規格外のリーダー

「一瞬でナユタの姿が消えた」


「恐らく勇者のスキル『ワープ』じゃな。数回ほど見たことがあるが詳しいことは教えてくれんのじゃ」


「……『英雄』で勇者のクラスまで持ってるナユタにとって、やっぱり私たちってお荷物なのかな」


「さり気なくわしをお荷物にいれるな」


「じゃあ聞くけど、最後に『鉄壁』に相応しい戦いをしたのはいつ頃?」


「…………五年前じゃ」


「私は結局、ナユタのせいで『剣姫』になれなかったわ。もうさ、ナユタ1人でいいんじゃないって」


「事戦いにおいてはな。しかしな、ナユタは最近十八になった小僧じゃぞ。最初は荒れてたが、最近はそこそこ大人しくなっているし、いやむしろ人に接する事を好んでいるように思える」




 エンブリオは振り返る。

 最初に出会った頃のナユタを。

 齢十二の少年がまるで死んだような目をしながらギルドに併設されている食堂で食事をしているのを。


 そして次に見かけたのはたまたまクエスト攻略をしようとした際に偶然出くわしてしまったのだ。


 正直、こいつは狂ってるとエンブリオは思っていた。

 そもそもナユタはまだFランクで、エンブリオたちのパーティが受けているクエストはBランクだ。

 だから、このような「同じモンスターを奪い合う」なんて構図はありえない。

 けれど現実に、Fランクの初心者がBランクが複数名で挑むモンスターを、ソロで討伐し終えていたのだ。


「これ、髭親父のクエスト対象?」


「あ、ああそうじゃ」


「んじゃ、やる。今の俺じゃギルドに報告してもなんも貰えねえから」


「待ってくれ! ちゃんと報酬はやる!! どうせわしらは何もしておらん。クリア報酬全部貰ってくれ!!」


 エンブリオは当時は守銭奴で楽をしたがりの怠惰系ドワーフだった。

 だがしかし、十二歳のFランク初心者が自分たちが複数で挑むべきモンスターを一人、しかも無傷で討伐したことに感銘を受けた。


 ドワーフの長寿故、人生においての生き甲斐というのが枯れ果てていた。

し かし、こんな御伽噺のような事を実際にやってのけるナユタに心を動かされた。

 まさに英雄譚の主人公のようだと。


 その後ナユタの代わりに報酬を受け取り、全てを渡すついでに食事に誘った。

 そして聞いてみた。何故あんな無謀な事をしたのかと。

 したらなんと「いや無謀ってほど強くないだろあれぐらい」と死んだ魚の目をしながら返してきた。

 さらには「もっと刺激的な戦いがしてえ」とぼやいていた。

 その言葉を発した時は一瞬だが無邪気ながら狂犬のように目付きが鋭くなった。


「わしのパーティなら、その要望叶えられるぞ?」


 その後、ナユタはすんなりとエンブリオのパーティに入ったものの、雲行きは怪しかった。

 確かに数々の高難易度クエストをクリアした。

 パーティにおいてクリア報酬の分配は基本的にリーダーが人数分より1人分多く手元に渡るのが通例だった。

 リーダーである以上、単純な戦闘の成果だけでなくクエストの受注や準備、現地での戦闘指示やメンバーの悩み相談諸々と雑務が生じるからだ。


 では、その後のメンバーの分配は戦果によって比例分配となる。

 ここで問題が生じてしまった。


 全部ナユタが1人で討伐するから、報酬の分配方法は事実上崩壊する。極端な話をすれば全部ナユタに報酬のものになり分配も何もない状況だ。


 ナユタが報酬一人締めしていれば、もしかすれば当時のメンバーもやる気を出して研鑽を積んだかもしれない。

 逆にナユタを追い出す事もメンバーのためにはありだったかもしれない。


 しかし「え? 報酬? 俺バカだから計算できねえんで、普通に均等に分ければ?」


 この一言でパーティが崩壊した。

「ナユタをリーダーに!」

 皆がエンブリオをリーダーの地位から降ろし、ナユタをリーダーとして担ぎ上げた。


 理由は簡単。ナユタが勝手にクエストをクリアすれば何もしなくても報酬が与えられるのだから。

 守銭奴のエンブリオは、しかしこれは違うと思った。

 何故自分が冒険者の道を選んだのか。何故こうして身の危険を晒す戦士なのかと。

 そうだ、強くなりたいからだと。


 そこからエンブリオはパーティを崩壊させるべく動く。

 メンバーに脅す、貶す、他に優遇してくれるパーティーを紹介する。最悪本当に実力行使もした。


 ナユタをただの金づるのように扱う連中を淘汰した結果、最終的に誰もいなくなった。

 それはそうだ。そもそも自分の利益が一番で動いてきた結果集まったパーティだ。

 皆が皆、楽して稼ぎたいとしか思っていなかったのだ。


 エンブリオ以外のメンバーが脱退し、たった二人のパーティとなった日の夜だ。

 宿のベランダにナユタが丸く座っていた。


「なあエンブリオ。俺さ、なんか間違えてたのかな」


 少年の頬に一筋の涙が流れていた。

 エンブリオは思った。なんて酷な事をしたのかと。

 自分が楽をしたいからと誘って、後になってそれに集ろうとする連中を追い出し、結果として少年を孤独にしてしまった。


「馬鹿を言え、ナユタが強すぎてAランククエスト受けでもしたら死ぬかも、とかそんな感じでビビって逃げていっただけじゃろ」


 もちろん嘘だ。手回しして追い出さなければナユタ1人にSランククエストを押し付ける気満々の連中だった。


「わしはそんな雑魚ではないからの。何、ナユタは攻撃は凄く強いが、防御はからっきしじゃ。『鉄壁』のわしがいざとなったら盾になってやるぞ」


「…………。頼りにする」


 これがナユタとエンブリオのコンビ結成の成り行き。

 規格外の強さを持つが歳相応の少年と、歳相応の父性を持つドワーフの出会いのお話。

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