リーダーのお願い
俺はスペルが使えないので、エミルがあの6つのスペルにどの程度の魔力を込めたかはわからない。
だが色々規格外なのは十分理解できた。
そんな規格外のMPがどれほどの休息で回復し目覚めるのか俺にはわからん。
一時間程度かもしれない、なんなら数分で目を覚ますかもしれない。
だが最悪は数日寝込む可能性もなくはないという事だ。
俺は六年冒険者やってきてるが、よくよく振り返るとスペルに関しては頭でっかちな部分がある。
まあ体感できない以上、調べるか誰かに教わるしかないので仕方ないといえば仕方ない。
仕方ないよな? あれ? そういやスペル職とまともにパーティ組んだことねえわ俺。
まあ、エミルの件は一旦保留としよう。
目が覚めるまでサザー街で過ごすしかない。
とはいえ、目下一番優先しないといけないのがギルドクエスト『ジャイアントワーウルフ』の討伐だ。
本来なら今日馬車をかっ飛ばし、念のため休息を取り、明日には狩りに行く予定だった。
それなら狩った次の日にでも一人でサザー街に戻り、報告すればそれで万事解決、の予定だった。
「……俺、一応<英雄>のリーダーでいいんだよな?」
「何を今更、ナユタ以外ありないでしょ?」
「じゃあさ、リーダーとしてお願いがあるんだけど、今日一日エミルの介抱を二人にお願いしていい?」
「えっ、急になんでしおらしくしてるの? さっきのエミルとの模擬戦でなんか変なデバフ食らった!?」
「うるせぇよ。で、どうなの?」
「いつもなら『デブエルフ、そこのポンコツ賢者のお守りしとけ!!』っていうナユタが私らの顔をうかがうの!?」
「日頃の行いのせいじゃな。まあもちろんよいぞ、リーダー。して一応聞いておくが理由は?」
「助かる。理由はこれの討伐に行くから」
クエストも受けた際はギルドカードのように他人に見られないようプロテクトがかかる仕組みになっている。
ただしパーティとして受けた場合は別だが、この件はあくまで個人で受けているに過ぎない。
ギルドクエストの閲覧権限を限定付与し二人に見せる。
「なるほど……ナナシー村周辺に高レベルのモンスターが群がってるのはこの所為なのね」
恐らく魔獣増殖の陣でこいつも沸いてしまったのだろう。
陣自体は破壊したが、結局ジャイアントワーウルフの瘴気が原因で、完全なる解決にならなかったと推測している。
「てことで、こいつを狩ってくる」
「ちょっと待って。確かに<英雄>に入るのは隠れ蓑にするからって言ったけど、私だってナナシー村の一員よ? 私も参加する。別に報酬なんていらない」
「ナタリア、止してやれ。気持ちはわしも十分理解できる。じゃが、おぬしはナユタを知らなすぎるのじゃ」
「それってどいう」
「わしらはな。足手まといなんじゃよ」
「いやいやそこまでは思ってねえよ! 無駄に俺の心痛めるのやめて?」
「『クエスト報酬欲しいんだろ。死にたくなきゃ後ろで見てろ』」
「ぎゃー! やめてくれ!!」
「『パーティは組んでやる。だが俺だけで十分だ。邪魔だからここで焚き火でもしてろ』」
「俺が俺の過去に殺される!!」
「今の言葉って」
「わしのパーティに入った頃のナユタの言葉じゃな。加入から崩壊までの二週間で数々の痛々しい言葉を残してくれたのう」
「髭親父てめえやっぱあの時の事まだ恨んでるだろ」
「さあ、どうじゃろ」
「くそっ」
ばつが悪い。
あまり思い出したくない十二歳の頃の記憶をえぐられ、戦う前に殺されそうだ。主に心が。
「……ナユタってあんな風にすねるんだ。可愛いかも」
「おいデブエルフ候補なんか言ったか」
「いえ何も?」
「帰ってきたらデバフ全力で付与してアイアンクローしてやるからな」
「顔はやめてまだ辛うじて昔の面影があるんだから!! せめてこの贅肉を殴って!! ついでにデバフで脂肪削ってくれないかしら!?」
「……冗談はさておきだ。まあ、その、なんだ。改めてパーティ組んだし、ちゃんと説明する」
一員のエミルは気絶してまだ地面に突っ伏してるけど。
MP0の気絶って荒々しい地面に顔面こすり付けても目覚めないのな。
勉強になった。
「場合によっては、俺は奥の手を使う」
「……嘘つき。強い理由を嘘偽りなく話すって昨日言ってたのに」
「『英雄』以外については聞かれてなかったから、とまあちょっと前だったらそう返してたけど。これは俺なりの誠意と思って欲しい」
「わしもナユタに昨日の説明以上の何かがあるのは初耳じゃ」
「この奥の手は、正直誰にも話したくない。理由は単純に、隠しておいてこその奥の手だからだ。そして、この奥の手を使った場合、恐らく味方を巻き込む可能性もある。特に洞窟っていう閉所だから余計にだ」
他にも理由があるが、特にこの二人には話したくなかった。
今更俺が馬鹿げた能力を使ったとしても、有象無象は『英雄のナユタ』で話がある程度納得されるだろう。
大体今の俺の評判は尾ひれが付きすぎて実際の俺より遥かに強さを盛られてる。
しかしエンブリオとナタリアは違う。
ナタリアは昨日からだが、二人は俺の強さを正しく認識している。
だからだ。この奥の手は明かしてはいけない。
なぜならこの奥の手は『勇者のスキル』だからだ。
バカ勇者に恩義はない。
だが正直な話、同情はしている。
『勇者のスキル』があまりにピーキーすぎて、きっとあのバカは苦労してたんだろうなってのは察しがついてた。
それを今この二人に話したら、勇者を見限って悠々自適な生活をしている事に後ろめたさを感じる可能性がある。
そもそも二人が勇者パーティ抜けた原因は俺だし。
「まあ、そういう事で今回だけはこのまま個人的なクエストとして欲しい。次からはまずちゃんと相談する」
「わかったわよ。『マルチウェポン』のナユタに討伐できないモンスターなんていないしね」
「わしは自分の懐に一銭もはいらぬなら、むしろ好都合じゃて」
「助かる。んじゃ行ってくるわ」
「えっ、今から!?」
「遅くても夕方までには戻れるかな。ともかくエミルを頼んだ」
「任されたぞ」
「『ワープ』目的座標、俺の家」
勇者のスキルの1つ『ワープ』を使用する。
実際に自分が訪れた場所で、なおかつ具体的な移動先をイメージできれば一瞬で移動できるスキルだ。
これで俺の家を指定し、一瞬でナナシー村に戻った。
さて、久しぶりに本気で戦いますか。
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