。アル様とロロイナ様はただいま外出中でして。恐らくあと一時間もしない内に戻られると伺っております。差し支えなければ私の紅茶で一服し、お待ちいただけないでしょうか」
「ああ、いい。お構いなく。どうせ近所だ。アルが帰ってきたら俺が尋ねてきたって伝言してくれ」
「はい、畏まりました」
いやキャラ変わりすぎだろ。
このショートボブのピンク髪女がニコニコと俺に笑顔を振りまくの、すっげえ怖いんだけど。
「てな事があってな。セレンって何者なんだよ」
俺の家のリビングにアルを招き、軽く雑談、と言う名の探りを入れる。
「実は僕もまったくわかってないんだよねえ」
「おい家主、それでいいのかよ」
「うーん、なんていうか、ナユタよりマシかなって思ってて、感覚が麻痺してるかもね」
「おい」
「いやだって、美人のエルフが恋人なのに結婚もせず、公爵の令嬢に好意を持たれても何一つ間違いがないヘタレより、昔から大好きだった幼馴染と結婚した僕はむしろ凄くない?」
「やめろ、普通に傷つくわ」
「傷付いてるのはナユタだけかい?」
「ほんっとやめて。この関係結構マジで辛いんだって。ほんっとやめて」
「まあ兎も角、メイドとして僕とロロイナのために尽くそうとしてくれるセレンを拒む理由はないんだよね」
「……セレンはあれでいいと思ってるのか?」
「それを決めるのは本人だけだよ。セレンは僕らに尽くすと言って、幸せそうにしている。それを拒む理由がどこにもないよ」
「まあ、そりゃそうだけど」
「尽くされる本人、つまり僕らですらセレンの考えがわからないし何か咎めたってセレンの気持ちは変わらないよ。なら、後は受け止めるしかない」
「さいですか。せめて俺に包丁突き刺そうなんてしないようにしてくれよ?」
「今のナユタに包丁持って何ができるのさ。セレンはそこまで考えなしじゃないよ」
「ほんとか」
「……うん、たぶん、きっと」
「不安そうに言うのやめてくれ」
「時々セレンは自分の身を捨てるような言動してるから、正直なんとも」
「それを止めるのが主人だろ。ほんと頼むから手綱握っててくれよ。俺だって刺されたくない」
「善処するよ」
ダメだ。セレンが暴走した時、誰も止められない。
何が一番怖いって、普通の人間だからだ。
俺たちがその気になれば幾らでも抑えられるが、それでも暴れようとするセレンの気持ちを止める事は誰にも出来ない。
爆弾がまた増えてしまった。
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