Lv1のポンコツ『賢者』はまさに『賢者』だった

 変な雰囲気になってたが、気にせずエミルに質問する。


「レベルは1だろうからそこはスルーしとく。『賢者』の恩恵でどこまでスペルが使える?」


「初級の攻撃スペルは全部。回復スペルは『フルヒール』程度の効果までなら使える」


「「「は?」」」


 魔法師は攻撃スペル専門のクラスだ。

 なのに何故回復スペルが使える?

 いやさっき殴る前に回復スペル使えるとか言ってたな。

 デバフ付与しといたから万が一にも発動はしないと思ってあまり気にしてなかったけど、あれマジだったのか。

 しかもフルヒールって回復スペルの最上位スペルだぞ。


「ボクは天才なので。クラス補正なんてなくても回復スペルぐらい使える」


「いやそれマジで天才かよ!?」


「ギルドの人に聞いた。ボクの回復スペルはオリジナルだって」


 オリジナル。それはクラス補正も、そこから恩恵を受けるスキルやスペルに該当しない、まさに個人が生み出した専用の技術だ。


 俺の『マルチウェポン』も限りなくオリジナルに近しいらしいが、条件を満たせば再現可能とのことでオリジナル認定はされてない。


「まあ自慢げに言ったけれど、普通の回復スペルと大差ない」


「十分凄いっての。てことは回復師をセカンドクラスに取る意味ないのか?」


「そこは今後決める。ボクが出来るのはヒール関連に近しい全てのスペルの模倣。回復師の支援スペルは使えない」


「さ、流石にオリジナルスペルを量産するってこと、ないわよね?」


「わからんぞ? そもそも神位持ちじゃ。ナユタみたく化け物になってもおかしくなかろうて」


「おいそこ。ひっぱたくぞ」


 エンブリオとナタリアが陰口を叩いてたので脅しておく。


 しかし、言動といい今日から冒険者はじめる22歳児と侮ってたけれど、確かに素質はあるかもしれん。


「よし、ちょっと街の外にでるか。お前の『賢者』の凄さを教えてくれ」


「ん。ボクの天才的なスペルを見せてあげる」





 ジャイアントワーウルフの討伐を請け負ってるのでさっさとナナシー村に帰りたいが、『賢者』なんて爆弾抱えたら帰るに帰れない。


 俺らは街の外の荒野で、俺とエミルで簡単な模擬戦を行うこととした。


「俺からは攻撃しない。けど防御はする。お前の勝利条件は俺がダメージを受ける事、お前のMPが尽きること。敗北条件はMP残しておいてギブアップすること。オーケー?」


「問題ない。ボクを見くびりすぎる」


 さて、ガチの初心者冒険者にスペル使いの辛さを叩き込んでやる。


 スキルはスキル名を口にすればSPと交換で即時発動が可能だ。

 SPが減っても行動に制限はないし、仮に0になってもスキルが使えないだけで普通に戦える。


 一方スペルは発動予定のスペルに相応する魔力を練り、スペル名を口にし初めて発動する。


 スキルのほうが取り回しがいいと思われがちだが、スキルはクラスの恩恵ととスキルのレベルと自身の身体能そのまま威力や効果に繋がっている。

 要はスキルの威力調整ができないのだ。


 スペルは前提条件の魔力を練るというところにメリットがある。

 例えば同じスペルでも、最低条件の魔力を込めるか、増して魔力を練るかの選択ができる。

 当然込めた魔力が多ければ威力も効果を高い。

 もちろん魔力を練るために無防備を晒すためパーティに所属し、俺らみたいな前衛がいる事が前提条件だが。

 つまりスペルは条件さえ揃えばスキルではできない威力調整を自由にスペルでは可能なのだ。


 スキル使いにはできない芸当なので、エンブリオやナタリアはスキルのレベルを上げ上位互換のスキルや複数のスキルをを取得する為に努力する。


 しかしスペルなら初級スペルでも渾身の魔力を込めれば上級スペルと相違ない威力が出せるのだ。

 とはいえ魔力を限界まで搾り出すのは容易ではない。

 一人前のスペル使いでもMPの残り3割を切ると集中力が切れ魔力は練られず、簡単な初級スペルを行使しようとすると激痛が走るとの事だった。


「では、開始!」


 ナタリアが模擬戦開始の合図を出す。

 俺はあくまでエミルの『賢者』がどれほどか気になっているだけだ。

 駆け出しの冒険者の実力には期待していない。

 ただ棒立ちでエミルの動きを観察する。


「『ファイア』、『アイスランス』、『ストーム』、『クエイク』、『ライトニング』、『ダークアロー』」


 エミルがスペルを口にすると6属性の初級スペルが発動し、すべて俺を目掛けて放たれた。


 平行詠唱。複数のスペルを行使するため、同時に別々の魔力を練る技法だ。

 これは超高位の技術だ。これはクラスの恩恵でもスキルやスペル、それどころか『賢者』の効力でも会得できない完全なる自力の技術だ。

 理屈は簡単、だがその芸当はスペルではなくスキルに近い。

 魔法師はスペル専門。スキルは覚えられないし、編み出してもクラス効果として世界に認められない。

 よって平行詠唱は地道な努力と個人のセンスによって得られる技術なのだ。


「『マルチウェポン』 『大斧』!!」


 しかも込められていた魔力は一般的な冒険者とは比べ物にならなかった。

 油断していたとは言え、このまま全部のスペルを食らえば流石の俺も無傷ではいられない。

 そもそもこれほどの魔力量を持っているのが想定外だ。

 そしてこの威力の魔力を練る早さも賛辞に値する。


 付与師のスキルで『対魔』と『斬魔』を付与した大斧で発生から俺への到達が早い『アイスランス』と『ダークアロー』を一薙ぎで斬る。


「『短剣』『小太刀』!!」


 同じく『斬魔』を付与した武器を両手に持ち、『英雄』の効果で二刀流スキルを再現し残り四つのスペルを斬った。

『対魔』の付与をしていなかった短剣と小太刀の刃は少しこぼれていた。


「ふふ、ボクの勝ち。今のボクのMPはゼロ」


 エミルはそう誇らしそうにすると、MP枯渇の所為で気を失った。


 俺ら3人は息を呑む。


『賢者』やべえ、と。


 これが今朝冒険者になった奴の実力かよ。

 今一層、エミルの自慢癖を矯正する必要があると認識した。

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